第559話 初期装備
「ダイザーロくんたちって、もう『全合一』覚えたの?」
「当たり前だろ。リットーのやつにみっちり鍛えられたからな」
皆で店に向かう道中、ダイザーロくんに尋ねたのに、武田さんから返答があった。これにダイザーロくんとカッテナさんも首肯する。みっちりかあ。リットーさんって何気に教えるのが上手いんだよなあ。
「みっちり、って事は……」
「はい。『五閘拳』も教えて頂きました」
と答えてくれたのはカッテナさん。そうなるか。『五閘拳』を使えるようになる前提条件が『全合一』だからなあ。『全合一』が使えるのなら、その先まで教えるか。
「『五閘拳』の何を教えて貰ったの?」
『五閘拳』にも種類がある。俺が使うのは重拳が主で、土拳や火拳なども使えるが、他は習っていない。
「俺はお察しの通り、雷拳です」
とはダイザーロくん。まあ、雷拳なんてあるなら、ダイザーロくんにピッタリだし、やり方知っていたら俺でも教える。
「私はハルアキ様と同じく、重拳を教えて頂きました」
カッテナさんは重拳にしたのか。ギフトとスキルとの兼ね合いを考えてかな?
「武田さんは?」
「火拳、光拳、空拳だ」
「三つもですか? 意外とやる気だったんですね?」
俺の言に、武田さんは不敵な笑みを浮かべる。
「この三つがあれば、遠距離から攻撃が出来るんだよ。火拳による熱と爆発。それを光拳で自由に操作し、空拳によって空間把握能力を上げる事で、的確に敵に命中させるのさ」
そうですか。武田さんは『空識』に『転置』もあるからなあ。成程、闘技場で二十七連勝も出来た訳だ。
「と言うか、リットーさん、どれだけ『五閘拳』の種類を覚えてきたんですか?」
「ガッパ殿から覚えられるものは、ほぼ全て教えて頂いたな」
リットーさんのしつこさに、辟易しているガッパさんの顔が、容易に思い浮かぶな。
そうこう話しているうちに、目的の店に到着した。
「武器屋じゃない」
そう呟くのはバヨネッタさん。そう。俺が来たのは交換所ではなく、武器屋なのだ。
「ここで魔物のドロップ品……、と言うか死体を引き取って貰うんです」
「お金にしかならないわよ?」
「ガチャは出来るじゃないですか」
交換所で交換出来るのは、魔石とダンジョンの宝箱から出たアイテムなどで、倒した魔物の死体などは、一度武器屋やアイテム屋に引き取って貰って、武器や防具、アイテムにして貰ってから、そのアイテム類を交換所に持っていくか、死体を引き取って貰った時のお金でガチャをやり、そこで出たアイテムだけだ。何とも面倒なシステムである。まあ、交換所からしたら、死体を直接持ち込まれても困るのは分かるけど。
「二千七百万ヘルになります」
「意外と高値が付いたな」
デムレイさんがクワガタとカブトの死体の買取価格に驚いている。
「クワガタの甲殻はカブトのものより頑丈で、武器としても防具としても扱い易いので、高額になるんですよ。あまり市場に出回りもしませんし」
武器屋の店主の言葉にデムレイさんたちが感心していた。ゲームの経験がないと、ここら辺は分からない部分だろうからなあ。でも、武田さんなら分かっていてもおかしくないような……。あの人ボス部屋まで行っていなかったや。
それにしても思った以上の収入になったな。これを武器などのアイテムに変えるか、ガチャに回すか悩ましいところだ。
ちなみにガチャには一回やるのに百万ヘル掛かる金ガチャ、五十万ヘルの銀ガチャ、十万ヘルの銅ガチャがあり、一回で十アイテムが排出される。それ以外にも一回一アイテムのガチャとか、期間限定ガチャとかあるけど。それが良いのかもまた悩ましい。
「どうですかお客さん、今ならクワガタの大顎で作った双剣や、カブトの角の大剣、トカゲの鱗で作った鎧や、トンボの翅で作ったローブなんてものがありますよ」
店主が俺が金持ちになったと分かって、色々薦めてくる。確かに色々あるな。しかし武器や防具の性能が数値化されているが、それがどれくらいのものなのか分からない。いや、数値以外にも、クワガタやカブトの武器なんかには、『炎耐性』が付いていたり、トンボのローブには『速度上昇』や『空中浮遊』が付与されていたりする。単純に武器防具としてなら、アニンがいるからいらないが、このような付与がなされているなら、ちょっと欲しいと思ってしまう。
「普通に『速度上昇』は欲しいんだよなあ。これって、魔力消費するんですか?」
「いえ、魔石を組み込んでいますし、平時に着ているだけで、消費される魔力は貯まっていきますから、余程連戦するような事態にならなければ、魔力切れは起こしませんよ」
それなら買っても良いかなあ? いや、
「トンボのローブ以外にも、『速度上昇』系の防具ってあります?」
俺の言葉ににんまり笑顔を向けて、店の奥へと消えていく店主。どうせならここで防具を一新するのもありか。町役場で働いた分の給金もあるし。
「防具変えるのか? 確かにハルアキって、ぺらぺらの服着ているだけだしな」
デムレイさんの問いに首肯で返す。そうなのだ。なんだかんだと、俺はここまで基本的につなぎを着て冒険してきていた。それはアニンが盾になれると言うのもあったし、何なら『闇命の鎧』にもなれるし、『聖結界』と言う強力な結界スキルを持っていたのもあったし、『回復』と言う貴重なスキルを持っていたのもある。
そんな訳で俺は、魔王軍との決戦を間近にして、初期装備のまま戦争に突入するところだった訳だ。我ながら頭イカれているな。ここまでやれてきていたのが奇跡じゃないか。
「『速度上昇』系の防具でしたら、隼の羽根から作ったマントなどどうでしょう? 他にも狩猟豹の靴や、ゴキブリの甲殻で作った鎧などもありますよ」
「ゴキブリはいりません!」
何が悲しくてゴキブリの鎧を着なきゃならんのだ! はあ……。それはそれとして、隼に、狩猟豹は確かチーターだったはず。悪くないな。う〜ん、でもお高い。
「これって、ボッタクリじゃないんですよね?」
店主を睨むが、にんまり笑顔のままだ。
「もう少しお安くなりません?」
「素材持ち込みでしたら、考えない事もないですけど」
くっ、足元見られているな。俺は、どうしたものか。と皆を振り返る。
「隼や狩猟豹は、このエキストラフィールドの奥に生息する魔物だからねえ。値段もそれなりになるのは仕方ないよ」
とはミカリー卿のお話。そうなのかあ。こう言うのって、悩みどころだよなあ。でも俺一人の問題で、皆に無駄な時間を使わせる訳にもいかないし。
「隼とか狩猟豹って、俺でも倒せます?」
「ここにいる全員で戦ってやっとね」
俺の的外れさに、バヨネッタさんが肩を竦める。そりゃあそうだよなあ。エキストラフィールドだもん。
「いっそここで買うより、ガチャや交換所の方が、ワンチャン良いものがあるんじゃないか?」
値段と装備の性能に、頭ぐるぐるだった俺に、武田さんのこの一言。うう、更に悩む要素を増やさないで欲しい。どうしたものかなあ。
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