第515話 対骸骨騎士(後編)

 ダダダダダダダダ……ッッ!!


 アニンを二丁拳銃に変化させて攻撃しても、こちらの攻撃はすり抜けるばかりだ。しかし分かった事もある。こちらが攻撃している時、向こうは攻撃してこないと言う事だ。


 防御特化のスキルなのだろうか? いや、それだと武田さんのヒカルの結界をすり抜けた説明がつかない。いやいや、同じスキルだとは限らない……のか?


「武田さん!」


「今逃げている最中なんだよ!」


「結界はどうやって突破されたんですか!?」


「消えて突然現れた!」


 他の皆と同じか。そうなると、俺の時だけ消えない事が不自然になってくるな。


「前回はどうやって倒したんです!?」


「間断なく範囲攻撃を続けていたら、なんか倒せた!」


 何だそれは? と!


「危な!」


 余所見をしていた俺は、槍使いの魔物の攻撃を『瞬間予知』で何とか躱すも、その躱し際を双剣使いの魔物に狙われる。それを二丁拳銃で受け止めると、双剣使いの腹に蹴りを食らわせようとして、それがすり抜けた。そしてバックステップでその場を離れる双剣使い。そこへ槍使いが俺の顔面を狙って突きを放ってくる。


「くっ!」


 さっきからずっとそうだ。この二体、俺の顔面ばかり狙ってきやがる。人間、頭以外にも首や心臓やら太ももなど、狙うべき急所はあるだろうに、顔を狙うと言う事は、それがベイビードゥの命令なのだろう。


 目的はなんだ? 前回ベイビードゥと遭遇した時と今の俺と、何が違う? レベルか? いや、レベル五十オーバーであろうベイビードゥが、レベル四十の俺のレベルを気にするか? それなら『逆転(呪)』がある分、前回の方が気にしていてもおかしくない。となると、別の何か?


「ぐっ!?」


 下手に思考を巡らせたせいで、槍使いの石突きの攻撃を腹にもろに食らってしまった。そのせいで、未来視の片眼鏡が外れた。ヤバい! この戦いでは、この片眼鏡にお世話になりっぱなしだった。『瞬間予知』だけで防げるか!? と俺が身を竦ませたところで、二体の魔物の攻撃は、俺ではなく、片眼鏡の方へ向けられた。


(!?)


 思わず片眼鏡を庇うように『聖結界』を展開し、これを守る。そして二体を振り払うように拳銃を連発すると、二体の姿が一瞬にして消えた。


(!?)


 その後、二体は俺から少し離れた場所に姿を現す。恐らくこれが他の皆が言っていた、攻撃が効かない。と言うスキルなのだろうが、何故今になって俺にも使ってきたんだ?


 俺は不思議に思いながらも、片眼鏡を拾い上げ、それを装着し直した。…………そうか! ベイビードゥと以前会った時との違い。それは俺が片眼鏡を付けている点だ。ベイビードゥとしては、何としてもこの片眼鏡を壊したい理由があるのか。


 ガギギギンッ!!


 俺に思考させないように、二体の魔物が先程と同様に、交互にヒットアンドアウェイで攻撃してくる。俺は試しに、片眼鏡にMPを注がず、防御を『瞬間予知』だけに頼ると、攻撃してくる瞬間まで、二体が消えているうえ、こちらが攻撃しても消える。逆に片眼鏡にMPを注いでみると、二体は消えずに、こちらの攻撃はすり抜けるのだ。


「成程」


「どうやらバレちまったみたいだな」


 ベイビードゥも未来視で、俺が言い当てる未来を視たようだ。なら当たりだな。


「ベイビードゥ、お前のスキルは、未来視だけでなく、未来へ移動出来るスキルなんだな?」


「ああ、そうだ。『未来挙動』と言う」


『未来挙動』か。未来を視て、先読みして未来へ行動出来る。その未来への移動距離は俺の『超時空操作』の『瞬間予知』や、武田さんの『空識』の『未来視』よりも先へ動けるのだろう。だから今までは俺たちの前にいきなり出現したように見えていたんだ。だけどこの未来視の片眼鏡は、MPを注げばその分見える未来が延長される。それはベイビードゥの『未来挙動』よりも能力が上なのだろう。それに、


「未来へ移動している間は、スキルや攻撃も素通り出来るけれど、こちらへ攻撃も出来ない感じか」


 俺の言に対して、ベイビードゥはその通りだと言わんばかりに肩を竦める。


「はあ。ネタが割れちまったら、俺なんて雑魚なんだよなあ」


 言って卑屈に笑うベイビードゥ。確かにベイビードゥ自身は『支配』、『指揮』、『未来挙動』と、支配下の魔物を上手く運用する指揮官タイプのようだ。以前ベイビードゥと戦った時も、速度はそれ程速くなかった印象がある。


「さて、とりあえず『未来挙動』がヤバ過ぎるので、ここでやられて貰うよ」


 と俺がアニンを二丁拳銃からミニガン型の機関銃へと変化させると、ベイビードゥを守護するようにその前に二体の魔物が立ちはだかる。しかし俺は二体もろとも機関銃を撃ち続けた。


 その攻撃は数分間続き、俺の魔力が尽きようと言う頃、ベイビードゥは守護していた二体の魔物とともに、その鎧も骨もボロボロとなって、最期は魔石を遺して消えてなくなったのだった。


 俺がベイビードゥを倒した事で、ベイビードゥの支配下から外れた魔物たちは統率を失い、好き勝手に暴れ回るようになり、いくら中ボスの劣化版がいるとは言え、烏合の衆は俺たちの敵ではなかった。


 攻撃が通るようになった事もあり、バヨネッタさんは魔法攻撃が効かない鎧ミノタウロスを、黄金の巨大重石で圧殺し、デムレイさんも床面を岩の槍で覆う事で狼の魔物のスピードを殺しての各個撃破。ミカリー卿は複数の魔法により瞬殺で、カッテナさん、ダイザーロくんも奮闘。武田さんも結界にこもりながらも、ヒカルの熱光線で応戦していた。


 こうして地下四十一階でのベイビードゥとの戦いは幕を閉じたのだった。

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