第516話 捗る探索

 ベイビードゥ戦後、一旦地上に戻って、再度ダンジョンアタック。様変わりしていた地下四十一階にて、鍵穴二つの宝箱を発見した。皆興味があったからだろう、今回は異世界式ジャンケンをして、ミカリー卿が開ける事になった。


「また片眼鏡だね」


 入っていたのはやはり片眼鏡だった。それを早速武田さんに鑑定して貰うミカリー卿。そして崩れ落ちる武田さん。


「え? どうかしたんですか?」


 いきなり崩れ落ちれば心配にもなる。俺が声を掛けると、震えた声で武田さんは、この片眼鏡の性能を説明してくれた。


時読みの片眼鏡:MPを込める事で時間を正確に刻み表示する。また他の魔道具と組み合わせて使用する事も可能。


「ああ〜〜」


 成程なあ。わざわざ時計を用意しなくても、宝箱の中に時計が用意してあった訳か。


「うっわあ、俺、馬鹿みたいじゃないか!」


「タケダが馬鹿なのは前からでしょう」


 バヨネッタさんの辛辣な一言に撃沈する武田さんだった。そんな武田さんを横に、ミカリー卿がこの時読みの片眼鏡を掛けてみる。が、


「ふむ。これはハルアキくんに贈呈しよう」


 とすぐに俺に差し出してきた。


「俺にですか?」


「ああ。組み合わせて使用するらしいからね」


 組み合わせて使用……! そう言う事か! と俺はミカリー卿から渡された時読みの片眼鏡と、自分が掛けている未来視の片眼鏡を、ノーズの部分でカチリと組み合わせてみる。それは見事に噛み合って、一つの眼鏡となった。


「へえ、それが本来の形なのかも知れないわね」


 とバヨネッタさんも腕を組んで感心していた。


「いや、どうですかねえ?」


「違うと言うのかい?」


 ミカリー卿にノーともイエスとも取れる風に首を横に振った。


「これが本来の形なら、わざわざ別々に入れていた意味ってなんだろう? って勘繰ってしまっただけです。もしかしたら他の片眼鏡もあって、他の組み合わせもあるのかも知れないなって」


「ああ、その可能性はあるかもな」


 デムレイさんが俺の意見に首肯してくれた。


「そうね。他の宝箱を見てみない事には、分からないわね」


 バヨネッタさんも同意のようで、今後は二つ以上の鍵穴がある宝箱は、積極的に開けていく方針で決まった。だからと言って、他の宝箱を開けないと言う訳ではないけれど。



 そして地下四十二階。いやあ、探索が捗るねえ。時計(カウンター)があって未来視があるのだ。スイッチや護符を、いつどのタイミングで使えば良いのか丸分かりなのだ。お陰でスイッチの無駄遣いをしないでサクサク探索出来る。その分MP消費はかさむけど、俺の場合、『有頂天』でLPにしているので、HPをMPに変換出来るし、『有頂天』を覚えた時に、ショップで『魔力増大』、『魔力庫』、『魔力回復』を覚えておいたのが大きく、これで眼鏡で使用するMPを相殺出来ている。


「ふふ、何が出るかしら?」


 地下四十二階で鍵穴二つの宝箱を開ける事になったのは、バヨネッタさんだ。なんだか宝箱を開けた人間が宝箱の中身を手に入れられるみたいな方針になってきているなあ。まあ、別にそれで良いし、ミカリー卿なんかは、俺にくれたりしたから、そうと決まっている訳でもないけど。


「これは……?」


「どうしました?」


 キラキラ系のお宝じゃなかったのだろうか? 宝箱を開けたバヨネッタさんは、少し戸惑ったような声を漏らした。なので後ろから様子を覗くと、宝箱に入っていたのは、スイッチでも護符でも眼鏡でもなく、紙切れだった。いや、ただの紙切れではなく、魔法陣が描かれている。スキルスクロールか。


 スキルスクロールは、スキル屋などがスキルを『奪取』スキルで紙に吸収させたもので、これを使用すれば、祝福の儀を執り行わなくても、スキルが覚えられると言うやつだ。


「また、新たなものが出てきましたね。『魔石回収』ですか」


魔石回収:スキル所有者が倒した相手、またはMPを消費して、所有者を中心とした一定範囲内の魔石を『空間庫』に回収する。


 基本的にはパッシブスキルみたいだけど、魔力を消費する事で、アクティブスキルとしても使用可能なスキルみたいだ。そして気付く、レベルが上がった事で、『鑑定(低)』で視れる魔道具が増えていると。


「まあ、悪くはないわね」


 バヨネッタさん的にも持っていて悪くないスキルのようだ。確かに、遠距離攻撃型のバヨネッタさんだと、魔石を回収するのは面倒な作業だからな。それが自動的に回収されるなら、ありがたいスキルだろう。


「眼鏡が入っているのかと思ったが、こう言うパターンもあるんだな」


「ですね」


 と俺の後ろから覗いているデムレイさんに返事をする。


「じゃあこれは、私が使ってしまうわね」


 バヨネッタさんの意見に反論する人間はおらず、バヨネッタさんが魔力を注ぐと、スキルスクロールは燃えて消滅してしまった。


「他者にスキルを移すのに、『奪取』スキルって必要なかったんですね」


 俺はデムレイさんに振り返って疑問を口にした。


「ああ。『奪取』で紙に移されたスキルは、『奪取』スキル持ちか、本人が魔力を注げば、移行されるからな」


 スキルの移行は『奪取』スキル持ちの専売特許だと思っていたけど、スキルスクロールがあれば、獲得は出来るんだな。


「さて、次の宝箱には何が入っているのか、楽しみが増えたわね」


「バヨネッタさん、俺たちの本来の目的は、このダンジョンの踏破であって、お宝回収じゃあありませんからね」


 俺が一応釘を刺しておくと、そうだった気もする。みたいな感じで、俺から目を逸らすバヨネッタさんとデムレイさんだった。

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