第551話 相談事

「四月だっ!!」


 俺が『記録』持ちだと分かったからか? 他国の使者から自国押し攻勢も一段落し、今日は一日休暇となった。なので久し振りに昼前まで寝こけ、遅めのブランチと洒落込んだ俺だったが、ふとオルさん謹製の腕時計で何日か確認したら、既に四月となっていた。


「どうしたんだ? そんな大きな声を出して?」


 アンデッドたちと何やらやっていた武田さんが、俺の発狂に驚いて、ダイザーロくんと食事をしていたこちらへやって来る。


「武田さん! もう四月ですよ!」


「ああ、もうそんなに経ったのか」


「呑気!」


「呑気って、そんな焦っても仕方ないだろう?」


「武田さん、社長業あるでしょ!? 大丈夫なんですか!?」


 俺の追及に、そんな事か。と溜息を吐く武田さん。


「うちは俺がいなくても回る仕組みだからな。あいつらなら好きにやっているだろうよ」


 そうですか。まあ、クドウ商会も俺がいなくても利益上げているしな。社長なんて基本的にお飾りだよねえ。でも、


「学校どうしよう……。もう春休み終わっちゃうよ」


 俺の呟きに武田さんが呆れたように、そして驚いたように声を上げた。


「ハルアキ、お前まだ高校通っていたの?」


「当然ですよ!」


 俺の反論にもう一度溜息を吐く武田さん。


「お前は今バヨネッタ天魔国の首席宰相なんだぞ。それだけでも大変なんだ。クドウ商会の引き継ぎもあるし、魔王軍との戦争の準備はしないといけないし、地下界でブーギーラグナと会わなければならないし、地球の勇者探しに、残りのガイツクールの所持者を決める武闘会だって控えている。ハルアキ、お前既に予定がパンクしているよ。そこに学生業までねじ込む隙はないだろ?」


「しかしですねえ……」


「何がそんなに心配なんだ?」


 武田さんから見て、いや、遠巻きに俺たちを見守っているアンデッドたちからも、何だか心配している気配を感じる。


「…………家族が心配します」


「は?」


 俺の答えは武田さんからしたら予想外だったらしく、呆けた顔で卓の俺を見下す。


「ハルアキ、まさかまだ親に自分が何をしているのか、どう言う立場にあるのか、説明していないのか?」


 俺は首を横に振る。


「いえ、俺がバヨネッタ天魔国の首席宰相になった事は家族も知っています。でも恐らく戦争に関しては後方支援くらいだろうと認識しているかと」


「はあ〜〜〜〜〜。そこは説明しておけよ。お前は今回の戦争のキーパーソンの一人なんだぞ?」


「それは……! そうかも知れませんけど、あんまり家族は心配させたくないないじゃないですか。俺の場合、二年前のあの事故で、下手したら死んでいたかも知れないし、戦争の最前線で戦うとはどうしても……」


「はあ〜〜〜〜〜」


 やれやれと言わんばかりに首を横に振る武田さん。


「家族思いも結構だが、家族思いなら尚更説明しておけ。最前線で戦う事になるお前は、今度の戦争で一番死ぬ確率が高くなるんだからな」


 そうか。とストンと武田さんの言葉が腑に落ちる。俺がこの世で一番強い訳じゃない。ジオの話では今度の戦争は魔王軍に分があるみたいだし、何とか魔王ノブナガを倒せたとしても、俺が死んでいる可能性だってあるんだ。出兵前、いや、このアルティニン廟を攻略した段階で、家族に打ち明けよう。


「吹っ切れたみたいだな。顔付きが変わったぞ」


「はいはい。俺は何でも顔に出ますよ。それより武田さんは何をやっていたんですか? 何だか住民たちと盛り上がっていましたけど」


 俺の質問に、武田さんは両手を腰に当ててふんぞり返ってみせた。何やら褒めて欲しそうだな。聞かなきゃ良かったか?


「ハルアキはトランプ、バヨネッタはドロケイと、色んなゲームをこの町に持ち込んだろ? それで住民たちから俺にも何かないか? って要望が来てな。そこで俺が作ったのが、ピンボールマシンだ」


「ピンボールマシン、ですか?」


 それってアメリカのバーなんかに置いてあるあれか?


「そんなの作れたんですか?」


 食い付く俺に、ちょっと恥ずかしそうに横を向く武田さん。


「まあ、小学生時代に取った杵柄と言うか……」


「はあ……?」


 何だろうか? 歯切れが悪い。しかし武田さんが作製したピンボールマシンがどんなものか気になるので、席を立ってちょっとアンデッドたちが集まっていた方へ向かうと、俺に気を使ってか、モーゼが海を分けたように道が出来る。


「…………成程」


 アンデッドたちから譲れた道を通って進んだ先には、木製の何とも可愛らしいピンボールマシンが設置されていた。あれだ。小学生が夏休みの宿題で作る自由工作みたいなやつだ。


「良くこれで、一瞬でも胸を張れましたね」


「仕方ないだろ。材料の問題だよ、材料の問題。もっと色んな材料があれば、俺だってもっと凄いピンボールマシンを作れる!」


 疑いの目を向ける俺に、武田さんは慌てたように『転置』で自身のリュックを手元に転移させ、その中からノートパソコンを取り出すと、何やら操作してバッとPC画面を見せ付けてきた。


「これが俺が本来作りたかったピンボールマシンだ!」


 見せられたのはピンボールマシンの設計図で、それを見るとどうやら本当に本格的なピンボールマシンを作りたかったのが分かった。なので俺は『空間庫』からプリンターを取り出すと、


「その設計図、コピーさせて貰っても良いですか?」


「お? おう?」


「町役場に、って言うかジオやカヌスに提出すれば、すぐに用意して貰えると思いますから」


「おお! マジか! するする! コピーな!」


 と武田さんは直ぐ様ノートパソコンをプリンターに接続する。


「ダイザーロ、電気頼む!」


「あ、はい」


 武田さんに言われて、慌ててこちらへやって来たダイザーロくんが、プリンターのコンセントを握ってプリンターに電気を通すと、起動したプリンターを使ってピンボールマシンの設計図のコピーを取る武田さん。


「じゃあこれ、よろしくな!」


 出来上がった設計図のコピー数枚を、武田さんが俺に突き付けてきた。


「他にも提案だけでも何かありましたら、よろしくお願いします」


 俺の言に対して、俺がいれば出来る事が案外多いと悟った武田さんは、あれこれ言ってくる。射的に金魚すくいに型抜き? お祭りか縁日かな? クレーンゲームにコインゲームにリズムゲーム? ゲームセンターかな? 映画館は何を上映するつもりなんだろうか? アンデッドたちも娯楽に飢えていたようだが、現代人の武田さんも娯楽に飢えていたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る