第560話 欠片
「そもそも、ハルアキは何を求めて交換所に行こうと思い立ったの?」
一度冷静になる為に、武器屋の外に出てウインドウでガチャをチェックしていると、バヨネッタさんに質問された。
「いや、まあ、何か掘り出し物がないかなあ。って漠然と? でも一番の目当ては
レベルアップアイテムである陛の宝珠。俺は一つアルティニン廟で手に入れているので、すぐにレベル五十になれるのだが、もし交換所に陛の宝珠があるなら、ダイザーロくんたちもすぐにレベル五十になれて上限解放だ。これでカヌスが課す条件その一は達成。次の条件その二に取り掛かれる。
「交換所に陛の宝珠はないわよ」
「そうですか」
バヨネッタさんの言葉をさらっと流す。まあ、こんな場所を用意するくらいだ。カヌスの狙いとして、陛の宝珠で簡単にレベルを上げるのが目的ではなく、プレイヤースキルを鍛えるのが目的と考えるのが妥当だろう。
「それでも有用なアイテムが手に入る可能性は高いじゃないですか。スキルスクロールとかあるんですよね?」
「まあ、ね。あそこでしか手に入らないアイテム類は多いわね。武器防具も、性能的にはあそこで交換した方が良いかも知れないわ」
やっぱりそうなるか。
「そうか? 他の冒険者の話じゃ、素材持ち込みなら、武器屋の方が融通が利くから、自分に合った武器防具が手に入るって言っていたぞ」
とはデムレイさんの言。ああ、もし交換所に強力な武器防具があったとしても、自分の身体にフィットしていなければ、宝の持ち腐れになるもんな。それなら、武器屋に素材持ち込んで、自分にフィットした武器防具を作って貰った方が良い。ってなるのか。
「一長一短はどこにでもあるよ。求めるものを手に入れようと思ったなら、こちらも相応の対価を差し出さなければいけないのが、世の常だからねえ」
ミカリー卿が腕組みしてしみじみ頷く。相応の対価か。俺だってこの安全地帯の町にそれなりに貢献したんだから、カヌスにはそれ相応の対価を差し出して欲しいものだ。
などと皆があーだこーだと話しているのを横目に、何かないかなあ。とガチャ画面を漁っている時だった。
「ふあっ!?」
俺の奇声に皆の視線が俺に向けられる。それでも俺の視線はガチャ画面に釘付けだ。
「何よ?」
「バヨネッタさん、期間限定ガチャの画面、見ました?」
「期間限定ガチャの画面? そもそも私ガチャやらないのよねえ」
あれだけこの町の住民たちからドロケイでお宝巻き上げておいて、ただ溜め込んでいただけなのか。財宝の魔女らしいと言えばそうだけど。
俺の言にガチャ画面が気になったのはバヨネッタさんだけではなかったようで、皆が一斉にウインドウのガチャ画面を開く。その期間限定ガチャの画面で、バヨネッタさんの動きが止まった。
百万ヘルで一回十連の期間限定ガチャ。つらつらと並べられているアイテム類の中には、アルティニン廟の中で見た物もあれば、どうやって使うのか、全く見当もつかないものもある。そんな見当のつかないものの中に、『闇命の欠片』なる気になるアイテムが目玉アイテムとして表示されていた。
「ハルアキ」
バヨネッタさんの声が少し震えている。それはそうだろう。『闇命』と名付けられていると言う事は、化神族に関係しているものと考えて当然。俺はこのアイテムの詳細な情報を求めて、ウインドウ画面に表示されている、その丸い闇色のそれをタッチした。
『闇命の欠片』:化神族の力を増強させる化神族の欠片。魔王カヌスが化神族を創り出す工程で生み出したものであり、これを十個集めて融合させる事で、化神族を生み出す事が出来る。
「おいおいおいおい! ヤバ過ぎだろ!?」
同じ画面を見ているであろうデムレイさんが、驚嘆の声を上げる。声を上げたのはデムレイさんだけだったが、他の皆も事の重大さは理解しているようで、その場が静まり返る。
「どうします?」
「どうします? も何もないでしょう! ここに来てこれを手に入れないなんて選択あり得ないわ!」
俺の言葉に、バヨネッタさんが興奮気味に返してきた。だがそうなるのも無理もない。化神族を手に入れられるだけで、同レベル帯でも戦闘力が段違いに違ってくるのだ。これを手に入れないのは勿体ないと思うのは仕方ないか。
「バヨネッタさん、落ち着いてください」
「落ち着いているわよ!」
「いえ、落ち着いていません。良く考えてください。この『闇命の欠片』なるアイテムは、ガイツクールではなく、化神族の欠片なんですよ?」
これを聞いてハッとするバヨネッタさん。そう。ガイツクールではなく、化神族と言う事が問題なのだ。
「何か違いがあるのか?」
事情を知らないデムレイさんが聞いてくる。
「化神族と言うのは、所持者と融合して、その者の意の形を取れ、所持者自身の能力も向上させる優れものですが、長期に渡り使用すると、徐々にその心身を蝕んでいき、最終的に所持者は狂気に呑まれて、戦闘狂となってしまうのです」
「そんな副作用が?」
これを聞いて、デムレイさんは事情を知っているであろう、バヨネッタさん、武田さん、ミカリー卿を見遣るが、誰もが首肯で返してくる。そしてミカリー卿が口を開く。
「モーハルドでも、化神族は貴重な戦力、秘宝として大事に代々封印されて保管されており、その心身汚染に堪えられる者のみに、使用の許可が下されるんだよ」
「それがタケダって事か?」
これに頷く武田さん。
「現代だとバンジョーさんって人が、モーハルドの化神族の所持者になっていますね」
「彼は特別信仰心が篤いからねえ。彼とセクシーマンくらいだよ。最初から化神族の心身汚染を跳ね返せたのは」
本当にそう。バンジョーさんって最初に遭った時には、既に『闇命の鎧』を着て、パイルバンカーぶっ放していたからなあ。
「そうなると、ハルアキはどうだったんだ?」
「俺の場合はヤバかったですね。何度か闇堕ちし掛けました。浅野……、今回の魔王軍との戦争の協力者の力を借りて、化神族のそう言う悪の部分を取り除く事で、現在アニンと良好な関係を築けている感じです」
「へえ〜」
デムレイさんも、他の皆も俺の説明で納得してくれたようだ。
「まあ、そう言う事よ。サンドボックスがあるんだし、今は使えないだろうけど、数を確保しておいて損はないわ」
バヨネッタさんの言葉はもっともだ。これでアニンやリコピンを強化出来るのはもちろん、情報通りなら、更に化神族を生み出す事も可能だ。だが『闇命の欠片』が化神族の欠片なら、確実に人を狂気に陥れるウイルスが仕込まれているだろう。正常状態のアニンやリコピンに使うには、一度日本の魔法科学研究所に持って行く必要がありそうではある。
しかし化神族を創り出したのがカヌスだったとは。そりゃあ悪意が仕込まれていて当然だよなあ。
「集めるんなら早くした方が良いぞ」
「武田さん?」
ウインドウを開いて画面とにらめっこしている武田さんを見遣る。
「このガチャ、あと一日で終わる」
マジかよ~。
「私はダイザーロとアイテム屋に行って、お宝を換金してくるわ!」
聞くが早いか、バヨネッタさんがアイテム屋へと移動を始め、その後を付いて行くダイザーロくん。
「私たちもガチャをした方が良いかな?」
ミカリー卿の問いに、俺は首を横に振るう。
「いえ、まず交換所へ行きましょう。もしかしたら交換アイテムに『闇命の欠片』があるかも知れません。それからガチャをする係と、外で魔物を狩って魔石とアイテムを手に入れる係に別れましょう。死体もなるべく回収して、店に売り付ける方向で」
俺の言葉に残った皆が首肯し、まず交換所へと向かうのだった。
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