第602話 宇宙コースターコース(二)

 深い谷を飛び越えた先に待ち構えていたのは、アステロイド帯である。右から左へと様々な速さで流れる隕石群は、その先のU字カーブから戻って来るコースへと、宇宙スペースコースターコース全体を横切るように流れている。


 その速さはまちまちで、速く流れる隕石もあれば遅くマシンに立ち塞がる隕石もあり、そして多過ぎず少な過ぎない絶妙な数の隕石群が、コースを塞ぐように立ちはだかる。完全ランダムに流れる隕石群は、上手くすれば被弾する事なく突っ切る事が可能だが、大抵は小さな隕石のいくつかがマシンに被弾するのを覚悟しなければならないし、運が悪ければ、巨大な隕石にぶつかる事もあるので、気が抜けない。


 小さな隕石がマシンのボディに当たり、スマホが振動する。この隕石の厄介なところは、こうやってスマホが振動する事ではなく、小さいながらもその威力がそれなりにある為、当たるとマシンの位置がズラされる事だ。


 だからと言って慎重に進めば、ほぼ直進しか出来ないマシンでは避けられず被弾率は上がるし、スピードを上げるのも相対的に被弾した時の衝撃が強くなる為、マシンのコントロールを失う事になる。そう言う意味ではここはお祈り地点と言える。


 そうしてスピードを調整しつつ各マシンがアステロイド帯を進む中、何を思ったのかカヌスのマシンがスピードを上げた。このままだと隊列がずっと変わらないからか、ここで先頭を行くダイザーロくんのマシンを抜く為に賭けに出たのか? 

 しかしそんな考えは『六識接続』によって、俺の『瞬間予知』に武田さんの『空識』による未来視、バヨネッタさんの『慧眼』による幻視から、カヌスが賭けに出たのではないと思い知る。


 カヌスの前方には右から左へと流れる中々に大きな隕石があり、その隕石目掛けてカヌスは突進したのだ。平面に無数のスパイクが付いたカヌスのマシン前方に当たったその隕石は砕け散り、カヌスのマシンを多少グラつかせたが、スピードが出ている事もあって、すぐにその挙動をスピードが抑え込む。


 しかしそんな事は問題ではない。問題はカヌスのマシンにぶつかり、砕かれた隕石の一部が、前方に向かって飛んでいった事だ。だいたい拳大に砕かれた隕石は、当然だか左前方を走るダイザーロくんのマシンの方にも飛んでいった。


 砕かれた衝撃で速度を上げた拳大の隕石がダイザーロくんのマシン後部に直撃し、その衝撃でダイザーロくんのマシンは左右にブレてコントロールを失い、そこに狙ったように直径一メートルはある大きな隕石がぶつかった。


 これにふっ飛ばされたダイザーロくんのマシンは、宇宙コースターコースから弾き出されコースアウト。砂漠コースと違って、コースに戻る手段がない宇宙コースターコースでは、コースアウトは即敗退を意味する。


『すみません!』


 念話で直ぐ様ダイザーロくんが謝ってきた。


『気にしないで。向こうが一枚上手だっただけだから』


 と落ち込むダイザーロくんをなだめるも、してやられたな。と歯ぎしりしつつ、コースアウトして宇宙を宛てどなく流されていくダイザーロくんのマシンを横目に、俺たちはカヌスを先頭に一つ目のアステロイド帯を通り抜け、U字カーブに突入する。


 U字カーブは、その途中でぐるりと横一回転する部分があるだけのストレートであり、これを乗り切るとその先には登り坂が待っていて、ここを登りきればコースは急降下する。しかもそこはアステロイド帯であり、一つ目のアステロイド帯とは違い、隕石群は左から右へと流れていく。


 それなら最初の谷同様に、ロケットエンジンの推進力でこのアステロイド帯を回避すれば良いのでは? と考えそうなものだが、そう上手くいかないのだ。


 アステロイド帯の先は緩やかな登り坂となっており、しかも坂の頂上はアステロイド帯に入る坂よりも低い。これが普通のコースならば重力があるから、アステロイド帯に入る坂を飛び越えても、重力でコースに戻ってこれるが、この宇宙コースターコースでは、坂を飛び出したらそのまま直進し、宇宙の藻屑まっしぐらだ。なので渋々二つ目のアステロイド帯に突入しなければならない。


 隊列に変化がないままアステロイド帯を抜けて、緩い坂を登り切ると、今度は六連の横回転コースが待ち受けており、それをクリアした先に待ち受けているのが、スタートラインまで戻って来る、二連縦回転コースだ。


 ぐるんぐるんとコースに対して横になった二連縦回転コースを通り抜け、レースは二周目に。先頭は変わらずカヌスで、その後にリットーさん、バヨネッタさん、俺と続く。


 そしてやって来るのは縦一回転のコースだ。先頭を往くカヌスのマシンであるが、このコースの最後に待ち受けているのは、デムレイさんの直方体のマシンだ。


 縦にぐるんと一回転するコースの先に、デムレイさんのマシンが待ち受けているのは、見えていただろうが、縦一回転コースの最中に、左右の噴射口を使ってコースを変えるのは、カヌスでも難しいはず。と踏んで、デムレイさんには縦一回転の最後にカヌスの前に立ち塞がって貰ったのだが、やはりカヌスをしても途中でコース変更するのは難しいのか、そのままデムレイさんのマシン目掛けて突進していく。


 いや、スピードを上げて突進している。これはアステロイド帯の時と同じ流れか? しかしあの時の隕石よりも、圧倒的にデムレイさんのマシンの方が質量がある。いくら無重力とは言え、磁力でコースにくっついている大質量のマシンを相手に出来るものか?


 が、ここでも俺たちの未来視が働き、カヌス優勢の未来を見せる。そしてカヌスはそれを実行した。カヌスのマシンは俺の予想を越えた動きを見せる。マシン前部のスパイクが、デムレイさんのマシンに当たる直前、前方に向かって突き出したのだ。この衝撃によってデムレイさんのマシンは吹き飛ばされ、コースアウト。カヌスのマシンは前部スパイクを元の位置に戻すと、そのまま直進していった。


 成程、どうやらカヌスのマシンは、左右に避ける策を捨てて、立ちはだかる前方の障害物を、全部粉砕していくチューニングできたらしい。これは予想外だったな。

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