第562話 課題

 武田さんの『転置』で、二層半ばにある岩山まで転移してきた。ちなみにアリの巣はここから安全地帯の町を挟んで反対にあるので、この岩山をクリアしたからと言って、アリの巣も、と言うのは効率的ではない。


「岩山……かあ」


 確かに人間からしたら見上げる程大きな山ではあるが、周囲の巨樹と比べれば低い。巨人がいたずらにその辺の石を積み上げた。と言われたら納得するような形である。


 こちらの面子は俺、リットーさん、ミカリー卿、デムレイさん、カッテナさん、武田さんの六人に加えて、リットーさんの愛竜であるゼストルスに武田さんの従魔であるヒカルの二体を加えたメンバーだ。


(この面子だと前衛がデムレイさんとリットーさん、中衛が俺に武田さん、後衛がミカリー卿にカッテナさんって感じか。案外バランス良いかもなあ)


 俺がぐるりと皆を見回し、


「じゃあ、行きますか」


 と音頭を取ると、自然と俺が今考えたフォーメーションになって岩山を登り始める。



 岩山のダンジョンに出てくる魔物は、基本的に巨樹のダンジョンの木の人形のパーティのゴーレムバージョンだった。ゴーレムだって言うのに、パーティ組んで襲ってくるなよ。しかも六体編成とか、カヌスの奴狙っているだろ。


「ゼストルス!」


 リットーさんの命にゼストルスが応えるように、上空へと飛翔し、口を開けて前衛タンクのゴーレムに竜炎を吐き掛ける。これによってドロドロと溶けていく前衛ゴーレム。形としては普通のゴーレムだが、これは前衛のタンクとして、ボディを硬くする為に、鉱物が多く含まれている為のデメリットだ。とは言えタンク。普通の炎程度で溶ける訳はないのだが、流石は竜の炎。威力が違う。ここが巨樹のダンジョンじゃないって事もこちらに有利に働いているな。


 ゼストルスがタンクをドロドロに溶かしている間に、相手ゴーレムの中衛、後衛が動き出す。


 後衛は移動砲台と言ったら良いだろうか。頭に砲弾、両腕に光線を放つ発射台が付いているが、その動きは鈍い。しかし間断なく砲撃と光線が飛んでくるので、戦場は滅茶苦茶だ。


 移動砲台の後衛の相手は、こちらの後衛であるミカリー卿とカッテナさんの仕事だが、一発一発の威力はカッテナさんの短機関銃を上回る為、その護衛としてデムレイさんとリットーさんがタンクとして防衛に回っている。デムレイさんが『岩鎧』の強度で、リットーさんは『旋回』でいなす形だ。これで生まれた隙に、ミカリー卿とカッテナさんが移動砲台を叩く。


 中衛は機動型。細身のボディに四脚で、足下の凹凸が激しい岩場であっても、それをものともせずに高速移動でこちらへ迫ってくる。腕は剣や斧の形をしており、それらが人間ではあり得ない軌道で振り回されるので、普通に近付くのも難しい。


 しかしそれらを難なく躱すのが武田さんだ。『転置』でヒカルやその辺の石と居場所を交換しながら、上手く機動型の死角を突いて、光の剣や、『五閘拳』のミックス(火拳、光拳、空拳)で中距離から爆発光線を撃ったりするのだ。ヒカル自体もレベルアップしているうえに、武田さんの『五閘拳』の影響を受けているようで、これまでは普通の熱光線だったものが、相手に当たると爆発するようになっていた。


 まあ、武田さんは元々勇者だった訳で、そんな人が俺と同じレベルになれば、俺よりも上手く魔物を倒せるのも当たり前なんだろうけど、なんかモヤる。武田さんがレベル一で俺たちにケンカ売ってきて、馬鹿やっていたのを知っているからだろうか? あれ? もしかして俺、無意識下で武田さんを自分よりも下に見ていた? それもモヤるな。


 そんな悪感情に囚われていたからと言って、相手ゴーレムが俺を放っておいてくれるはずもなく、機動型のもう一体が現在進行形で俺へ攻撃を繰り返しているのだが。俺はそれを『時間操作』タイプCで自分の時間を速くしつつ、周囲の時間を遅くして、躱し続けていた。


 ガギンッ!!


 相手機動型ゴーレムの剣を躱し、その隙に相手ゴーレムの脇腹へアニンの曲剣で薙ぐが、あまりダメージが与えられている気がしない。流石はエキストラフィールドのゴーレム。機動型と言っても硬い。俺以外の面子は結構ダメージ与えているんだけどなあ。


 ゼストルスは言わずもがな。ミカリー卿もそれに負けず劣らずの火力だし、デムレイさんはそもそも鉱物で出来ているゴーレムに強い。リットーさんも『有頂天』に『五閘拳』を加える事で、その強さは上記三名に引けを取らない。武田さんはヒカルとともに安定した戦い方をしているし、カッテナさんには黄金のデザートイーグルによるデカい一発がある。こうなってくると、アニンがあっても、カッチカチのゴーレムが相手だと、俺の戦闘力の低さが露呈してしまうな。


『それはハルアキが『時間操作』に魔力を多く割いているからだ』


 とアニンが不満たらたらに言ってくる。仕方なくない? 相手は機動型ゴーレムなんだから。


『はあ。今のハルアキならば、『有頂天』のLPを我に集中させれば、こんな雑魚、一刀で斬り伏せられるぞ』


 マジっすか? いや、でも、LPを曲剣に集中させたら、速度の勝る機動型に簡単に避けられるんじゃ?


『ハルアキ、何の為に『加速』付与の指輪を手に入れたんだ?』


 ポイントを余らせるのも勿体ないと思って?


『おい』


 冗談だよ。でも俺的には、『時間操作』との併用を考えたうえでの選択だったんだけどなあ。


『それは今後の課題だな。この岩山で、どのくらいの塩梅でスキルやギフトと併用していけるのか検証するのが良いだろう。今はまず、眼前の敵を倒す事に注力せよ』


 それもそうだな。と俺は『時間操作』タイプCを解除する。途端に周囲の動きが速くなり、機動型ゴーレムの動きを目で追えなくなり見失った。が、ゴーレムさんよ、今の一瞬で俺を屠らなかったのは悪手だったな。


 俺は直ぐ様『加速』付与の指輪を発動させると、『全合一』で機動型ゴーレムの位置を特定し、背後から振り下ろす機動型ゴーレムの剣を身体を横にひねって紙一重で躱すと、その勢いのまま『有頂天』のLPをアニンの曲剣に集中させ、先程放った脇腹への横薙ぎの箇所へ、寸分違わぬ横薙ぎを食らわせる事で、機動型ゴーレムを上下に寸断せしめたのだった。


「ふう……」


 一息吐いて周囲を見回せば、他の皆の戦闘は終わっており、俺が倒したのが最後だったようだ。はあ。ここでの俺の目的は、当然金目の物を集めるのもそうだが、漫然と基礎能力の向上や広範囲の感知とかに扱っていた『有頂天』を、状況に応じてしっかり扱えるようになる事も加える必要がありそうだ。

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