第496話 骸骨騎士は吸血鬼?

「やってくれたなガキ!」


 吠えるベイビードゥ。その左肩の鎧は壊れているが、壊れたのは鎧だけのようだ。ダイザーロくんもまだブリッツクリークの力を十全に引き出せている訳ではないからな。狙いが外れるのも当然か。


「お前は真っ先に殺してやろう」


 言ってゆっくりとダイザーロくんへと歩き出したベイビードゥだったが、その姿が一瞬にして消える。


 ギィンッ!


 その姿は数秒後にはダイザーロくんの前にあり、剣が振り下ろされていた。それを『時間操作』タイプBで高速移動して俺がアニンの曲剣で受け止めた。


「ほう? 中々速いな」


「コイツ!」


 俺の後ろにいたダイザーロくんが、全身に電気をまとい前に出てブリッツクリークを振るうが、その時にはベイビードゥの姿はもう俺たちの前にはなく、俺の『瞬間予知』が右から剣を薙いでくるベイビードゥの姿を捉えたので、そこにアニンを置いて受け止める。


「やるねえ」


 カタカタ笑ってまた消えるベイビードゥ。そして数秒後にまた『瞬間予知』に引っ掛かってその姿が現れるのだ。それまでの間、ベイビードゥの姿はこの空間のどこにもいなくなる。吸血鬼ウルドゥラと同じ『認識阻害』のスキルだろうかと最初は疑ったが、ウルドゥラの時みたいに、空間から浮き上がるように現れるのではなく、ベイビードゥの場合、いきなりパッと現れるのだ。武田さん曰く空間認知を曲げる能力、厄介だな。


「くっ、当たらない!」


「ダイザーロくん、冷静に! 闇雲に振り回しても当たらないよ! そもそも相手は格上なんだ! 慎重に慎重を重ねないと、次の瞬間殺されているのは俺たちの方だ!」


 闇雲に双剣を振り回すダイザーロくん。ベイビードゥが空間認知を曲げているだけなのだとしたら、振り回せば掠るくらいするだろうと思うのも分かるが、相手はレベル五十オーバーの怪物だ。俺よりレベルの低いダイザーロくんの攻撃を避けるのは容易いだろう。


 ……本当にそうか?


 俺には『逆転(呪)』のスキルがあるからベイビードゥの攻撃を防げていると思っていたが、奴の動きはレベル五十オーバーにしては緩慢だ。ブリッツクリークで電気をまとい、速度が上がっているダイザーロくんよりも遅く感じる。手を抜いているのか、それとも元々鈍足なタイプなのか。もし後者だとしたら? 奴のスキルは空間だけでなく時間にも関与しているのかも知れない。


「どうした? 防戦一方だぞ?」


 こちらを嘲笑うように剣を振るうベイビードゥ。だが防げている。問題はない。それに、


 ダダダダダダダダダダダダ…………ッ!!


 カッテナさんのリペルが火を吹き、こちらへ魔弾が撃ち込まれる。俺たちはこれを『聖結界』で防ぐが、短機関銃による魔弾の雨だ。ベイビードゥはこれだけの魔弾を防ぎ切れるのか?


「ほう? 成程。俺がこいつらの相手をしている間に配下を片付けて、一対多でオレを倒そうって寸法だったのか」


 ベイビードゥは何事も無かったかのように、俺たちから離れた場所、下へ続く階段前に立っていた。


「これは俺に分が悪いな。ここは退散させて貰おう」


 と下階段に足を掛けるベイビードゥ。


「あら? 逃げるの?」


「戦略的撤退さ」


 そう言ってバヨネッタさんの嫌味を躱すと、ベイビードゥはスッと消えてしまった。


「くっ、いいとこなしかよ!」


 ベイビードゥが消えた下階段を睨みながら、俺の隣りでダイザーロくんが悔しがっていた。



「どうだった?」


 ガーッと武田さんとデムレイさんが掃除機で魔石回収しているのを尻目に、バヨネッタさんがベイビードゥと一戦交えた俺たちに尋ねてきた。


「最初の一撃以外当てられませんでした」


「そう」


 バヨネッタさんはダイザーロくんからはそれ以上の情報は聞き出せないと判断したのか、軽く聞き流すと俺と向き合った。


「俺の感想としては、ウルドゥラの『認識阻害』とは違いましたね?」


「そうなの? その上位互換かと思っていたけど」


 まあ、ウルドゥラが『認識阻害』で世界の認識外の化け物となったのは、化神族との融合あっての事だったけど。


「上位互換はそうなのかも知れませんけど、いや、ウルドゥラとは空間に出現する仕方が違っていました。『瞬間予知』でも、パッと現れる感じでしたから」


 これに考え込むバヨネッタさん。


「もしかしたら、『空間庫』のような異空間を利用しているのかもね。例えば本人が『空間庫』の中に入れるとか」


 とこれはミカリー卿の私見。


「その可能性はなくはないですけど、だったら撤退した理由が不明になりますね。『空間庫』に自分を仕舞えるのなら、配下の魔物たちも仕舞えますから。この場で倒された分を補充しても良さそうですけど」


「こちらを甘く見て、手勢を少なく連れて来ていた可能性は?」


「それはまあ、その可能性はありますけど」


 ベイビードゥは前世の武田さん、セクシーマンと戦っているのだから、そこまでこちらの戦力を軽視しているとは思えないけど。何せ最初の邂逅で、竜の口で待ち構えていたくらいには慎重なのだ。


「魔石の回収終わったぞ」


 ここで武田さんとデムレイさんが合流してきた。なのでベイビードゥのスキルに関してはここで一旦終了だ。


「武田さん、階段を下りていけば良いんですよね?」


「ああ」


 頷く武田さん。


「この部屋の壁の魔法陣は?」


 とデムレイさんが、スマホを取り出してこの大部屋の魔法陣を一つ一つ写真に収めていく。


「言ったろ、ワープゲートだよ。このアルティニン廟は地下百二十階まであり、二十階ごとにワープゲートが設置されているんだ」


「ワープゲートを守るボスも六体? あれ? でも武田さん、アルティニン廟のボスは五体って言っていませんでした?」


「アルティニン廟のボスは徘徊型なんだよ。出なければ、ベイビードゥがこんなところまで出張ってくるかよ」


 そう言う感じか。


「まあ、安心しろよ。ワープゲートはワープゲートで、ギミックをクリアしないと動かない仕掛けになっているから」


 うわあ、嬉しくない情報をありがとうございます。

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