第510話 ピーキーな使い心地

 アルティニン廟地下三十階にやって来た。地下十階にボスの一体であるエルデタータがいたから、この三十階にもボスがいると思ったのだが、いたのは鎧に身を包み、左手に両刃の斧を持った、身長三メートルはあろうミノタウロスだった。


「いきなり中ボス部屋か」


 武田さんが眉間にシワを寄せる。


「中ボス部屋、ですか?」


「ああ。ここから下の階層には、各階にいる中ボスを倒して、階下へ行ける階段を封じている鍵を手に入れなければならないんだ」


 それは面倒臭いな。などと思っていると、


「撃って良いかしら?」


 とバヨネッタさんが武田さんに尋ねている。エルデタータでの戦闘を思い出しての事だろう。


「あいつの鎧に魔法の類は効かないぞ」


 コレに露骨に顔をしかめるバヨネッタさん。それはそうなるよね。キーライフルは熱光線を放つ武器だけど、それは魔力によって放たれている訳だから。


「魔法が効かないって言うのは、魔力の込もっている魔道具の攻撃が効かないんですか? それとも、スキルとかギフトとか全般なんですか?」


「ほぼ全般だ」


 うげえ。そんな相手をどうやって倒せと?


「『ほぼ』と言う事は、効果のあるものもあるのかい?」


 とミカリー卿が武田さんに尋ねる。言われてみればそうか。


「身体強化系なら、あの鎧に弾かれる事もないからな」


 そう言う意味か。


「誰かひとっ走りしてシンヤを連れてきなさい」


 バヨネッタさんの気持ちも分かるけど、それは無理な話だ。


「魔法が効かないのであって、魔道具━━例えば俺のアニンとか、ダイザーロくんのブリッツクリークが壊される。みたいな話ではないんですよね?」


「ああ、そうだ。前回あいつを倒した時も、俺に強化魔法バンバン掛けて、バンジョーでゴリ押したからな」


 ああ、成程。……成程?


「それはつまり、今度は俺がその役目を果たさなきゃならないって訳ですか?」


 首肯する武田さん。はあ。だよなあ。


「嫌なら俺がやろう」


 とデムレイさん。確かに、デムレイさんの『岩鎧』なら大丈夫か? でもアニンのバトルスーツみたいに身体能力が上がる訳じゃないしな。とか考えていると、


「まあ、そう言う事なら簡単ね」


 とバヨネッタさんはそう答えるが、何が簡単なのかと尋ねる前に、俺に何やらスキルを掛けたではないか。


「さあ、やってきなさい、ハルアキ! あなたの見せ場よ!」


 いや、見せ場って! はあ、まあ、どうせ俺に掛けられたスキルは『二倍化』だろうから、良いけどね。


「あれ? でもレベルを二倍にしたら、『逆転(呪)』で俺が弱くなるんじゃ?」


「レベルは二倍にしていないから大丈夫よ」


「あ、そうなんですねえ」


 それなら安心だ。『二倍化』のスキルは魔力(MP)以外のものを二倍に出来る代わりに、魔力を半分使うピーキーなスキルだ。それもガイツクールのリコピンのお陰でかなり軽減されたみたいだけど。そう連発は出来ない。同じような鎧を身に着けた魔物が中ボスとして配置されているとなると、中々きついな。効果時間が長いから、今日中に四十階までクリア出来ればオーケーかな。


「じゃあ、行って来ます」


 と俺は中ボス部屋に一歩足を踏み入れたのだが、すると当然中ボスであるミノタウロスは気付く訳で、


「ブモオオオオオ!!」


 低い牛の鳴き声のような咆哮とともに、魔物が召喚されていく。それは鎧を着ていないミノタウロスが四体だった。


「ハルアキは中ボスに専念しろ! 他はこっちで始末する!」


 デムレイさんが岩の鎧を着込んでミノタウロスたちの前に出て、皆がその後に続く。バヨネッタさんだけがひとまず一人静観モードのようだ。


「まあ、良い。俺はこの鎧のミノタウロスを倒すだけだ」


 俺はアニンをハンマーに変化させて、鎧のミノタウロスに向かっていく。って身体かっる! 正に背中に羽根が生えているような軽さだ。


「ブモオオオオオ!!」


 が、そんな事に感心している場合ではなかった。鎧のミノタウロスが口から炎を吐いてきたからだ。だが今の俺にとって、それを避けるのは容易く、俺は炎を左に避けると同時に、『時間操作』タイプBで加速して、ガラ空きとなっていた鎧のミノタウロスの右脇腹に、アニンのハンマーを叩き込んだ。


「ブモオオオオオ!?」


 コレによって吹っ飛び、部屋の壁面にベチャッと叩き付けられる鎧のミノタウロス。『二倍化』されたのは初めてだけど、めちゃくちゃ強いな。これはピーキーな仕様にされても頷ける強さだ。


「ブ、ブモオオ……」


 これでも倒れないのか。魔力系の攻撃が効かないうえに、HPも高いタイプの中ボスかあ。面倒臭いなあ。


「ブモオオオオオ!!」


 それでも鎧のミノタウロスからしたら、俺の攻撃は警戒するに値するものだったのだろう。奴は俺を近寄らせまいと、自分の周囲に炎を撒いて、炎の壁を作ってみせたのだ。


 う〜ん、厄介な。もしかしたら、炎の壁が発生している間に、回復系のスキルでも使っているかも知れない。でなきゃ時間稼ぎの意味も分からないし。


 それなら強引にでも突破させて貰おう。俺はアニンをハンマーから大きな扇に変化させると、それを思いっきり振った。


 ブオオオオオオ!!


 と突風が炎の壁を襲い、一瞬だけ炎の壁が二手に分かれた。俺にとってはそれだけで十分だ。その分かれた隙間に飛び込んだ俺は、やはり回復系スキルを使用していたらしい鎧のミノタウロスの土手っ腹に、ハンマーに戻したアニンを勢い良く打ち込んだのだった。


「ブウウウウ……」


 これによって鎧のミノタウロスは膝を突き、三メートルの高い位置にあったミノタウロスの顔面に、トドメの一撃を叩き込んだ。そして息絶えるミノタウロス。


「終わったか」


 どうやら他のミノタウロスたちも、デムレイさんたちが倒してくれたらしく、四体とも倒れ伏していた。


「ええ、まあ。先に進みましょう」


 魔石と鍵、そしてこの鎧は面白いとの事で鎧も回収して、俺たちは先を急ぐ事とした。

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