第601話 宇宙コースターコース(一)
その後ろには交互にリットーさん、武田さん、バヨネッタさん、ミカリー卿、俺、デムレイさんとなっている。これは運が良いのか悪いのか。
と言うのも、左に片寄っているダイザーロくん、リットーさん、バヨネッタさん、俺は、スピード重視のチューニングをしており、反対に右に片寄ったミカリー卿、武田さん、デムレイさんは、前走と同じく、カヌスの妨害をするようにチューニングされたマシンだからだ。そう言う意味では、遅い右三台に邪魔されずにスピードを出せる左に、スピード重視のマシンが片寄っているのはアリだと言える。
左側のマシンは、それ自体がロケットのような円柱形のフルボディの車体で、前方に四つのタイヤが付いている。後輪より後ろは、実際にロケットエンジンだ。ジェットエンジンじゃないのは、この宇宙コースターコースが、宇宙と言う設定で、空気がないので、周囲の空気を巻き込んで推進力にするジェットエンジンは意味をなさないからである。
見た目に分かるロケットエンジンは全部で三つ。マシン後方に向かって伸びる、大型のロケットエンジンが一つと、その両脇に二つの小型ロケットエンジンが付いている。大型のロケットエンジンは、多段式となっており、途中ショートカットするのに必要なのだ。両脇の二つは最初のスタートダッシュ用である。
他にもマシンの左右に二つずつ噴射口が付いており、ここからも燃焼ガスを噴出する事で、マシンを左右にずらす事が出来る。と言うのも、このコース自体が無重力の宇宙に浮かび、コースは直線のみ。更に路面は磁力を帯び、タイヤもそれに合わせて特注。なのでそれに合わせてチューニングすると、ロケットと同じく燃焼ガスを噴出する事で、左右にマシンの位置を変えるのが最適解となったのだ。
軽量なカウルではなく、全体をボディで覆っているのにも理由がある。このコースには途中にアステロイド帯と呼ばれる無数の隕石群をコースを横切る場面が二度ある。なので軽量で壊れ易いカウルではなく、頑強なボディでマシンを覆う必要があるのだ。
タイヤも前述したようにこのコース特注で、一本道とは言え、ジェットコースターのようなぐにゃぐにゃのコースからコースアウトしないように、タイヤからも磁力を発生させて、コースに吸い付く仕様となっている。
左側のスピード型のマシンに対して、右側のマシンは前走と同じく直方体である。基本的にはコースを塞ぐ事を目的としている。ロケットエンジンは付いていないが、左右に噴射口が付いている。
そしてカヌスのマシン。形としては俺たちのスピード型とほぼ同じくロケットのような円柱形のマシンだが、目に見えて違いがある。先端部分だ。こちらが円錐形をしているのに対して、カヌスのマシンは真っ平らで、そこに無数の
(恐らく先端部分は壊れ難い強化素材で、アステロイド帯の隕石群も、弾くと言うより、砕くように進むタイプなのだろうな)
心の中で独り言ちる間に、文字通り宙に浮かぶスタートシグナルが、左から赤く点灯し始めた。俺はカヌスのマシンの特性を考える事から、自身のマシンをいかにスムーズにゴールまで運ぶかへ気持ちを切り替えて、「ふう」と一呼吸して集中し、スタートへと備える。
スタートシグナルが赤から緑へと変わると、左側のマシンとカヌスのマシンが、一斉に二つの小型ロケットエンジンを点火させて、スタートダッシュを決める。
スタートダッシュはどのコースでも必ずやるので、ここで失敗する愚か者はいない。各マシン好スタートを決めて、スターティンググリッドそのままの隊列でコースを直進していった。
二つの小型ロケットエンジンで最高速度まで達した各マシンは、この二つをパージして、コースを突き進む。隊列に変化はなく、先頭はダイザーロくんで、その右後ろにカヌスが控え、その左後ろにリットーさん、バヨネッタさん、そして俺の順番だ。ロケットエンジンを積んでいない武田さん、ミカリー卿、デムレイさんのマシンは、もう俺たちのマシンを視認出来ない遥か後方へと置き去りにされていた。
直線のみで構成されたコースである為、アクセルは基本固定だ。ベタ踏み全開だとバッテリーが途中で切れるから、そこは注意が必要である。コーナーを曲がる作業がほぼないからか、ダイザーロくんは前走よりも心に余裕がある気がする。マクスウェルの悪魔を従えるダイザーロくん的には、楽なコースと言えるだろう。
と言っても、いきなり天地が逆転する縦一回転のコースに、続いてぐるぐると捻れるように五回も横回転するコースと続き、更にアップダウンと、この宇宙コースターコースには、真っ当な場面が少ない。人によってはRTAに挑戦出来る良コースだが、画面酔いする人からしたら、最悪のコースとも言えた。幸い、俺、バヨネッタさん、リットーさん、ダイザーロくんは大丈夫だが、デムレイさんは苦手なコースだ。『隕星』を持っているのに。
そしてアップダウンの連続から、ほぼ真下へ急降下するコースへ。ここでマシン後部の多段式ロケットエンジンが火を吹く。真下へと長く延びるコースを馬鹿正直に進んでいたら、それこそ馬鹿を見る。このコースは真下へ進んだ後に、同じ距離だけ登ってくるのだ。だから正解は、マシンが真下に向く前に、ロケットエンジンを点火させて、登った先のコースへとロケットの推進力でショートカットする事だ。
まるで深い谷のようなコースを飛び越え、各マシンが向こう岸に飛び移ったところで、多段ロケットの一つ目をパージする。ここまでは差は縮まらず、スタートした時の隊列のままである。
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