第590話 煽り合い
カヌスとそれに従う亡霊の女性を引き連れ、俺たちは冒険者ギルド上階にある会議室へやって来た。ここはパーティを組んだ冒険者たちが、ダンジョンや、それらを包括するエキストラフィールドの攻略を話し合う為に用意された部屋で、あるのは簡素な長机と折り畳み式の椅子が複数である。
カヌスが部屋の奥、長机の短辺の席に着席したところで、こちらも各々が長机の長辺の席に座る。亡霊の女性はカヌスの後ろに立ったままで、ササッとカヌスにお茶とお茶請けのお菓子を差し出したところを見るに、普段からそうしているのだろう。
こちらもカッテナさんとダイザーロくんが、紅茶とお茶請けを各人に配り終え、二人が着席したところで、まずカヌスが口を開いた。
「勝負はピクトレーサーで良いのだな?」
自信満々の顔で俺に尋ねてくる。
「他に希望のゲームが? ドロケイとかポーカーとかやります?」
俺の提案にカヌスはつまらなそうに首を横に振った。
「ドロケイはもう飽きた。こちらの勝ちも決まっている。ポーカーは運要素が強過ぎるな。実力でなく、運でお前たちをこのエキストラフィールドから出すつもりはない」
ドロケイは飽きた、か。これに俺の横に座るバヨネッタさんがぴくりと反応したが、何も言い返さなかったと言う事は、『慧眼』を使用しても、カヌスにドロケイで勝つビジョンが浮かばなかったのだろう。
逆にポーカーに関しては、ダイザーロくんの運が相当な働きをしているのだろう。十回対戦して、十回勝てる訳では無いだろうけど、魔王が、ダイザーロくんが一回を引き当てる可能性を無視出来ないとは、恐るべし、ダイザーロくんの幸運。しかしとなると、
「俺のスマホに入っていたゲームで、他に気になるゲームがあった。っていう事ですか?」
俺の問いに口角を上げるカヌス。
「ウルトライレブン!!が面白かったな!」
あー、あれね。それを聞いて、俺は思わず向かいに座る武田さんと目を合わせていた。武田さんが辟易した顔をしている当たり、俺もきっと同じような顔をしているのだろう。
ウルトライレブン!!は、超異次元サッカーと言うコンセプトで生み出されたサッカーゲームだ。選手たちがそれぞれド派手な必殺技を使うので、アニメ化もされてキッズからも大人気なサッカーゲームであり、映えるし爽快感もあり、また中々に戦略性も高いので、ハマればそりゃあ楽しいゲームである。出てくる必殺技も、スキルと捉えれば、こっちの住人でも取っ付き易いとは思うが、まさか魔王がそれにハマるとは。
「いやあ、面白いよな! 蹴ったボールが炎や氷、時には竜をまとってゴールネットに突き刺さったり、それをディフェンスたちがロックウォールで止めたり、キーパーがマジックハンドでビシッと受け止めたり、どうやって必殺技ゲージを溜めるか、また、それを途中で潰すか、その戦略や駆け引きも面白い! あれ、最高じゃないか!?」
「はあ。魔王様にそんなに気に入って貰えたなら、ゲーム会社も大喜びでしょう。俺たちが地上に戻った暁には、ゲーム会社に魔王が褒めていた。って一報くらいしておきますよ」
「やる気なさそうだな」
「ウルトライレブン!!だと、私とカヌス様の一騎打ちになってしまいますから。それだと、こちらの他の面子がただの観客になってしまうので」
俺の真っ当な反論に、手を顎に当てて、しばし考え込むと、カヌスはまたも無邪気に的外れな提案をしてきた。
「むう。それはそうか。それなら、そちら全員でこれから本番までに練習して、我が最強のイレブンを相手に勝ち抜き戦をしても良いぞ」
「あの、申し訳ありませんが、我々は可及的速やかにこのエキストラフィールドから脱出し、魔王軍との戦争に備えないといけないんです。そんなにウルトライレブン!!に入れ込んでいると言うなら、現実にサッカーチームを結成して、六領地同盟でリーグ戦でもしたらどうでしょうか?」
この俺の提案に目を見開くカヌス。
「その考えは思い付かなかった! 良い提案だ! サッカーと言うルールのある戦争を通じてぶつかり合い、互いの力を見せ合う事で、領地の力を発展させ、またこれによって六領地間の結束を密にして、他の領地からの侵略に対抗する力を付ける。流石はハルアキ! 地上の国で宰相をしているだけはあるな!」
魔王に褒められても嬉しくない。今言った事に嘘はないが、どちらかと言えば、可及的速やかにこのエキストラフィールドから脱出したいと言う方が、本音なのだ。
「ふむ。ではウルトライレブン!!は六領地同盟でするとして、本当にピクトレーサーで良いのだな?」
カヌスからの二度目の問い掛け。これはカヌスがピクトレーサーに絶対的自信を持っている事の現れだろう。
「問題ありません。勝ちますから」
「ほう」
そう感嘆の声を漏らし、カヌスは俺たち全員を値踏みするように見回した。
「先程のハルアキの言葉から察するに、僕とハルアキの一騎打ちではなく、この八人全員で挑んでくる。そう捉えて良いのかな?」
「いえ、面子は事と次第でもう少し絞る事になるかと。ピクトレーサーは最大で十二人でレースが出来ますから、……不安でしたら、そちらも面子を揃えて頂いても構いませんよ?」
俺の言葉が癇に障ったのだろう。カヌスは会議室に入ってから笑顔を崩していないが、その笑顔で細めた目の奥が笑っていない。
「確か……、TAS、だったかな? 自分で言うのも何だが、僕はピクトレーサーで理論上の最速を出せていると自負している。それでも勝つのは自分だと?」
「予選でいくら最速を叩き出したところで、本戦で優勝出来るとは思わない方が良いですよ?」
「ほほう」
おっと、煽り過ぎたかな? 会議室の空気が逃げ出したくなる程に殺気で冷たくなってしまった。だがここで引く事は出来ない。
「で? どうしますか? お友達の力を借りますか?」
「はっはっはっ。僕一人で十分だよ」
釣れたな。
「それで報酬の方だけど、君たち全員が亡者となって、永久にこのエキストラフィールドで強制労働に従事する事。で良いかな?」
「はっはっはっ。魔王様はお優しい方ですね。俺たちなら、あらゆる方法で永久に殺され続ける拷問でも構いませんよ?」
殺気バチバチのカヌスの笑顔に対して、こちらも笑顔で対抗する。
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