第509話 制限

 戻ってきました地下二十階。思わぬ形で日本で足止めを食らってしまったが、みんな温泉でリフレッシュ出来たようで、やる気に満ちている。ベイビードゥの嫌がらせもなかったし、さて、セーフティゾーンとなった地下二十階で、各々装備の点検をして出発するか。


 俺の場合、武器防具はアニンがいるから、確認するのは夢幻香の指輪と罠解除のスイッチだ。と『空間庫』からスイッチを取り出す時に、ふと思い出した。ここの宝箱にはスイッチ以外にも護符アミュレットなんかもあった事を。形は様々で、指輪だったり、イヤリングやイヤーカフだったり、ネックレスだったり、腕輪、足輪なんてのもある。


 これらを『鑑定(低)』で鑑定してみると、『聖属性付与』であるとか、『毒無効』であるとか、『斬撃耐性』、『浮遊付与』、『速度上昇』など、様々ある。中には『攻撃無効』なんてとんでもないものもあるし。


「武田さん」


「ん?」


「これなんですけど……」


 と俺は、自身のスイッチを確認していた武田さんに、護符の事を尋ねてみた。


「ああ、それな。俺たちも昔、使えるかもと思って、護符を装備して行動していたんだけどな」


「問題があった訳ですか?」


「どの護符の表記にも、別欄に『一定時間』とか、『一回』とか『五回』とか回数が書いてあるだろ?」


 確かにある。


「そいつが曲者でな。『一定時間』とか、時間が曖昧だし、『攻撃無効』は一回限りがほとんどで、どんな攻撃にも反応するから、かすり傷程度の攻撃でも、壊れて使い物にならなくなるんだよ」


 ああ、使いどころを考えないといけない訳か。でも『一定時間』が曖昧な訳ないよな? 『一定』なんだから。


「もしかして、武田さんたちって、前にこのアルティニン廟を攻略していた時、時計を持ち歩かなかったんですか?」


「時計? まあ、確かに、地球並みに高性能な時計は、あの頃はなかったな。持ち歩いていたのも普通の懐中時計だったし。…………成程。『一定時間』を計れていなかったのは確かだな」


「スマホのストップウォッチを使って、何度か検証してみましょう。それに『回数制限』の方も」


 と言う事で、地下二十一階からは護符の検証をしながら進む事になった。バヨネッタさんとデムレイさんは少し嫌そうな顔をしていたが、これまでの探索で重複していた護符も少なくなかったので、渋々手伝ってくれた。



「成程、こうして調べてみると、色々分かってくるな」


 と武田さんが、床に並べた数々の護符を見ながら唸っている。


 俺たちは地下二十五階まで進んだところで、一旦地下二十階まで戻ってきていた。スマホでの検証はこれくらいで良いだろうと考えたからだ。


 結果からすると、指輪は十五秒、イヤリングとイヤーカフは三十秒、腕輪と足輪で六十秒、ネックレスが一番長くて百二十秒だった。


 ただし『回数制限』のあるものはこの通りではなかった。指輪でも五回や十回使えるものもあれば、ネックレスでも一回しか使えないものもあった。まあ、これは先に鑑定しておけば問題ない。


「問題は、この二つの機能が搭載されている護符ですよねえ」


 と俺は床に置かれている、青い魔石の嵌められた腕輪を指差す。


「ああ。『一定時間』と『回数制限』が一緒に搭載されているやつな」


 そう。地下二十一階以降に出てきたこれらは、扱いが難しい護符だった。例えば『毒無効』を六十秒付与してくれる腕輪であっても、そこに『攻撃無効』が付与されていると、『攻撃無効』は一回だけ攻撃を防ぐ効果なので、『毒無効』中に攻撃を受けると腕輪が壊れて、『毒無効』も解除されてしまうのだ。


「面倒臭いですよねえ」


「どちらにも使える。と言う意味ではありがたいけどな。例えば、この『斬撃耐性』と『刺突耐性』が付いている、『回数制限』が十回のやつとか、罠ゾーンを通り抜けるにはかなり有効だよな」


 武田さんの意見に頷く。やはり護符があるだけで、このアルティニン廟の攻略はかなりやり易くなっていた。恐らくはスイッチだけでなく、護符とスイッチを組み合わせて攻略していくのが、正規の攻略法なのだろう。それを、スイッチがあればどうにかなる。とゴリ押しで進んでいったのだろう五十年前の勇者一行は、何をやっていたんだか。


「取り敢えず、スマホを確認しながら進むのは煩わしいので、全員分の腕時計を買いに戻りましょう」


「良いわね!」


 俺の意見に真っ先に反応したのはバヨネッタさんだ。ああ、何故だろう? 高級腕時計を買わされる未来が見える。


「どうせ途中で壊れるだろうし、十個くらいは必要よね!」


「そんなに!? いやいやいや、いらないでしょ!? バヨネッタさん遠距離攻撃タイプじゃないですか!」


「ふふふ。何にしようかしら」


 聞いていない、だと!? 愕然とする俺の肩を、武田さんとミカリー卿が叩いて慰めてくれた。


 結果、戦闘にも耐えられるものを、と言う武田さんとミカリー卿の意見によって、魔法科学研究所が作製した腕時計を持っていく事になったのだが、それに不満をこぼすバヨネッタさんの為に、自分のような若造には分不相応な高級腕時計店で、三つも腕時計を買う事となった。まあ、バヨネッタさんが喜んでくれたし、良しとしておこう。

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