第495話 三日会わざれば刮目して見よ

「四度目ですか」


 アルティニン廟の前に皆で立つ。その後ろにはチーク王とそれを守る護衛騎士たちの姿があった。チーク王はバヨネッタさんが作った金器を持っており、当然その中には金毛の角ウサギがポーション漬けにされている。


 チーク王が金毛の角ウサギを持っていると言う事は、コルト王家がビチューレ王朝からの正統性を認められたのか。と言えばそうではない。結局俺の、『各王家による二年毎の持ち回り制』と言う案が採用され、まずは俺たちがアルティニン廟を攻略しなければならないので、それならばと、最初にコルト王家が金毛の角ウサギの管理を任された訳だ。


「では開きます」


 俺がアルミラージの入った瓶を持って皆の前に立ち、振り返ると皆準備万端と頷いている。それを確認した俺は、アルミラージの入った瓶のフタを開けた。


 途端に竜がよだれを垂らして口を開く。そしてぞろぞろと出てくるゾンビやスケルトン、怨霊などのレベル四十オーバーのアンデット系魔物と、それを統率する骸骨騎士のベイビードゥ。


「ようやく俺たちと戦う気になったか」


 前回同様、剣を叩きながら挑発的に俺たちに語り掛けてくるベイビードゥ。まあ、前回から何だかんだ五日経っているからな。


「戦う? 殲滅しにきたのよ」


「は?」


 バヨネッタさんの宣言に、首を傾げるベイビードゥに対して、


 ドンッ!!


 カッテナさんが構えた大型自動拳銃、黄金のデザートイーグルから、金の弾丸が発射された。それを剣の峰で受け止めたベイビードゥは、流石はレベル五十オーバーだが、


 ドンッ!!


 当たった直後に、スキル『縮小』を解除され、巨大化した金の弾丸が、ベイビードゥ諸共、全ての魔物たちを、竜の口奥へと押し込んでいった。いやあ、やっぱり『反発』のギフトを持っているカッテナさんと、実弾銃の相性は目茶苦茶良いな。威力が半端ない。


 更に八発全て撃ち尽くすと、竜の口は完全に巨大な金の弾丸によって封じられ、竜さえ口が閉じられなくなっていた。


「もう一押しね。ダイザーロ」


 名を呼ばれたダイザーロくんは、皆の前、金の弾丸の前まで行くと、背中に担いでいた二振りの奇剣を両手に握った。それはシンヤの霊王剣に似た剣で、剣と銃を合わせたような造形で、柄に二つの引き金が付いた、やはり黄金の剣だ。


 霊王剣に似ているのも当然で、この奇剣はバヨネッタさん、ゴルードさん、そして魔法科学研究所の合同製作による、人口坩堝搭載のダイザーロくん専用剣として製作された剣だからである。その名を『ブリッツクリーク』と言う。ドイツ語で電撃戦と言う意味だが、バヨネッタさん、ドイツ語にハマっているのだろうか?


 ダイザーロくんがブリッツクリークの引き金の一つを中指でゆっくりと引けば、超振動を始めるダイザーロくんの奇剣。それとともにダイザーロくん自身が高出力の電気を帯びていく。そして両手の双剣を眼前の巨大な金の塊に当てれば、一瞬にして高出力の電気が竜の口の中を通り抜けて行くと言う算段であった。


「これで少しは敵も大人しくなったでしょう」


 今までじりじりと先に進まなかった分、これでバヨネッタさんの溜飲も少しは下がったようだ。


「では、行ってきますね」


 オレたちはチーク王たちを振り返り、若干引いているチーク王たちに別れを告げて、カッテナさんが先頭で『縮小』で金の弾丸を小さくしながら、アルティニン廟内部へと歩を進めていく。



 ゆっくりと下っていく内部を進んでいくと、アンデット系魔物たちの死骸? で埋め尽くされていた。そこから魔石だけを掃除機で吸い込んでいく武田さんとデムレイさん。この掃除機も魔法科学研究所で作られたものである。ダンジョンは大概一定時間経つと内部を洗浄する仕組みを備えている。例えば吸血神殿だと、動かなくなったものを吸収して、海に放出するとかだ。なのでこのまま放置していると、貴重な魔石がアルティニン廟に吸収されてしまうおそれがあるので、こう言う掃除機があると助かるのだ。


「いやあ、やっぱり電撃系は強いよねえ」


 俺の褒め言葉にダイザーロくんは微妙な笑顔だ。


「俺どうこうではなく、このブリッツクリークがとんでもなく強力だと思うんですけど。俺が使って良いのか」


「でもそれ、ダイザーロくんの専用剣だし」


 俺がそう言っても微妙な顔だ。


「君の葛藤も理解出来るが、今は有事だからねえ。強くあって貰わなければ、こちらに死傷者が出かねない」


 そう説くのはミカリー卿。その言葉にダイザーロくんは真剣な表情を見せた後、強く頷くのだった。


「次が最後の弾丸です」


 そこに先頭を往くカッテナさんの声。俺たちの間に緊張が走る。そして各々武器を構える。バヨネッタさんはキーライフルを、ミカリー卿は魔導書を、デムレイさんは岩の鎧を、武田さんの横にはいつの間にやらヒカルがおり、ダイザーロくんはブリッツクリークを、そしてカッテナさんの両手には、先程のデザートイーグルではなく、黄金の短機関銃サブマシンガンが握られている。形としてはUZIやMAC−11と同系統だ。これは銃自体はデザートイーグル同様、バヨネッタさんとゴルードさんによる製作だが、そのマガジンが魔法科学研究所による特製なのだ。その名は『リペル』。こちらは普通に英語で『反発』とか『退ける』、『撃退』なんて意味だ。


「『縮小』させます」


 とカッテナさんが金の弾丸を縮小させた先は、体育館程度の大部屋となっており、壁面にはいくつもの魔法陣が描かれている。どうやら金の弾丸はこの大部屋の入り口で止まっていたらしく、骸骨騎士ベイビードゥとその配下のアンデット系魔物たちが待ち構えていた。


「やってくれ……」


 ダダダダダダダダダダダダ…………!!


 怒りを露わにするベイビードゥなどお構いなしに、カッテナさんは空間全体に向かってリペルを撃ちまくる。そんな事をすれば『空間庫』を持たないカッテナさんの弾丸は、あっという間に弾切れを起こすはずだが、そうはならない。何故なら魔法科学研究所が開発した特殊マガジン、『魔弾生成マガジン』で、魔力が続く限り魔弾を生成出来るからだ。


「貴様ら!!」


 ドンッ!!


 吠えるベイビードゥに向けて、ダイザーロくんがブリッツクリークを向けて、人差し指で引き金を引いた。そして発射される超高速の魔弾。それがベイビードゥの左肩の鎧を壊した。


「こいつ……!!」


 ダイザーロくんを睨むベイビードゥ。ダイザーロくんのブリッツクリークにも、魔弾生成マガジンは搭載されており、ダイザーロくんの電気と人口坩堝の力を合わせる事で、レールガンを実現させていた。

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