第555話 ダンジョンへ
「ここがダンジョンですか」
首が痛くなる程に見上げる巨樹。高さ二百メートル、直径五十メートルはあるんじゃなかろうかと言う、周りの巨樹たちと比べても抜きん出て大きい巨樹。その根元に人が入れるだけの洞が口を開けて待ち構えていた。
「そうよ。このエキストラフィールドのダンジョンは巨樹の中にあるものが多いの。このダンジョンはその中でも一番簡単なダンジョンだから、ハルアキでも最上階まで行けると思うわ」
そう俺に説明してくれるバヨネッタさん。晴れて町役場の仕事から解放された俺は、ダイザーロくんやカッテナさんたちの躍進に、先駆者としての威厳を破壊されて挫けた心を何とか持ち直し、遅れを取り戻そうと、バヨネッタさんたちに同行してダンジョンでレベル上げをする事としたのだった。
「大丈夫かい?」
初ダンジョンに挑む俺を心配してか、ミカリー卿が声を掛けてくれた。俺はそれに対して首肯で返す。
「ハルアキは流石は『有頂天』を獲得しているだけあって、索敵能力は高いし、戦闘に関しても、まだ『全合一』止まりのダイザーロやカッテナ、タケダよりも上手くやれているよ。アニンもあるし大丈夫だろ」
デムレイさんがそんな励ましをしてくれる。確かに、レベルこそダイザーロくんやカッテナさんに劣るけど、アニンと『有頂天』がある分、強さ的には遜色ないだろう。と思いたい。
「さて、おしゃべりも休憩もそこまでにして、ダンジョン攻略に行きましょう」
ダンジョン入り口前でたむろしていた俺たちだったが、バヨネッタさんの一言で立ち上がった俺は、直ぐ様『有頂天』状態へと移行する。このダンジョンに来るまでに、安全地帯の町からずっと『有頂天』状態を維持してきた為に、ダンジョン突入前に疲弊してしまったので、ミカリー卿とデムレイさんのお二人に、周辺を警戒して貰いながら、休憩していたのだ。
ここに来るまでに、いくつか戦闘をこなしてきたのも疲弊した理由だ。やはりこのエキストラフィールドの魔物は、アルティニン廟の魔物よりも段違いに強い。一番弱いと言われる巨大アリや巨大アブラムシでさえ、俺一人では倒すのに時間が掛かる程だ。
「このダンジョンに出てくる魔物って、外をうろついている魔物よりも強いんですよね?」
鉱石の鎧を着込んだデムレイさんを先頭に、俺、バヨネッタさん、ミカリー卿の順にダンジョンに入っていく。
「当たり前でしょう。そうは言っても、他のダンジョンと比べれば、ここの魔物は弱いわよ」
と後ろのバヨネッタに言われては、「そうですか」と答えて、覚悟を決めるしかない。
ダンジョン内部は巨樹の中に造られただけあって、根や枝が縦横に張り巡らされていた。
「罠もあるから気を付けろよ。特に根や枝な。ここは罠も少ないが、もっとレベルの高いダンジョンになると、罠も多くなる。下手に根や枝に触れるだけで、罠が作動し、根や枝が攻撃してくるし、拘束されるし、それらを避けて普通の床に足を置いたら、それが罠で、罠を作動させたりするからな」
流石はこのエキストラフィールドのダンジョンに慣れているだけあって、デムレイさんの金言は為になる。
「罠解除が必須なら、俺が先頭に出ましょうか?」
俺がそう申し出ると、俺を挟むデムレイさんとバヨネッタさんから溜息がこぼれた。
「私たちが何度このダンジョンに挑戦していると思っているの?」
「そう言う事だ。幸いあの町の交換所の景品には、スキルスクロールもあってな。俺は『罠探知』のスキルは取得済みだ」
「そうなんですか?」
交換所の景品に何があるのかなんて、まるで気にしていなかったから驚きだ。それならダイザーロくんやカッテナさんもそれ系のスキルを交換しているかも知れないな。バヨネッタさんには
『罠探知』で罠を探知出来るからと言って、順風に先へ進める訳ではない。デムレイさんが取得しているのは『罠探知』であって、『罠解除』ではないのだ。なので、どの根や枝を切り、どれを避けねばならないか考えながら先へ進まなければならない。
しかも根や枝は通路を塞ぐように縦横に張り巡らされているうえに、魔物まで襲ってくるのだ。
「来たわね」
基本的に出現するのは木の人形のような魔物だ。それがパーティを構成して襲ってくる。盾持ちのタンクを先頭に、剣士や槍士などの物理攻撃職に魔法使いにヒーラーまでいる。何とも正統派なパーティ構成だ。
今回はタンクに剣士、魔法使いにヒーラーと、ザ・正統派だった。
魔物たちはどうやら罠の位置を把握しているのか、魔物には罠が適用されないのか、狭い通路でもお構いなしにガンガン攻めてくる。
幸い俺の『有頂天』による索敵と、バヨネッタさんのギフトによって敵に先制される心配はなく、会敵すると、まずバヨネッタさんがキーライフルをぶっ放す先制攻撃から始まる。しかし敵もさるもので、それをタンク役の木の人形が明らかに木製であろう大盾でしっかりと受け止めると、敵魔法使いとミカリー卿による魔法の撃ち合いが始まり、それを敵タンクとデムレイさんが引き受けているうちに、俺がアニンの曲剣で突撃し、敵の剣士などと斬り結ぶ。
バヨネッタさんは適宜状況を見定めつつ、俺と戦っている剣士や、タンクの陰に隠れる魔法使いやヒーラーへ攻撃だ。
相手は連携がしっかりしているうえに、どうやら巨樹の中である事自体が、相手へのバフとなっているようで、この四人でも倒すのにそれなりに時間を取られる。
それでも、敵タンクへミカリー卿が氷結魔法を叩き込み、凍り付いた敵タンクをデムレイさんが粉砕した事で状況が好転し、バヨネッタさん、ミカリー卿、デムレイさんによって敵魔法使い、ヒーラーが倒され、
「でやっ!!」
敵剣士による上段からの重い一閃を、アニンの曲剣を斜めに構える事で受け流すと、俺はそのまま逆袈裟で敵剣士の胴を斬り上げ寸断する。
「はあ……。何とか倒せた」
「さ、次行くわよ」
俺がどうにか剣士を倒して、ホッと一息吐いたばかりだと言うのに、バヨネッタさんたちは慣れているからだろう。さっさと次へと進んで行く。俺はそれに遅れないようにと、駆け足でパーティ内の所定の位置へと戻るのだった。
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