第561話 店前でたむろする

「ベイビードゥ、『闇命の欠片』が欲しいんだけど」


「扱ってねえよ」


 交換所へやって来た俺たちへ、骸骨騎士が髑髏に空いた二つの洞で俺を見詰めながら、呆れ声で返事をしてきた。


「何だよ、品揃え悪いな」


「やかましいわ。ケンカを売りに来たなら、他所へ売りな。うちの交換所では、ケンカは取り引き対象外だ」


 はあ。交換所で扱っていないなら、ここにいても仕方ない。いや、


「リスト見せて貰える?」


「おらよ」


 ベイビードゥが手元を操作して見せてくれたウインドウには、様々なアイテム類がソート分けされている。武器に防具に魔導具、スキルスクロールなどなど。魔導具やスキルスクロールも攻撃系や防御系、移動系など様々ある。それぞれにはポイントが振られていて、そのポイントと交換するようだ。


「アイテムにはそれぞれポイントが決められていてな。持ち込まれたアイテムはまずポイントに交換されて、客はそのポイントを使って店のアイテムを買う形だ。死体は取り引きしていないから、それらは武器屋やアイテム屋でアイテムに換えてから持ち込んでくれ。当然だが、ポイントになったアイテムは、後から元のアイテムに戻す事は出来ない」


 俺が初めて交換所を活用するのを分かっているからだろう。ベイビードゥが初心者さん向けの口上を述べる。


「う〜ん……」


 アイテムはある。一応ログインボーナス? のデイリーガチャは毎日やっていたので、それなりにアイテムが貯まっているのだ。


 ちらりと俺に付いて来てくれた面子を見るに、ミカリー卿がオルさん謹製の通信魔導具でアイテム屋に向かったバヨネッタさんたちと連絡を取っている。急かされている訳ではないが、ここでアイテムをポイントに変えて何かアイテムと交換するか、ガチャの為に武器屋やアイテム屋へ売るか、どうするか早めに決めた方が良いだろう。


 俺が持っているアイテムは、ポーションがほとんどで、他にハイポーションと対魔鋼が少しだ。全てポイントに換えても、二千ポイントに届かない。


「交換出来るアイテムは……、普通に『加速』のスキルスクロールと交換出来るのか」


『加速』はシンヤが持っているが、確かにあれはコモンスキルだからなあ。安いのも当然か。でも単純に強いんだよなあ。これなら武器屋で『加速』が付与されている防具を買うより良い? いや、防具の方が良いのか? それとも魔導具?


「武田さん、『加速』のスキル、入手しておいた方が良いですかね?」


「今から鍛えるのか?」


 驚いた後、溜息を吐く武田さん。それはそうか。レベル一から『加速』を鍛えるならともかく、もう少しでレベル五十になる俺が『加速』を鍛えても、シンヤ程『加速』が使えるようにはならないか。なら防具か魔導具かな。


「? 『加速』付与の指輪でも、ポイントが違うものがあるのは、付与されている『加速』のレベルが違うって事?」


「そうだ。同じスキルが付与されているアイテムでも、スキル自体のレベルによって、交換するのに必要なポイントは変わってくる。また、低レベルのスキルが付与されているアイテムでも、アイテムによっては、複数所持する事で、スキルを重ねて発動させる事が出来る」


 とのベイビードゥの説明。『アイテムによっては』ってところに引っ掛かりを感じるな。例えばレベル一の『加速』の指輪を持っていたとして、その後レベル五の『加速』の指輪を手にした場合、重ねて発動させられるなら、『加速』のレベルは六になるが、それが駄目な場合、レベル五になるか、最悪レベル一に合わせられるかも知れない。そうなったらレベル五の指輪を手に入れたら、レベル一のアイテムはポイント行きか、アイテム屋でお金に換えるしかない。


「で? どうするんだ? 何かアイテムと交換するのか? そうやってずっと店前でたむろされていても、商売の邪魔なんだが?」


 ベイビードゥに正論で諭された。確かに、このまま店前を独占していては、他の客たちの邪魔だな。俺はバヨネッタさんたちと連絡を取っていたミカリー卿たちの方を見遣る。


「バヨネッタくんとダイザーロくんは、アイテム類はほぼ全てアイテム屋でヘルに換金し、今はダイザーロくんにガチャをさせているそうだ。バヨネッタくんはこれからドロケイで荒稼ぎすると言っているよ」


 バヨネッタさんはそっちで資金を稼ぐつもりか。多分ダイザーロくんも、ガチャを終えたらポーカーさせられる流れだな。


「この六人だと、フィールドのどこまで行けますか?」


 俺の問いにデムレイさんが答えてくれた。


「今このエキストラフィールドは、この安全地帯の町を中心に三層まで解放されていて、当然先へ、奥へ行く程出現する魔物が強くなる。この六人だと三層手前が良いところで、ダンジョン周回を考えるなら、二層半ばにある、アリの巣か岩山が手頃だな」


 成程。


「売れそうなのは?」


「アリの甲殻も、岩山のゴーレムも、武器屋での売値はトントンだったと思うよ?」


 とはミカリー卿。こうなると好みの問題か? それとも周回のし易さ? それともダンジョンには潜らず、三層手前でフィールドの魔物を狩るか? しかしミカリー卿のこの言に、デムレイさんが「待った」を掛ける。


「いや、今回は岩山へ行こう」


「言い切りますね?」


「まず、俺がいればゴーレムの残骸から適切に鉱石を取り出す事が可能と言うのが一つと、今回はリットーがいるからな。地下に潜るよりも、開けた山の方がリットーも戦い易いだろう」


 確かに。リットーさんなら一人でも地下での戦闘に苦労しないだろうけど、やはりリットーさんは竜騎士だ。空を飛翔出来るアドバンテージは大きい。それにリットーさんの愛竜であるゼストルスの力も借りられれば、周回の効率も変わってくると言うもの。デムレイさんがいれば鉱石の選定も大丈夫だろうし、今回は岩山のダンジョンで決まりだな。


「で? アイテムの交換するのか?」


 不機嫌さを隠さぬベイビードゥの物言いに、自分が交換所の前でたむろしていた事を思い出し、逡巡した結果、俺はアイテムを『加速』付与の指輪と交換して、皆とともに岩山のダンジョンへと向かう事にしたのだった。

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