第497話 罠だらけ
ドシャン! ドシャン! ドシャン!
階段を下りていった先で俺たちを待っていたのは、リズム良く上から下へ落ちてくる天井だった。思わず俺は武田さんを振り返った。
「言ってなかったか? アルティニン廟は罠が多いんだよ」
多いとかのレベルじゃなくない? 初手これって、死に戻り前提じゃないか。
「とりあえず、タイミングを測って、あの中間地点まで進もう」
と武田さんが天井が落ちてくる部屋の先を指差す。確かにセーフポイント的に空間があるが、その先では左右の壁がガシャンガシャンとぶつかり合っていた。
「こんなのがずっと続くんですか?」
「ああ。しかもローグライクだから、入る度にダンジョンの構造が変わるんだよ」
罠だらけで、ローグライクで、しかも出てくる魔物はレベル四十オーバー。ダンジョンの設定がナイトメアなんですけど? ペッグ回廊の方が万倍マシなんだけど?
「問題ないわ」
そう口にしたのは、キーライフルに横座りして浮かぶバヨネッタさんだ。
「それはまあ、俺の『時間操作』タイプAで時間の流れを遅くすれば、この部屋を突破するのは容易いですけど」
「そんな事しなくても大丈夫よ。デムレイ」
とバヨネッタさんは俺の発言を否定して、デムレイさんを振り返る。
「へいへい」
やれやれと言った感じでデムレイさんは俺たちの先頭に出ると、その場にしゃがみこんで両手を床に当てた。すると、
バギギギギギ…………ッ!!
とドシャンドシャンと落ちてきていた天井が止まった。
「俺の『岩鎧』は岩石を生み出したり操ったりするスキルだ。こう言う罠なら、止める事は訳ない」
へえ。岩の鎧を着込むスキルじゃなかったのか。いや、本来は岩の鎧を着込むスキルなんだろうけど、それを拡大解釈して、こう言う使い方をしているのかも知れない。
デムレイさんが同行してくれたのはありがたい。と思ったのも束の間、今度は部屋の床がところどころ光りだした。それは魔法陣で、中からゾンビやスケルトン、怨霊などのアンデット系魔物が現れる。
「次から次へと」
と俺たちはそれぞれ武器を構える。
「ハルアキは怨霊たちを重点的に狙いなさい!」
とのバヨネッタさんの指示に従い、俺は怨霊を『清塩』と『聖結界』で作った白い曲剣で斬り刻んでいく。実態のあるゾンビやスケルトンは、物理で倒せるが、魔力体である怨霊は、そうはいかない。なので聖属性を持っている俺が相手をするのだ。
とは言え、デウサリウス教の教皇にまで上り詰めたミカリー卿は、その魔導書に聖属性の魔法を持っているし、バヨネッタさんのキーライフルや武田さんのヒカルによる熱光線や、ダイザーロくんの電気なら効くが、物理系であるデムレイさんとカッテナさんは対処が難しい。まあ、対策はしてあるけど。
デムレイさんは『空間庫』から、俺が渡した『清塩』をどさりと出してそれを鎧にしてアンデット系魔物に対抗していく。カッテナさんの短機関銃リペルのマガジンも、このダンジョンに入る前に聖属性の魔弾を生成するものにしてある。
こうやって次々湧き出るアンデット系魔物たちを倒す事五分。やっと床の光は収まり、魔物は出現しなくなった。
「初手からこれは、結構悪い流れを引いているな」
武田さんが肩で息をしながら、そう愚痴る。武田さんだけではない。ダイザーロくんやカッテナさんなども初戦で結構へとへとだ。相手は格上なのだからそれもやむなしだが。そこは俺やバヨネッタさん、ミカリー卿、デムレイさんでカバーすれば良いだろう。
そんな中でも魔石回収は忘れずに。と武田さんとデムレイさんが掃除機を取り出したところで、
「何あれ!?」
とバヨネッタさんが弾んだ声を上げた。その声に釣られてバヨネッタさんの方を見遣ると、左の壁面に祭壇があり、そこに二十センチ程のエメラルドと思しき像が祀られていた。
「おお! これは逆に運が良かったかも知れない」
そのエメラルドの像を見た武田さんが、そんな事を口にする。
「言ったろ、ワープゲートを作動させるのにギミックが必要だって。あの像がそれだよ。あの像を五つ集めると、ワープゲートが起動するんだ」
へえ、そうなのか。しかしこんなドシャンドシャン天井が落ちてくる部屋にエメラルドの像を仕込んでおくなんて、意地が悪いな。デムレイさんがいなければ素通りしていた。
「タケダ」
なんて考えていたら、真剣な顔をしたバヨネッタさんが、武田さんを見詰めていた。
「もしかして、この翠玉の像はそのワープゲート分しか存在しないのかしら?」
ああ。バヨネッタさん的にはワープゲートを起動させるのではなく、己の懐に入れておきたい訳か。
「良い事を教えてやる。一階に一つは必ずある」
「良し!」
「良っしゃあ!」
バヨネッタさんと同時にデムレイさんも喜んでいた。まあ、この人も遺跡ハンターだからなあ。
「じゃあこの翠玉の像は、私が見付けたのだから、私が貰うわね」
それが当たり前のように、キーライフルに乗って祭壇まで進み出るバヨネッタ。
「気を付けろよバヨネッタ。どんな罠が仕掛けられているか、分からないんだからな」
「え?」
武田さんが注意した時には、バヨネッタさんは既に祭壇からエメラルドの像を取り上げていた。そして同時に、目が眩む程の光に部屋が満たされる。それが数秒間続き、収まったと思って目を開けると、俺は一人で知らない場所にいた。
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