第613話 伝説の証明
笑顔でワープゲートへ送り出してくれるガローイン。
「ここまで、ありがとうございました」
そんな彼女に俺は一礼して、最後にワープゲートを潜った。
「おお……」
潜った先は、アルティニン廟の一階奥と同じような造りで、ちょっとした広間となっており、俺たちが潜って来たワープゲートの反対に、更に奥へと続く一本道の洞穴が口を開けている。特に魔物の気配もないので、戦闘の疲れを癒やす為に、俺たちは車座になって休憩を取る事にした。
「忖度されたみたいで、勝った気がしないわ」
カッテナさんが淹れた紅茶を飲みながら、バヨネッタさんが愚痴をこぼす。
「そうですねえ。彼女のスキルなら、『清浄星』内で戦わず、それ自体すらも巻き戻して、あのフロアで戦闘する事も可能でしたでしょうから。そうなっていたら、俺たちはもっと苦戦を強いられていたと思います」
俺の言を厳粛に受け止め、皆が頷く。
「ゲームとは言え、カヌスに勝利し、その直属の配下であるガローイン氏をも倒したとなれば、私たちに相当な箔が付いた事になる。これは今後、地下界、無窮界で行動するに当たって、プラスに作用する事だろうね」
ミカリー卿の言葉に、ストンとガローインの意図が腑に落ちた。
「ブーギーラグナ、だっけ? この下を牛耳っている魔王って」
エナジーバーをかじりながら、武田さんが誰と問わず質問を口にする。
「そうです。そしてブーギーラグナは強者を優遇するとの話ですから、今回の一件がその耳に入れば、向こうも悪いようにはしないかと」
俺が答えると、腕組みしてしばし黙考する武田さん。
「カヌスは、何で俺たちがブーギーラグナに優遇されるように仕向けたんだ? あいつだって魔王であり、俺たちとは根源的に敵だろう?」
「バァを嫌っているからじゃないか? 弱い魔王は嫌いだと言う話だし」
武田さんに対して、デムレイさんが持論を述べる。
「だが今回の魔王は、六人の魔王の魂を一つの身体に納めた、規格外の魔王だぞ?」
「だからです」
「だから?」
スポドリを飲みながら俺が答えると、武田さんだけでなく、皆が首を傾げる。
「今回の魔王軍との戦争では、この世界━━地上界だけでなく、俺たちの世界である地球までが戦利品となっています」
皆が頷く。
「そしてトモノリの話では、この二つの世界を素材として使って、新しく自分の理想の世界を創り出すとの話でした。それは大魔王の所業に等しいものだとか」
「成程。そうなると、アルティニン廟に引きこもっているカヌスからしても、地下界の他の魔王や大魔王からしても、自分の領域が侵される事になるのか」
武田さんも理解が早い。
「ええ。なのでカヌス的には、今回の戦争で俺たちに善戦して欲しいそうです」
「善戦?」
「ジオの話だと、俺たち人間軍が善戦して疲弊したトモノリ率いる魔王軍を、無窮界の大魔王連合が潰す腹積もりだとか」
俺の説明に皆が顔をしかめる。
「魔王側も魔王側で、内情は複雑って話ね」
バヨネッタさんの言に頷く。実際は善戦よりも、相打ちでどっちも滅んでくれたら最高。って感じだろうけど。
「さ、人心地付いたところで、先に進みましょう」
紅茶を飲み干したバヨネッタさんが立ち上がったところで、皆がそれに続き、洞穴の一本道を進んでいく。
ダイザーロくんを先頭に、周囲を警戒しながらうねる一本道を進んで行くも、特に魔物の気配も罠が設置されている様子もない。ただ長い。だらだらと長く、うねるので先の見えない道を進むと言うのは、何とも警戒心が薄れていくもので、皆静かではあるものの、何とも言えないまったり空気が、パーティに漂っていた。
ここで敵が転移でもしてきて急襲されたら、後手に回ってやられかねないなあ。とは思うものの、まったり空気は拭えず、
「どうやら出口のようです」
先頭を進むダイザーロくんの声に、ようやっと皆は気分を切り替え、地下界が見えてくるのを期待半分警戒半分で、慎重に出口へと歩いていく。
「おお〜〜!」
アルティニン廟、正式名称は
「相当高いですね。下へ降りる為の道なり階段なりもありませんし、武田さん、前回はどうやってこんな高い場所から、地下界へ降りたんですか?」
俺の疑問は皆も同じく感じたらしく、武田さんに視線が集まる。俺たちにはバヨネッタさんのサングリッター・スローンがあるから、地下界へ降りるのも問題ないが、セクシーマン時代の武田さんやら、歴代の勇者一行は、どうやってこの高さを降りていったのだろう。それともペッグ回廊側には下り階段でもあるのだろうか?
これに対して武田さんは口で語らず、指を差してみせた。その方向、竜の口の左隅を見遣ると、何やら褐色の巨大なものが、地下界の地上から、ここ地上界の最深部まで伸びている。それは塔のようにも見えるが、もっと
「顔だ……」
デムレイさんが呟きとともに指差した先には、確かに地上界からにょきりと下方を見詰める褐色の顔が突き出しており、その大きさはアメリカのラシュモア山に刻まれた、歴代大統領の顔岩など到底敵わない巨大な、小大陸程の大きさであった。
そして徐々に現状が理解出来てくる。顔の横には肩があり、そこから腕がこちらへと伸びてきている。そして顔の下には胴体が、そしてがっしりした脚がある。そう、俺が塔だと勘違いしたものは、巨大なあまりにも巨大な人を象ったものだったのだ。それがまさしく地上界を地下界から持ち上げるように支えていた。
「もしかしなくても、あれが巨人の王マーマウですか?」
俺の言葉に武田さんが頷いてみせる。
「ああ。普通はこの巨人を伝って地下界へ降りて行くんだ」
それはそれは。大変根気のいる移動方法だ。まあ、それ以外に地下界に降りる方法がないとなればそうするしかないが。ん?
「普通は?」
「俺たちの場合は、俺が化神族のオルガンと同化していたから、その翼を使って仲間たちを地下界まで降ろした」
ああ、確かにそっちの方が賢いな。
「ほとんど飛び降りたのと同じだったから、後で皆にやいのやいの言われたけどな」
それは武田さんが悪い。ゆっくり降りれなかったのか? いや、この距離だと、ゆっくり降りていたら、地下界に着くまでに魔力が切れるか。
「まあ、俺たちは安全に降りましょう」
と俺はバヨネッタさんへ視線を向ける。
「はあ。仕方ないわねえ」
バヨネッタさんが嘆息こそこぼしたものの、顔は満更でもなさそうに、キーライフルを宝物庫から取り出し、
「待った」
そこで武田さんが待ったを掛けた。これに不服そうに眉根を寄せてバヨネッタさんが武田さんを見遣るが、武田さんの視線は巨人マーマウの顔の方へと向けられていた。
「どうしました?」
「何かが高速でこちらへ近付いてくる」
その発言に、俺たちは素早く戦闘態勢へと移行するのだった。
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