第591話 不離一体
「良いのかい? 私の配下からの情報では、ハルアキ、君は今回のゲームの為に、『六識接続』なるスキルを獲得したと聞いているが?」
カヌスの後ろに控える亡霊の女性が告げ口したのだろう。『六識接続』は俺が『クリエイションノート』で創作したスキルだ。対象者に触れる事で、対象者の『六識』、つまり『五感』にプラスして、スキルやギフトなど魔法を司る『意識』に接続し、遠隔で対象者の『六識』を知覚出来るようになるスキルだ。スキルやギフトなど、魔法を司る『意識』とも接続するので、対象者と念話を交わす事も可能である。
「ほぼユニークと言っても良いスキルだ。かなりの命秒を消費したんじゃないかい?」
「…………」
カヌスの言葉にだんまりの俺だが、横のバヨネッタさんが苦い顔をしている。修練場で俺がこの提案をした時、危険過ぎると猛烈に反対してきていたからなあ。だが先に控える現魔王軍との戦いを視野に入れると、このスキルは獲得していたい。と俺が珍しく強硬に出たので、渋々バヨネッタさんが引き下がった形だ。
パチンッ。
しばしカヌスと睨み合うかのような沈黙が場に広がった後、カヌスが指を鳴らすと、カヌスの後ろに、人が現れた。亡霊や怨霊のような半分透けている訳でも、骸骨のように全身が骨だけな訳でも、ゾンビのように腐っている訳でもない。見た目は正に人そのものだ。まあ考えてみれば、他のカヌスが作ったダンジョンでは、アンデッド系はおらず、普通に魔物が襲ってくる仕様だった。このアルティニン廟の魔物がアンデッド系と言うコンセプトなだけなのだろう。だから、普通に人型の魔物を生み出す事も可能なのは頷ける。
「この人形は人間と同じ素材で出来ている。当然『五感』なども再現されている。ハルアキ、その『六識接続』でこの人形に触ってみよ」
はあ。嫌な予感しかしないな。恐らくカヌスはこの人形にダメージを与える事で、俺にどれだけダメージがフィードバックされるかを分からせしめ、『六識接続』を使わせないように促すつもりなのだろう。だが、ここでそれを怖がって、人形に触らない選択肢はない。はあ。気が重い。
そう思いながら俺は席を立つと、皆が不安そうな顔でこちらを見る中、カヌスの元まで歩いていき、『六識接続』で人形に触った。
ぐしゃり。
それはいきなりの凶行だった。俺が人形に触り、「触りましたよ。さあ、人形を攻撃してください」とカヌスに告げる前に、カヌスが自ら作り出した人形を、念力のような不可視の力で、紙でも握り締めるかのように、くしゃくしゃの球に変えてしまったのだ。
その凶行に背筋を走る悪寒とともに、小便を漏らしそうになるが、俺が感じたのはそれだけで、肉が引き千切られるような痛みも、骨が砕かれるような痛みも、視覚がブラックアウトする事も、耳が聞こえなくなる事もなく、『六識接続』した人形から、何ら身体にフィードバックが来る事はなかった。
これに呆然としたのは俺だけでなく、仲間皆も呆然としていた。俺が『六識接続』の説明をした時に、その危険性を説明していたからだ。これに対してカヌスの方はと言うと、顎に手を当て、面白いものを見た。とばかりに何ら変化のない俺を、足の爪先から頭の天辺までじっくりと見てくる。
(何が起こったんだ? 『六識接続』を書いた時に不備があって、スキルが発動しなかったのか? それとも『模造』で作った『クリエイションノートだから、そもそもスキルを作る事が出来なかったのか?)
『いや、スキルはしっかり発動していたぞ』
そう心に話し掛けてきたのはアニンだった。
(スキルは発動していた? なら何で、俺の身体に何もフィードバックが起きなかったんだ? 人形の身体を一瞬でぐしゃりとされたんだ。死ぬような激痛を受けてもおかしくない。それが…………、まさか!)
『そう言う事だ。私とハルアキは不離一体。『六識接続』で接続した対象者の『六識』が、ハルアキの身体にフィードバックされると言うなら、それはハルアキと同化している私にもフィードバックされると言う事。ならそのフィードバック先を私の方で受け持てば、ハルアキが激痛に耐える必要もなくなる。と言う訳さ。幸い、私は魔法生体兵器であり、痛覚はないからな。そんなものあったら、武器として役に立てん』
成程。こいつは僥倖ってやつだな。俺としては、魔王軍との戦争で、俺たちがバラバラの場所に配置される可能性を考慮し、『六識接続』で接続した対象者からの痛みや苦しみを、どうにか踏ん張って耐えながら、念話で状況確認し、戦況を優位に運んでいくつもりだったんだが、アニンのお陰で、その優位性は更に高くなったと言える。
『ふっ。私と同化出来た事に感謝しろよ?』
(『闇命の鎧』の時には痛い目に合ったんですけど? それにそんな事が出来るなら、普段から痛みを肩代わりしてくれても良くない?)
『それはそれ、これはこれだ。それに痛覚は、自身が怪我や病気をしていると言うサインだ。無闇に消す訳にはいかない。他者の分まで感じるのは違う。と言うだけだ』
さいですか。
「それで? ハルアキの中では、自身に死に相当する痛みを与えるような今のやり取りで、ピンピンしている理由は分かったのかな?」
カヌスが、いや、皆が俺を変な目で見ている。きっといつもの百面相をしていたのだろう。
「そうですね。どうやら、俺と同化している化神族のアニンが、諸々を肩代わりしてくれたみたいです」
俺の言に、皆が感心して頷く。
「化神族が痛みを肩代わりする、か。ハルアキは化神族と相当同化しているようだね」
俺をワクワクした目で見詰めるカヌスの言葉には、含意がある気がした。化神族は純粋な魔法生体兵器であるガイツクールと違って、所有者をバーサーカー化させる代物だ。それと同化していて、しかもその化神族が、所有者の為に自ら痛みを受け持つなど、カヌスからしたら想定外だろう。
「ふむ。『六識接続』を持つ君を残して、他の者たちを順々に殺していこうと思ったんだけど……、いや、君は『記録』持ちだったね。心をへし折る事も出来るか」
ここでも『記録』か。
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