第633話 居場所

 早速『クリエイションノート』を使用して、『白金化』のスキルを獲得した俺は、『清塩』を白金化させて、大量に清白金を作り出すと、日本を通ってオルさんのいるサリューンへと行き、清白金とバヨネッタさんの金剛金を預けてきた。



「はあ。どこもかしこも争ってばかりですね」


 日本に戻ってきた俺は、バヨネッタ天魔国の保養施設である温泉旅館にやってきていた。何だか、最近はここが本拠地みたいになっているなあ。


「その争いの導火線に火種を点けた張本人のセリフとは思えないな」


 部屋でテレビのチャンネルをザッピングしていると、どのチャンネルでも世界中の国で三百人委員会やらメイソンロッジズと市民が争っているとの話題で持ち切りだ。沸騰する世界の戦争熱に、俺がそっとテレビを消すと、武田さんがジト目を向けてくる。


「なら、メイソンロッジズの言いなりになれば良かった、と?」


「まあ、選択肢がなかったのは認めるが」


 嘆息をこぼし、こたつに潜る武田さん。


「日本が機能していて助かりましたね。向こうの世界を通って天魔国からサリューンへ行くとなっていたら、数日は取られたでしょうから」


 ダイザーロくんの意見に首肯する。日本でも、鹿島議員ら、メイソンロッジズ傘下の国会議員や地方議員が、詰められていたが、まだそれくらいで済んでいて良かった。国によっては、特に小国と呼ばれるような国では、市民が武力蜂起で国軍と睨み合っている、場合によっては天賦の塔の取り合いで小競り合いが始まっていたりする。


「だけど安心は出来ないよ。向こうの世界が日本以外との取り引きを禁止した事で、日本を逆恨みする国は少なくないだろうからね。日本は地球各国から包囲網を敷かれていると、考えるべきだろうね」


 ミカリー卿の言はその通りだろう。向こうの世界は一丸となって魔王軍と戦争しようと言うのに、こちらは世界に亀裂が走って、今にも砕け散りそうだ。


「で? これからどうするんだ?」


 せんべいをかじりながら、デムレイさんが尋ねてくる。


「素材はオルさんに渡しましたけど、とりあえずの試作品が出来るのに、数日を要するそうで、会議はそれの性能次第なので、一旦お預けとなりました。その間に地下界の攻略を進めようと思っていたんですけど……」


「何か気になるのか?」


「う〜ん。数日なら、地球の勇者に会っておくのも手かな、と」


「ああ、先に地球の勇者を仲間に引き入れて、レベリングしながら地下界を攻略しようって事か」


 デムレイさんは俺の発言をそのように捉えたようだが、俺としては、殺人鬼と仲良くやっていける気がしない。そもそも、魔王軍は既に地球の勇者がどこにいるのか分かったうえで、それを放置しているのだ。となると、地球の勇者が既に魔王に会っていて、魔王に懐柔されていてもおかしくない。殺人鬼の思考なんて、俺には読めないのだから。


 そもそも、何で放置なのだろう? 自分を殺し得る能力持ちなのだから、真っ先に殺していても良いようなものだ。シンヤと向こうの世界で初邂逅した時も、魔王軍はシンヤを殺すのではなく、シンヤを操っていた。となると、魔王にとって勇者は殺すよりも生かしておいた方が、都合が良いのか?


 なんだろう? 魔王と勇者の関係性を、俺は正しく理解していない気がする。魔王からしたら、勇者は勇者コンソールと言う、世界改変を可能とするアイテムの器である。それに対して勇者は魔王特攻と言う能力を持ち、魔王への対抗手段でもある。


 魔王が勇者を討てば、世界は文字通り魔王の手中に落ち、世界そのものを改変され、元いた人間は、その存在自体抹消される事になる。


 これに関して、トモノリは元いた人間を魂に戻し、改変後の世界でやり直しをさせると明言していた。それもその人間に合わせた世界設定で。まさしくゲームの難易度の如く。


 この部分が、勇者とそれ以外の人間の、今回の魔王に対する対応を複雑なものにしている。メイソンロッジズや三百人委員会が、魔王側に付いたのもそれだ。あいつらは自身の能力に自信があるので、魔王が改変した世界後でも自分たちなら上手くやれると確信しての、今回の行動だ。気持ちは分からんではない。自分に才能があると確信が持てていれば、魔王の提供する世界は暮らし易いだろう。いや、才能がない人間にとっても、暮らし易い世界かも知れない。


 魔王だから悪だと断定するのは盲目的過ぎるのか。現在ある既得権益にしがみついているだけなのか。両世界に住む人々が、どのように立ち回れば良いのか、どれが自分たちにとって得なのか、それを考える場面に来ているのだろう。はあ、考える案件が多過ぎる。


「つーか、地球の勇者って、どこに拘禁されているんだ?」


 武田さんが、こたつ布団に潜りながら尋ねてくる。


「あれ? 武田さん、聞いていなかったんですか?」


「こっちの仕事は終わっていたからな。三百人委員会のメンバーの位置とか、やつらのこれまでの罪状とか、ネタが山盛りで、Future World News フル稼働でそこら辺は聞いてなかった」


 確かに、Future World News は今回の件で大活躍だったからなあ。各所からの問い合わせへの対応とかで、それどころじゃあなかったか。


「地球の勇者が拘禁されているのは、南極です」


「…………マジ?」

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