第605話 最終レース?
バック走で
『あんなのやられたら、このコースは完敗ですね。気持ちを切り替えて、最後のレースに臨みましょう』
俺の念話に、皆が頷く。
歓声の豪雨が降り止まぬ中、カヌスは涼しい顔で茶を嗜んでいた。それに釣られる訳でもないが、こちらもブレイクタイムだ。カッテナさんがそれぞれの前のテーブルに、紅茶や水、スポドリを置いていき、更にラムネなどの甘いお菓子や一口サンドウィッチなどの軽食を用意する。
俺はラムネを噛み砕きながら、それをスポドリで飲み下し、最後のレースに向けて気持ちを整え、そうやってこちらが一通り準備を終えたところで、カヌスが魔改造(自らグリップを付けただけだけど)したスマホを手に取り、最後のコースを選択する。
ピロピロピロと大型ビジョンの画面が切り替わり始めると、興奮して騒いでいた観客たちは、徐々に静かになり始め、闘技場のざわめきが一段落すると同時に、最後のコースが決定した。
スマホの画面に映っているのは、退廃し、今にも崩れそうなビル群。選ばれたコースは、
崩壊都市コースは、ルールが他のコースと違っている。それはコースと言うよりフィールドと表現するのが妥当で、都市は中央に巨大な電波塔を有する碁盤の目状になっており、その中に九つのバルーンと呼ばれるチェックポイントがある。各マシンは都市の中央からスタートし、制限時間十分以内にそのバルーンにタッチしていき、全てのバルーンにタッチすればクリア(ゴール)となる判定だ。
バルーンは中央を東西南北に通る大通りの中間に一つずつ。更に北東、南東、北西、南西の脇道に一つずつ。そして都市を移動するバルーンが一つ。バルーンは直径一メートル程の球体で、同じく一メートル程宙に浮いており、タッチする順番はどのバルーンからでも構わない。
コース名に崩壊都市と冠しているだけあり、都市は時間経過でどんどん都市が崩壊していき、もたもたしていたら、全ての道が倒壊したビルで塞がったり、道が陥没したりして、全マシンがクリア出来ずに終わる、激ムズコースである。
また厄介なコースをセレクトしてくれたものだ。俺たちのカヌスに向ける視線は余程恨みがましいものだったのだろう。カヌスは肩を竦ませ、
「わざとではないぞ」
と自分に非はないと反論してみせた。
これはランダムで選ばれたコースなので、それは分かっているが、コースを選択したのはカヌスなので、心の有り様が顔に出てしまう。
『コースはもう決定してしまったのだから、その良し悪しをここで嘆いていても仕方ないわ。今出来る事をしましょう』
バヨネッタさんの提言に、再度気持ちを切り替え、
『カッテナさん』
俺の念話にカッテナさんが首肯し、リットーさんと席を代わる。
「ほう。ここで選手交代か」
カヌスの呟きは無視して、俺たちはマシンのチューニングに取り掛かった。
チューニングが完了し、八台のマシンはその姿を崩壊都市コースへと現した。
崩壊都市コースに
北へのコースには、カヌスとカッテナさん。東へのコースには俺とデムレイさん。南へのコースには、バヨネッタさんと武田さん。西へのコースにはミカリー卿とダイザーロくん。マシンにはそれぞれの特色が表れていた。このコースはランダム生成されたビル群が、ランダムで壊れていくコースである為、最適解のマシンと言うものが存在しない。それぞれが、これだと操縦し易い。と思うマシンにチューニングするのがベターなのだ。
それでもベーシックなマシンと言うのは存在する。基本を4WDにして、上部を頑強なボディに、ウェポンには崩壊して道を塞ぐビルを破壊する為のミサイルをいくつか搭載し、また前部に射出式ウィンチを搭載する事で、先端のフックをビルに引っ掛けて巻き上げるにより、倒壊したビルを登れるようにする。カヌスのマシンがまさにこれだった。
対してその横に並ぶカッテナさんのマシンはまるで違う。シャーシの上にはボディはなく、ウェポンがこれでもかと搭載され、しかも複数のミサイルにレーザーカッターに大型丸鋸と、武装がむき出しになっている。破壊に特化した仕様だ。このコースでカッテナさんがする事は、崩壊する都市での破壊活動。つまり撹乱係である。最悪このコースで決着が付かず、一勝一敗一分で、次のレースで決着でも構わない。との考えからのチューニングだ。
ダイザーロくんとミカリー卿もカヌス同様4WDで、ミサイルとウィンチを搭載したマシンを採用。他にミサイルの代わりにクレーンを搭載しているマシンもある。これで自マシンや仲間のマシンを吊り上げて、倒壊したビルの向こうや、陥没した道の向こうへ渡るのだ。武田さんやデムレイさんのマシンがこの仕様だ。バヨネッタさんのマシンにはウィンチがなく、ミサイル四発に、巨大レーザー砲が付いている。レーザー砲とミサイルでビルを破壊したり、
俺のマシンはと言えば、形からして他の七台と大きく異なる。俺のマシンは二輪だからだ。前と後ろにマシンより大きな超大口径ホイールとタイヤが横向きに付いており、前後二台のモーターでこれを動かす事で、基本左右に移動する。そしてこの大きなタイヤで、崩壊による多少の凹凸など気にせず乗り越えていくのが、俺のマシンの特徴である。第二次大戦でイギリス軍が開発した、パンジャンドラムと言う兵器を思い浮かべて貰えば、想像し易いだろう。爆雷じゃないから爆発する気はないけど。
各マシンがスタート位置に並び、あとはスタートシグナルが緑になるのを待つだけとなった。
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