第581話 増える選択肢

 その後、カッテナさんの『縮小』の能力の程度を調べてみる事になり、安全地帯の町の右上にある闘技場、その地下にある修練場へとやって来た。


 今までなら、町の右下の何もない場所で特訓していたのだが、町の右にカジノなどの遊興地区が出来たのと平行して、右下が住宅街となったので、特訓なり修行なり修練なりをする為に、安全地帯の町の外へ出ないといけなくなってしまったが為に、新設された施設だ。


 修練場を使用するにはお金を払わなければならないが、修練場はそれぞれ個別の異空間となっているので、他の闘士たちと分かれて修練出来るようになっている。言ってしまえば、魔法科学研究所にあるサンドボックスみたいなものなので、何とも贅沢である。


「『縮小』は使えそうね」


 ダイザーロくんに『操熱』で周囲の気温を上げ下げして貰い、カッテナさんの『縮小』を『付与』したアイテムの使い勝手を調べてみたうえでの、バヨネッタさんの感想だ。


「そうですね。ただ、アイテムに『付与』で封じると、一定レベルで固定されてしまうので、ある程度の寒さや暑さに対応出来る程度の『縮小』を『付与』したアイテムを複数持っていき、その場の温度に対応して、いくつか身に付けるのが良いですかね」


 カッテナさんがその場にいれば、アイテムの暑さ縮小や寒さ縮小をチューニング出来るけど、その場にいないとなると、低めの『縮小』をアイテムに『付与』しておいて、現場の温度に対してアイテムを付けたり外したりするのが正解だろう。


「そうね。『反発』が使い切りなのが痛かったわね」


 カッテナさんは『反発』のギフトを持っているから、それを『付与』すれば、暑さ寒さを弾く事が出来るのではないか? とのバヨネッタさんの提案で、アイテムに『反発』を『付与』してみたのだが、こっちは使い切りだった。残念。まあ、『反発』なのだから、一度切りと言うのも理解出来るが。


「でも、恐らく『北の氷結洞』も『南の溶岩洞』も、出てくる魔物も氷とか溶岩とかを使ってくるでしょうから、事前にいくつかのアイテムに『反発』を『付与』しておいて、適宜使用する。って言うのはありだと思いますよ?」


「そうね。ダンジョンのギミックにも、そうしたものがあるかも知れないものね」


 と首肯するバヨネッタさん。成程、そっちもあり得るな。


「で? どうします? ダイザーロくんとカッテナさんは、『北の氷結洞』か『南の溶岩洞』に振り分けますか?」


 その方が攻略出来る可能性は高くなりそう。


「そうね。その二ヶ所のダンジョンだけ考えれば、この二人を投入するのは悪くないけれど、問題は『西の大海原』かしら。普通に海なら、ダイザーロの『電気』は特攻だから。それなら、ダイザーロは『西の大海原』へ行かせて、北か南へカッテナ。残った方へ『縮小』と『反発』を大量に使って攻略。って線もあるのよねえ」


 ああ、確かに。う〜ん、何か堂々巡りしている気がする。などと俺たちがあーだこーだ意見を出し合っているところへ、カッテナさんが手を上げた。


「あの、誰をどこへ送るかの以前に、どうやってそこまで行くのかって、問題があると思います」


「どう言う事?」


 俺が聞き返したら、カッテナさんが説明を始めた。


「このエキストラフィールドのクエストには、大きく分けて、二種類のクエストがあるんです」


 二種類?


「ウインドウからその場で受注出来るクエストと、冒険者ギルドを通して受注出来るクエストです」


「もしかして……」


「はい。この『エキストラフィールド脱出クエスト』は、冒険者ギルドで受注するタイプのクエストです」


「マジで?」


「マジです。ハルアキ様がお休みのうちに、冒険者ギルドに寄って、掲示板を見てきましたから。普通に掲示板に依頼票が貼り出されていました。普通と違うのは、依頼票には普通、報酬のところにアイテムやヘルが記載されているのですが、このクエストではそこが???になっていたくらいですかね」


 何じゃそりゃ?


「そうなると、二十四時間の制限の意味合いが変わってきますね」


 腕を組んだダイザーロくんが、眉間にシワを寄せて足をタンタンと踏みながら、不満を顕わにしている。まあ、そうなるよな。二十四時間以内に、この安全地帯の町からエキストラフィールドの最奥にあるダンジョンまで行き、攻略しないといけないのだから。


 これが、ダンジョンに着いてからクエストを受注して二十四時間以内。なら可能性もあろうが、俺と武田さん以外は転移が出来ない(バヨネッタさんの転移扉は行った事のある場所じゃないと無理)事を鑑みるに、元から不可能に設定されているように思える。やはりカヌスは魔王であり、あちら側であり、俺たちの敵であり、俺たちをここに足止めするのが目的なのかも知れない。


「それはおかしいわね」


 とバヨネッタさんがウインドウを操作しながら、そこに異を唱える。


「おかしい、ですか?」


 首を傾げる俺たち三人に、首肯で返すバヨネッタさん。


「ウインドウを確かめて見たけれど、別に冒険者ギルドを通さなくても、ウインドウから受注可能になっているわ」


 その説明に、俺たちもウインドウを立ち上げて『エキストラフィールド脱出クエスト』を数度タップする。すると確かにそこには、


受注しますか:『YES』『NO』


 との表記があった。多分これが冒険者ギルドを通さなくてもクエストを受注出来ると言う証明なのだろう。


「あれえ? でもギルドの掲示板には確かにあったんですよ! 『エキストラフィールド脱出クエスト』の依頼票が!」


 焦りながら熱弁するカッテナさん。嘘は吐いていないだろう。ここで嘘を吐くなんてカッテナさんらしくない。バヨネッタさんもダイザーロくんも、それを分かっているから、不測の事態にあわあわしているカッテナさんを落ち着かせようとしている。信頼されているなあ。では俺が考えるべきは、カッテナさんの話もバヨネッタさんの話も、両方正しいと仮定した場合の答えだろう。


「あのう……」


 慌てているカッテナさんに、宥めようとするバヨネッタさん、ダイザーロくんに、俺の見解を口にする。


「もしかしたらなんですけど、このクエスト、俺たちが依頼主になって、魔物の冒険者の助力を借りられるんじゃないですかね?」


 俺の意見に、「あっ」と声を漏らす三人。そうなのだ。別にこのクエストを俺たち八人だけで攻略しなければならないとは、クエストの内容のどこにも明記されていないのだ。

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