第580話 悪魔の力
どうやらエキストラフィールド脱出の為には、このエキストラフィールドの現状最奥と呼ばれるエリアへ行かなければならないらしい。
さてどうしたものか。と全員で顔を突き合わせても、すぐに妙案が浮かぶ訳もなく、『エキストラフィールド脱出クエスト』も、今すぐ受注しなければならない訳でもないので、この場は一旦解散との運びになった。一階の食堂に残ったのは俺とダイザーロくん、それにバヨネッタさんにカッテナさんの四人だ。
「誰をどこに差し向けるか、考えどころですよねえ。まあ、能力を最大限に活かすなら、リットーさんは『東の大草原』、ダイザーロくんは『西の大海原』ですかね?」
食事が終わり、食後の水を注文したところで、俺がそう口にしたら、三人に難しい顔をされてしまった。あれ? 俺何か間違っている?
「リットーは飛竜ゼストルスを連れているから、『東の大草原』が最適だと言うのは、そうでしょうけど、ダイザーロは他の三つを考えると、悩むわね」
バヨネッタさんが溜息混じりにそうこぼしたところで、骸骨のウエイトレさんが水を持って来てくれた。
「何か問題が? もしかして『西の大海原』って、純水で出来ているんですか?」
大海原だから、当然海水だと思っていたが、ここは異世界だ。純水の海があってもおかしくない。純水は電気を通さない。水が電気を通すのは、そこに不純物が含まれているからであり、不純物を含まない純水は、電気を通さないのだ。そうなると、電気使いのダイザーロくんを『西の大海原』へ差し向ける意味がなくなる。
「さあ? 私も『西の大海原』へ行った事がないから、それは知らないわ。まあ、でもそうね。純水で出来ている可能性を考慮するなら、『北の氷結洞』か『南の溶岩洞』となるわね」
バヨネッタさんにしては歯切れが悪いな。これは他にダイザーロくんを北や南に差し向ける理由があるのだろう。と俺はダイザーロくんを見遣る。
「俺もレベル五十になって、超越者になったじゃないですか」
ああ、成程。超越者になると俺のようなイレギュラーと違って、普通ギフトとスキルが一つずつ手に入るもんな。それによっては行き先も変わるか。
「ダイザーロくんって、どんなギフトとスキルを手に入れたの? そもそも三種の超越者のうち何になったの?」
一応上司だし、知っておきたいかな。話したくないなら無理に、とは言わないが。
「雷霆王と言う王系になりました」
「名前を聞くにがっつりだね。じゃあギフトもスキルもそっち系だったんだ?」
俺の言に困った顔をしたダイザーロくんは、話して良いかとバヨネッタさんの方を見遣り、バヨネッタさんが鷹揚に頷く。
「ギフトは『超伝導』と言う電気系だったんですけど……」
おお、超伝導か。それなら電気抵抗をゼロにするから、ダイザーロくんの『電気』スキルが更に威力を上げるな。でも確か超伝導物質って、磁力を弾くから、もしスキルで『磁力』とか取得していたら、扱い難くなっちゃっているかも。それで困った感じになっているのかなあ?
「俺が雷霆王になって手に入れたスキルは、『操熱』と言うスキルだったんです」
「ソウネツ? それってどう言うスキル?」
名前から想像するに、物を熱くするスキルかな?
「えっと、じゃあ実際に見せますね」
とダイザーロくんは、俺の前に置かれた水の入った木のコップを手に取ると、それを沸騰させてみせた。まあ、そうなるよな。でもそうだとしたら、行き先が『西の大海原』と『北の氷結洞』の二つになるはずだ。何で『南の溶岩洞』まで候補に挙がるんだ? と思っていたら、
「え?」
思わず声が漏れてしまった。沸騰していた水が、俺が少し思考していた間に、カチコチの氷に変わっていたからだ。
「成程、『操熱』とは良く言ったものだね。しかし熱を自在に操るか」
これって、熱と言うよりエントロピーの操作な気がするな。となると、電気に熱にエントロピーに超伝導……、
「マクスウェルの悪魔かな?」
俺の呟きにダイザーロくんが驚いたような顔になる。
「それ、セクシーマン様にも言われました。俺のスキルって、そんなに悪い能力なんですか?」
ああ、武田さんもそんな印象を持ったのか。その気持ちは分からんでもない。
「いや、気にしなくて良いよ。俺の生まれた世界、地球だと滅茶苦茶役に立つスキルだって話」
「は、はあ」
俺の言葉を聞いても、ダイザーロくんは不安そうな顔のままだ。まあ、悪魔の能力って言われれば、不安にもなるか。でもマクスウェルの悪魔の説明を異世界人にしろ。って言われても、俺には無理だもんなあ。
「別に『狂乱』や『信仰』のようなヤバい方向のスキルじゃないから、使い方さえ間違えなければ、有用だよ」
「そう、ですか」
渋々と言った感じで自身を納得させたらしいダイザーロくんは、凍った水を元に戻して、コップを俺に返してくれた。
「でもまあ、ダイザーロくんの能力がとても有用である事は理解しました」
水(冷たい)を一口飲んで、そう口にした俺の言に、バヨネッタさんが頷き返す。
「そうなのよ。しかも『超伝導』や『電気』とも相まって、広範囲での熱操作が可能だから、ダイザーロがいれば、『北の氷結洞』の寒さも、『南の溶岩洞』の暑さも、苦にならないと考えられるのよ」
バヨネッタさんの言に俺も頷き、今度はちらりとカッテナさんの方を見遣る。
「カッテナさんがいれば、暑さや寒さを『縮小』させる事は可能じゃないですかね?」
「成程。何かしらのアイテムに、暑さ縮小や寒さ縮小を『付与』しておけば、わざわざダイザーロを連れて行かなくても良くなるか」
「私!?」と驚くカッテナさんを他所に、俺の提案に頷いたバヨネッタさんは、改めてカッテナさんへ目を向ける。
「出来そう?」
「やった事がないので何とも言い切れませんが、火炎攻撃を縮小させたり、凍結攻撃を縮小させたりは出来ますから、その応用と考えると、出来なくはないかと」
可能性はある。ってところか。後で確かめないとだけど、カッテナさんの『縮小』は、初めて見た時、巨木を矢のサイズに縮小させて、それを維持していたからなあ。一度『縮小』させれば、継続的に魔力を注ぎ続ける必要はないのだろう。これで手札は増えたけど、誰をどこに、がまた難しくなってしまったな。
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