第632話 閉会

『ええ、バヨネッタ様がおっしゃられた通りで、それが我々が魔法やスキルと考えている代物となります。それを鑑みたうえで、精密な魔力生命体である化神族を創造した、カヌスが持つ勇者コンソールは、少なくとも七次元レベルの代物で、そこに魔力を注ぐ事で、八次元の何某かが影響して、確実に魔力生命体を創造する事を可能せしめている。と考えられるのです』


 う〜ん。オルさんの締めで以て、議場は静まり返った。詰まるところ勇者コンソールがなければ、化神族やガイツクールが作れない事が判明しただけだからだ。


『講義の時間は終わったのか? 要するに、どう言う事なのだ? 何が必要なのだ? 何を集めれば良い?』


 ラシンシャ天の言葉に、他国の首脳たちも頷いている。あ、これ、通じてなかったのか。理系の話って、端から聞いていると、呪文にしか思えないもんなあ。


「あ、ええと、その化神族やガイツクールを作れるものが、勇者の中に埋め込まれていて、これを魔王たちは狙っているんです。それで、その勇者の中のものは、勇者が死なないと使えないので、化神族やガイツクールを作ると言うのは、現状、絵空事だと言う話ですね」


 俺の拙い説明で、何とか通じたらしく、各国首脳は難しい顔をする。最悪、勇者を殺して、勇者の中にある勇者コンソールを取り出し、それで化神族やガイツクールを大量生産するか? いや、いくら化神族やガイツクールを大量生産したところで、魔王特攻である勇者と言う存在を欠くと、そもそも魔王軍に勝てなくなる可能性が出てくるんだよなあ。地球の勇者なら殺しちゃっても良いかな? 殺人鬼だし。いやあ、馬鹿とハサミは使いようか。まだその決断をするのは早いな。地球の勇者とは会った事もないんだし。


『なあハルアキ、魔力生命体に拘る理由ってあるのか?』


 そう発言したのは、ジョンポチ帝だった。


「と、言うと?」


『うむ。ここで話を聞いていて思ったのだが、オルバーニュ氏がいるサリューンには、今、魔力増幅器として有用な、エクスカリバーがあり、そして化神族の欠片もあるのだろう? そして化神族やガイツクールを創造するうえでネックとなっているのが、物質としての身体がない。と言う事ならば、そのエクスカリバーを、化神族の身体うつわとする事で、カバー出来ないのか?』


 …………あれ? いけるか?


「オルさん」


 思わず普段の呼び方になってしまった。


『うん。一考の価値あり。いや、今すぐ取り掛かっても良い良案です、ジョンポチ帝。何で想像出来なかったのか。身体がない事が問題なら、身体を与えれば良いんだ。簡単な話じゃないか。流石に完全な魔力生命体である化神族やガイツクール程までの性能は出せないだろうけど、一般に普及させるには上等過ぎるくらいの代物にはなると思う』


「では!」


『これで、魔王軍との戦争に希望が持ててきたね』


 それなりの代物が手に入ると分かり、各国首脳もホッと胸を撫で下ろす。地球との共闘が難しくなった現状、こちらの世界の戦力アップは必須だからなあ。しかし、一番現状を理解していたのが、この場で一番幼いジョンポチ帝とは。いや、若さゆえの柔軟な発想ってやつかな。まあ、俺もまだ十代なんだけど。


「では、すぐに清白金を作れるよう準備をして、サリューンへ送りますね」


『ありがたい。清白金を作る工程を省ければ、その分、性能の高い魔導具を開発するのに時間を充てられるからねえ』


 ニコニコなオルさん。多分俺も同じ顔をしているだろう。


「あのう」


 そんな俺に、ダイザーロくんが話し掛けてきた。


「結局、俺とカッテナさんが化神族なりガイツクールなりを入手する話は、なしになったって事でしょうか?」


 ああ、そうか。その話からここに着地したんだった。ちらりとオルさんの方を見遣る。


『う〜ん、そうですねえ。最初に言ったように、私個人は良いのですが、ダイザーロ氏の案を採用すれば、確かに更なる時間短縮にはなりますが、それはイコールそちらの時間を奪い、エクスカリバーの生産を一手に引き受け、身動きが取れなくなる事と同義です。バヨネッタ様とハルアキ宰相には、勇者一行と共に、地下界を攻略すると言う、皆さんにしか成し得ない使命がありますし、そもそも巨大宮殿ロボを建造するにしても、まず設計図を引く必要がありますから、すぐにそちらへ化神族をお渡しするのは、躊躇われます』


 成程。


「と言う体で、化神族を手放したくない。と言うのが本音と言う事で合っていますか?」


『あっはは。ハルアキ宰相にはバレバレでしたね』


 笑って誤魔化すオルさん。


「化神族があれば、地下界での活動にも有用ですからねえ。エクスカリバー造りは、その後でも良い訳ですし。とは言え、こちらもここで無理を通して各国からの遺恨を残すのは得策とは言えません。なので、こちらが確保した化神族のうち、ここの二人の分は要求します。ですから、パジャン天国の勇者一行にも、同数のガイツクールを融通してあげる事で、相殺に出来ませんかね?」


『気前が良いな、ハルアキ』


 ラシンシャ天としては、願ってもない事だろう。しかし、東にパジャン天国あれば、西にオルドランドありだ。これにはオルドランドも、それに他の国も良い顔は出来かねるだろう。


「その代わり、エクスカリバーと魔力片で作る新たな魔導具は、他の国に多く融通すると言う形を取りたいのですが」


 ここが落とし所だと思うが、どうだろうか? ビジョンに映る各国首脳の顔を見るに、こちらの言い分は分かるが、素直にそれを飲み込めない。と言ったところか。


「今日の会議はこれで閉会として、今回出た素案を一旦各国で持ち帰り、また明日以降、会議を開く。と言う事でどうでしょう?」


 これに関してはここで即答出来ない問題だ。各国もそれを理解して、本会議は閉会した。

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