第607話 崩壊都市コース(中編)
爆煙に包まれるバルーン地帯。しかしその中から抜け出すマシンがあった。カヌスのマシンだ。バヨネッタさんのミサイルに対して、ミサイルで迎撃し、爆煙の中でバルーンにタッチしたカヌスのマシンは、その場から離脱し、この場から南へ、東と南西のバルーンを目指して移動を開始した。
これを迎え撃つカッテナさんと武田さんのマシン。カッテナさんのマシンがミサイルを放ちつつ、レーザーカッターと丸鋸で突撃してくるのを、横道に入り込む事で回避したカヌスのマシンは、追走するバヨネッタさんのマシンと合流して、三台となったマシンを嘲笑うかのように、崩壊を続ける都市の道を、右へ左へとすいすい移動していく。
一方ダイザーロくん、ミカリー卿のコンビは、北のバルーンをタッチし終え、北東のバルーンを目指していた。崩壊し、陥没する道、倒壊するビル。徐々に通れる道は少なくなっていく中、このコンビは順調なようだ。
対して俺とデムレイさんのコンビは、中々に苦戦していた。行く道行く道どれも陥没していたり、ビルが倒壊していたりと、遠回りさせられる事が多いのだ。統合されて『虚空』となったと言っても、『英雄運』の悪運は付いて回るようである。それでもなんとか南のバルーンにタッチした俺たちは、更にその先、南西のバルーンを目指す。
俺たちとは違った意味で遠回りさせられているカヌスのマシンであったが、俺とデムレイさんが南のバルーンにタッチしたのと同じ頃、東のバルーンにタッチし終え、追従するバヨネッタさんたち三台の攻撃を躱しながら、南東のバルーンを目指していた。
そんな中、南西のバルーンを目指して右往左往していた俺たちの前を、ふわふわと揺れるバルーンが北に向かって漂っていた。九つ目のバルーンだ。
『やったな!』
『運が良いやら悪いやら』
デムレイさんと念話を交わしながら、目標を北へ流れるバルーンに直ぐ様変更。方向転換してこちらも北を目指すが、そんな俺たちの行く手を阻むように、道が陥没していた。
『ここは強引に行くぞ!』
とデムレイさんは俺の返事を待たずに、俺のマシンにクレーンのフックを引っ掛けると、陥没した道の向こうへと投げ飛ばした。
やるしかないか! と覚悟を決めた俺だったが、そんな俺を嘲笑うかのように、両側からビルが倒壊してくる。
(あ、これは潰れたな)
と冷や汗がドバッと溢れるが、『瞬間予知』がその予想を上書きする。両側から倒壊するビルが、上手い事両方を支える形になり、『人』の字を作り出して、俺のマシンはその足下に滑り込んだのだ。
(セーフ……!!)
深く呼吸を吐き出しながら、バクバクする心臓を整えつつ、自らクレーンのワイヤーを巻き上げて、強引に陥没して道を踏破したデムレイさんのマシン共々、倒壊したビルの隙間から脱出すると、漂う九つ目のバルーンを追走する。
意外と逃げ足の速い九つ目のバルーンを追っていると、俺たちはいつの間にやら西のバルーン地帯までやって来ていた。うっ、これは南西のバルーンを取りこぼしたも同じだな。そんな事を思いつつ、漂う九つ目のバルーンと西のバルーンにほぼ同時にタッチする。
『どうします?』
『どうしますって?』
『今のうちに南に行って、確実に南西のバルーンにタッチしてから再度北へ向かうか、先に北に行って他のバルーンにタッチしてから、最後に南西のバルーンにタッチするか。今のうちに南西のバルーンにタッチしておかないと、諦める事になるかも知れません』
『成程な』
俺の念話を聞いて、デムレイさんがマシンの向きを南西に向けたところで、南西方面のビルがいくつか倒壊していくのが目に入った。
『北へ行こう』
『ですね』
はあ。これは本格的に南西のバルーンは諦めないといけないかも知れないなあ。そうなるとバヨネッタさんたち妨害チームに頑張って貰わないと、カヌスの勝ちが確定してしまう。
そんな事を思いつつ、俺たちが西のバルーン地帯から北へ進路を取り、移動を開始した時点で、ダイザーロくん、ミカリー卿のコンビは既に北東のバルーンにタッチし終え、南へ、東と南東のバルーンへと向かっていた。
対するカヌスのマシンは、南東のバルーン地帯でバヨネッタさんたち三台のマシンに囲まれていた。既に南東のバルーンにはタッチし終えているものの、三台にマシンを囲まれ、その周りをぐるぐる回られて、抜け出せないカヌス。下手に攻撃するのではなく、カヌスのマシンを足止めする事で、タイムアップを狙う作戦だ。
『六識接続』で状況を把握しつつ、俺たちのマシンが北西のバルーンに到着した頃には、ダイザーロくんとミカリー卿のコンビも東のバルーンにタッチし終え、南東のバルーン地帯まで到着していた。
その間、バヨネッタさんの『慧眼』と武田さんの『空識』で先読みされて、南東のバルーン地帯から脱出出来なかったカヌスだったが、事ここに来て行動を開始する。
『! 避けなさい!』
カヌスの狙いは、妨害する三台ではなく、着実にバルーンにタッチして、今クリアに一番近いダイザーロくんとミカリー卿だったのだ。
カヌスのマシンに搭載されたミサイルが、取り囲む三台を越えて、南東のバルーン地帯へ近寄ってくるダイザーロくんとミカリー卿のマシンへと放たれる。
慌ててミサイルを避けつつ、自機に搭載されているミサイルで迎撃する二台だったが、思わぬ奇襲にダイザーロくんのマシンは回避したものの左のビルに激突。ミカリー卿のマシンも、ミサイルの直撃こそ回避したが、ミサイルの爆発で路面が陥没し、巻き込まれてマシンが落下して、その衝撃でシャフトが折れて走行不能となってしまった。
『バヨネッタ!』
『!』
一瞬にして状況が変化し、それに目を奪われたバヨネッタさんに、武田さんからの念話が入り、我に帰るバヨネッタさん。見ればバルーン地帯にカヌスのマシンは既になく、この奇襲に気を取られて、マシン操作が一瞬おろそかになったバヨネッタさんたち三台の間を抜けて、カヌスは西へと走り去った後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます