第579話 『模造』<『複製』
「で? 何でその『クリエイションノート』と『フィックスペン』は模造品になっているの?」
半眼で尋ねてくるバヨネッタさん。それは当然の疑問だろう。
「リョウちゃんから、『クリエイションノート』は持ち出し禁止だと言われてしまいまして、なのでその場で『模造』のスキルを『クリエイションノート』に書き込んで、『クリエイションノート』と『フィックスペン』の模造品を作った訳です」
「成程、向こうの提示した条件の穴を突いた訳か」
デムレイさんが顎を手でこすりながら、感心したように、卓に置かれている『クリエイションノート(模造品)』と『フィックスペン(模造品)』を見ている。
「『フィックスペン』に関しては、リョウちゃんから何も言われなかったので、多分こちらへ持ち込む事も可能だったと思うんですけど、まあ、保険と言う事で」
俺は答えながら、万年筆状の『フィックスペン(模造品)』をくるくる回す。
「『複製』じゃなく、『模造』にしたのは意味があるのか? スキルのレア度で言えば、『複製』の方がレア度が高いから、その二つを完全な形でコピー出来ただろ? 『模造』だと、どうしてもコピーしても能力が一段下がるはずだ」
疑問を口にする武田さん。
「だからこそ、ですよ」
俺は、我が意を得たり。と自分の口角が上がるのが分かった。
「だからこそ?」
「もし、俺がリョウちゃんと出会った場所で、『複製』のスキルを取得して、『クリエイションノート』の完璧な複製品を作り出したとして、それを、こちらへ持ち込めたでしょうか?」
「? どう言う意味だ?」
武田さんは俺の返答にピンとこなかったようで、首を傾げてしまった。そこにすかさずミカリー卿が補足を入れてくれた。
「つまり、『クリエイションノート』の完璧な複製品を作ってしまったら、そのリョウくんのいた場所から持ち出せない。と言う条件まで複製してしまう可能性を危惧したんだね」
ミカリー卿の説明に、皆が納得する。
「まあ、そう言う事です。『模造』は能力や効果は『複製』より一段下がりますが、元の真作を完全再現していないが為に、これは真作ではない。との判定になるので、持ち出す事に成功しました」
「悪知恵が働くわねえ」
俺の言にバヨネッタさんが呆れたように溜息を吐く。
「良いじゃないですか、役に立つ道具が手に入ったんですから」
「まあ、そうね。ただ、スキルを生み出すのに命懸けみたいだから、無闇矢鱈に使わせたくはないけど」
おや? 珍しい。バヨネッタさんが俺の心配をしてくれている。
「何よ?」
「いえ、別に」
バヨネッタさんに睨まれて明後日の方を向いてしまった。さて、俺の話はこれくらいで良いだろう。『クリエイションノート(模造品)』に書き込むスキルも、今すぐ決めなければならない訳じゃない。なら先に、俺たちには解決しなければならない問題がある。
「武田さん」
「あん?」
「俺が仮死状態だった三日の間に、当然金丹を飲んで、超越者になっているんですよね?」
「当然だ。と言うか、皆して工藤が起きるのを待っていたんだよ」
う。それはすみません。
「ダイザーロくんも起きているし、と言う事は……」
全員を見回すと、皆が首肯を返してくれた。カヌスから課せられた全員レベル五十以上の条件を達成したのだから、後はこのエキストラフィールドから脱出する為のクエストに挑戦すれば良いだけだ。
ウインドウを立ち上げると、クエスト関係の画面に、俺がリョウちゃんと会う前にはなかった、新たなクエストが追加されていた。
「『エキストラフィールド脱出クエスト』か。そのまんまのクエストだな」
エキストラフィールドはそのままエキストラフィールドで定着しているし、安全地帯の町もそのまま。カヌスって、命名に関しては無頓着なのかも知れない。それは良いとして、『エキストラフィールド脱出クエスト』をポチッと押すと、『エキストラフィールド脱出クエスト』の説明文が現れた。
エキストラフィールド脱出クエスト:エキストラフィールドにある四つのダンジョン、『北の氷結洞』、『南の溶岩洞』、『東の大草原』、『西の大海原』を同時に攻略せよ。時間:クエスト受諾後二十四時間以内。
う〜む、クエストを全然してこなかったから、このクエストの難易度が分からん。でも同時に攻略と表記されているのだから、この四つのダンジョンには、攻略するのに何かしらのギミックを作動させる必要があり、それを時間を合わせて作動させなければならない。っていう事だろう? となると、八人を二人ずつに分けて東西南北に送らなければならない訳で、それだけで既にハードルが高いよなあ。
ちらりと他の面々の顔色を窺うと、皆が何とも渋い顔になっている。俺なんかよりもクエストに慣れている皆がこんな顔をすると言う事は、俺が考えるよりも難しいクエストなのだろう。
「ここって、どう言う場所なんですか?」
少し絶望感を漂わせている皆に、恐る恐る尋ねると、ミカリー卿が教えてくれた。
「前に、このエキストラフィールドが安全地帯の町を中心に、三層まで解放されているって話をしたよね?」
それに頷く。確かこのエキストラフィールドは今いる安全地帯の町から放射状に広がっており、一層、二層、三層と、町から離れて行く程、出現する魔物が強くなっていくのだ。俺が到達した最高地点は二層半ばの岩山のダンジョン。そこから推察するに、この四つのダンジョンは恐らく三層にあるんだろう。
「最近になって、と言うか、ハルアキくんが金丹を飲んだ後に、四層が解放されてね、この四つのダンジョンはどれもそこに存在するんだ」
「よっ!?」
四層!? そんなところに二人で行けって言うのかい? おいおいおい、カヌスさんよー、いくら何でも、難易度高過ぎないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます