第554話 置いてきぼり

 真っ赤な人型? の魔物と握手を交わす。人型? と形容するのは、全身真っ赤だからだとか、腕が四本あるとか、そんな事ではなく、形がパリのオートクチュールのファッションショーに出てくるような奇抜な形だからだ。


「よ、よろしくお願いします」


「ええ、任せてください!」


 わ、笑っているのかな? 形状が奇抜過ぎて表情が読めない。俺が握手をしているのは、アートの国からやって来た、俺の後任となる助役の魔物さんだ。その後ろには他の四国から派遣されてきた助役たちもいる。そっちは割りと普通? いや、魔物だから、まあ、肌の色が緑だったり、赤紫だったりするけど、アートの国から来た人に比べれば、地球人類の常識から当て嵌めればふつうの部類だろう。


 何であれ、俺は後任の助役さんたちに引き継ぎをして、後の事はオブロさんに任せて町役場を後にした。オブロさん以外にも秘書は付くし、大丈夫だろう。魔物たちの国の事だし、魔物たちに任せれば良い。といかないのが難儀だが。


 ブーギーラグナの支配地域で、今回同盟を締結した五ヶ国は近しい位置に存在する。しかも少し遠回りになるが、ブーギーラグナのいる居城側だ。だからブーギーラグナの居城へ向かう時に、各国を通る許可を上手く取り付けたのだが、問題となるのは元ボッサムの国だ。


 五ヶ国の内の一国が元ボッサムの国と接しているのだが、そこは五ヶ国最強のアートの国ではなく、小国なのだ。ブーギーラグナが用意した魔石の発掘地区からは近いが、恐らく今回の同盟に噛めなかった他国が、この小国から俺たちが発掘地区に行くのを妨害してくる可能性は高い。


 ブーギーラグナは伝聞だが、力を重要視するきらいがあるようなので、小国から発掘地区までの短い距離くらい、自力で開拓しろ。とか思っていそうだ。俺たちを発掘地区へ行かせない為に足止めしてくる他国の魔物たちが、どの程度のレベルなのか分からないが、一筋縄ではいかないのは目に見えている。となると、このエキストラフィールドを出たところで、シンヤたちともう一度話し合い、今後の方針を決めておいた方が良いだろう。


 事前にどう行動するか決める為にも、小国さんとは、いや、六領地同盟とは仲良くしておきたいところだ。その為には、俺たちの価値を示さなければならない。一番の大国であるアートの国には地上や地球のアート作品を提示すれば良いが、他の四国はそうはいかないからなあ。他の四国が何を欲しているのか探る為にも、ちょくちょく町役場には顔を出しておくべきか。はあ、面倒臭い。



「あれえ? 今日闘技場じゃないの?」


 宿屋に戻ってきたら、ダイザーロくんがアンデッドたちとポーカーをしていた。闘技場はもう再開しているのだし、ポーカーなんてしている暇あるのか? リットーさんの性格からして、ガンガン闘技場にエントリーさせると思っていたけど。


「俺は午後からですね。六領地同盟の締結で、各国からエントリーしてくる闘士が増えたので、前よりもエントリー出来る機会が少なくなっちゃったんですよ」


 ああ、成程。それでポーカーか。


「武田さんとカッテナさんは午前にエントリー出来た感じ?」


「セクシーマン様はそうですけど、カッテナさんはバヨネッタ様たちと同行して、ダンジョンに行っています」


「ダンジョンに!? 大丈夫なの!?」


 俺の反応をどう捉えたのか、難しい顔をして腕組みするダイザーロくん。


「ギリギリですかね。リットーさんに鍛えられて、俺もカッテナさんも今、レベル四十八なので、周りの援護があれば、いくつかあるダンジョンでも、一番簡単なダンジョンなら、生きて帰ってこれます」


「…………え?」


 レベル四十八? 嘘? このエキストラフィールドの魔物のレベルが高いからって、もうそんなにレベル上がっているの? 俺まだレベル四十七なんだけど?


 俺は思わずダイザーロくん相手に『鑑定(低)』を使用してみるが、ダイザーロくんのレベルが俺よりも高いからだろう。ステータスは見れなかった。マジかー。俺は思わず膝を突いてしまう。


「え? ハルアキ様? 大丈夫ですか?」


 心配して駆け寄ってきてくれたダイザーロくんに、声を震わせながらもう一つ問い掛ける。


「た、武田さんのレベルって今いくつ?」


「四十六です。セクシーマン様はリットー様に特にこってり絞られていましたから。もしかしたら、今日の闘技場での闘いで、またレベルが上がるかも知れませんね」


「…………そうなんだ」


 俺は幽鬼のようにゆらりと立ち上がると、ふらふらとした足取りで、自室として押さえてある部屋のある二階へと向かう。


「は、ハルアキ様? 大丈夫ですか?」


 心配してダイザーロくんが声を掛けてくれるが、俺よりも強者となったダイザーロくんの言葉が、今はマウントの様に聞こえて心臓が痛い。


「うん、大丈夫。仕事で疲れただけだから、寝れば大丈夫だから」


 そう返事をして、俺は自室に篭った。うう、俺はこのエキストラフィールドに来て、一体何をやっていたんだ。このエキストラフィールドは、カヌスが俺たちを強化させる為に用意した場所だろう? 何でここで暮らす住民たちの暮らしを良くする為にあくせく働いていたんだよ。その時間を戦いに費やせよ。まあ、覆水盆に返らず、後悔先に立たず、時すでに遅しの後の祭りで、時間は逆戻りしないんだけど。はあ。



 その日の夜。闘技場から帰ってきた武田さんは、確かに俺と同じレベル四十七になっていた。ついでにバヨネッタさんたちに付いていったカッテナさんも、レベル四十九になっていました。俺、この三人よりもレベル五十に到達するの遅いと思う。心で涙しておこう。

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