第550話 図らずも九死一生
「どうにかしろ」
ジオから呼び出しがあった。
「何がですか?」
とぼける俺にジオが嘆息をこぼす。
「お前のパーティの魔女の事だ。この安全地帯の町は、私とベイビードゥによって成立しているんだぞ。ベイビードゥがこう何度も消滅と復活を繰り返していては、正常な町運営が出来ん」
さいですか。余程堪えているのだろう。年を取らない怨霊であるジオの顔がちょっと老けて見える。
「そう言われても、俺の言う事を素直に聞く人じゃないですからねえ。まあ、それとなく話は振っておきますよ。あの人もこの町がなくなっては困るでしょうから」
「そうしてくれ」
やれやれともう一度嘆息をこぼしたジオは、よっこらしょと重そうに椅子から立ち上がった。
「俺としてはこっちの方がどうにかしてくれ。って感じですがねえ」
「それは同感だが、下手に関係をこじれさせる訳にもいかない」
俺の言葉に同意するジオだったが、だからと言って、立場的にこの後に控える各国の使者を交えた会議を疎かにする訳にもいかない。それに付き合わされる俺の身にもなって欲しいものだ。
「いっそカヌス様とブーギーラグナ様で直接会談とかして、この町をどう運営していくか決めてくれませんかね?」
が、俺の言葉を聞いたジオは、怨霊らしく恨みがましい視線をこちらへ送ってくるのだった。
「誰のせいでこの町が出来たと思っているんだ」
「俺たちが悪いんですか?」
そりゃあ攻略速度がカヌスの想定以上だったのはその通りだけど。
「それにカヌス様は今、お前が進呈したゲームに夢中で、こちらへ手を回す時間はない」
吐き捨てるように言って、執務室を出ていくジオの後を追う。ゲームって言うかスマホを進呈した覚えもないし、ゲームに夢中だから部下の町は部下任せ。は上司としてどうかと思うぞ。
「……ですから、私たちの国が出資する事で、現状よりもこの町は1.8倍の利益を上げる事が可能となり、更なる町の発展と、我が国との強固な関係を築く事が可能となるのです」
ある国の使者が、自分の国と協力するメリットを長々と述べて着席した。やりきった顔しているが、
「すみません」
「何かな?」
手を上げた俺に、使者は俺へ見下すような視線を向けてきた。
「前回あなたの国から協力を受けると、1.6倍の利益となるとあなたはおっしゃられていましたが、何故前回と同じプレゼン内容なのに、利益が1.8倍と0.2ポイントも上昇しているのでしょうか?」
「な? そ、それは国と連絡し、計算をし直したからですよ」
「でしたらそのデータをこちらへも提出して頂きたいのですが。でなければ、何がどうなって利益が上がったのかこちらは分かりませんし、協力して町を発展させていくのに、齟齬が生じてあなたがおっしゃられた通りの利益を上げられない可能性が出てきます」
「っ!! …………分かった。国へ早急に改善した資料を提出するように連絡しよう」
俺の指摘に、俺を見下していた視線が殺意に変わる。それは俺が指摘した事そのものよりも、俺の指摘によって、この会議に出ている他の国の使者たちから、嘲るような視線を向けられ、恥をかかされたと思っての事だろう。うう、俺よりレベルが高い魔物相手に、本当はこんなやり取りしたくないのだが、副町長と言う立場上、やらざるを得ないせいでお腹が痛い。
その後も各国の使者はある事ない事口にして、どうにか自国に有利に事を運ぼうと企てるが、何か発言する度に俺が指摘するものだから、会議場全体にフラストレーションと言う名の殺意が高まっていく。
「……我が国としましては、この町をただの娯楽のある町とするのではなく、別に観光名所となるものを設ける事で、他国からの観光客を呼び込み、町の発展に繋げていけたらと思う所存です」
とどこかの国の使者が発言する。観光名所ね。闘技場やカジノも十分に観光名所になり得るけど、どうやら闘技場や賭場は各国に当然のようにあるらしい。だからそれとは別にこの町独自の観光名所を作ろう。と言うのがこの使者の言い分だ。
「ですので、私が提案するのはアートです!」
確かに瀬戸内海に浮かぶ小豆島のように、アートを売りにしている場所と言うのはあるが……、
「我が国にはアーティストが多数存在しており、この町をより表情豊かな町へ変貌させてみせます!」
使者の熱量が凄いな。この国は本気で自国のアートを売り出したいのだろう。前回貰った資料にも、アート作品の資料データがこれでもか、と添付されていたからなあ。
「すみません」
「はい!」
俺が手を上げた事で、会議に参加している他の国の使者たちは、「またか」と言う視線を向けてきたが、この使者はそんな事は気にしていないようにハキハキと返事をしてくれた。
「今回も沢山の資料データを渡してくださった事はありがたいのですが、前回よりも参加人数が増えた事で、予算が大分かさんでいるのですが」
「それは、その、この新たに出来た町に我が国のアーティストたちが刺激を受けまして、是非参加したいと参加希望者が大幅に増えまして……」
成程ねえ。まだ見ぬ世界は確かにアーティストにとって、想像力や創造力を刺激するものかもなあ。
「おい」
「……何か?」
アートの国の使者とは別の国の使者が口を挟んできた。
「貴様、調子に乗るなよ」
うわあ、凄い圧。他の国の使者たちも睨んでいるなあ。『逆転(呪)』があるから抵抗出来ているけど、そうじゃなかったらこの圧だけでひしゃげていそうだ。後ろで議事録を取っているオブロさんとキーヤさんが怖がって震えている。
「別に調子に乗っているつもりはありませんが、私の態度がその様に映ったなら、申し訳ありませんでした」
「何が「申し訳ありませんでした」だ! 貴様、さっきから細かい事に一々文句を言ってくるが、その割りには手元の資料に目を通していないではないか! 我々に資料と違う、データを出せと言っているが、根拠もなく適当な事を言っているのは貴様の方だろう!」
ああ、そう見られていたから、皆イライラしていたのか。
「問題ありません。皆様から受け取った資料やデータは全て頭に入っていますから」
「戯れ言を!」
「いえ、戯れ言ではなく、私が『記録』を持っているからです。ですから記憶するのは得意なんですよ」
俺の一言に会議場が静まり返る。え? 何で? そんな凄い発言したっけ?
「ハルアキは『記録』持ちだったのか」
横のジオも少し驚いた表情をしている。
「ええ、まあ。『記録』って、別にユニークじゃないですよね?」
「ユニークではないが、レアスキルの中では限りなくユニーク寄りだな。お前たちと魔王軍との戦争の今後を左右する程に」
「はあ!?」
訳が分からない。『記録』なんて、単に記憶力が良くなるだけじゃないのか?
「だがまあ、これで各国の使者たちは、お前に手出しする事が難しくなったな」
会議場を見回し、狼狽が見え隠れする各国の使者たちの姿に、ほくそ笑むジオ。って言うかやっぱり俺、命狙われる程妬まれていたのね。あぶねー。何か知らんが助かったっぽい。
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