第480話 またぞろ
その後はバヨネッタさんたちに一日日本で休暇を取って貰い、俺はバターオイルやらを買い漁った。モンゴルのシャルトスがどこで売っているのか分からなかったので、モンゴル料理店で譲って貰ったよ。そしてバターオイルにギーにシャルトスを買い込んだ俺たちは、アルティニン廟に戻ってきた訳である。
「なんかどっと疲れました」
試す前からあっちこっちに向かわされて、無駄足だったとは言わないが、かなり遠回りをさせられたのは事実で、本当に役所でたらい回しにされた気分だ。
「何を言っているのよ。ここからが本番なのよ。しゃっきりしなさい」
とバヨネッタさんに言われ、俺は頬を叩いて気合いを入れ直すと、竜の口の前で瓶詰めのバターオイル、ギー、シャルトスをお出ししてみる。常温なのでオイルと言うよりペースト状だが、少し熱を加えるだけで、オイル状に融けるものだ。
さて、これに対してどう出るか? と瓶のフタを開けてアルティニンの様子を窺うと、
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
と地を揺らす音が響き、この音に驚いた鳥たちが一斉に逃げ去っていく。
「腹の音が凄いな」
「五十年振りだからな」
武田さんの言葉に首肯し、更に様子を窺えば、アルティニンの口から大量のよだれが溢れ出しているではないか。これは当たりだな。と思った次の瞬間、アルティニンの口がほんの少しだけ開き、凄い勢いでバターオイルらの入った瓶を吸い込んだのだ。そして閉じられるアルティニンの口。
「え?」
思わず目が点になる俺たちを前に、アルティニンは嬉しそうに目を細めてそれらを味わい終わると、また沈黙してしまった。
「これは……、合っていた。って事で良いんですよねえ?」
皆を振り返ると全員首を傾げている。
「一瞬過ぎて入る事は不可能だったわね」
とはバヨネッタさんの言。
「俺の時にはもっと大口開けていたけどなあ」
とは武田さんの言。
「量の問題なんじゃないか? この巨体だし」
とデムレイさんが言えば、
「種類かも知れないから、次は別々に与えてみよう」
とミカリー卿が応える。
「大丈夫です! 任せてください! たとえ今度も少ししか口を開かなかったとしても、私の『反発』で無理矢理こじ開けますから!」
と最後カッテナさんの言葉が決め手となり、それならばと皆が首肯して、次は量を多くして、種類を一つに絞って与えてみる事にした。
が、結果から言えば失敗に終わった。バターオイルも、ギーも、シャルトスも、初回より多くアルティニンの前に差し出したと言うのに、アルティニンは腹を鳴らし、よだれを垂れ流しても、今度は口を開かないのだ。
「どう言う事かしら?」
片手を頬に当てて首を傾げるバヨネッタさん。
「種類も、一種類から二種類のパターン、三種類全てのパターンを試してみたけど、口を開かなかったね」
ミカリー卿も腕を組んで悩んでいる。
「量も、必要になると思って、クドウ商会の社員さんに可能な限り集めて貰いましたけど、それを全部放出しても無理でしたね」
俺の言に皆が首肯する。う〜ん。少しでも口を開いてくれれば、カッテナさんの『反発』で無理矢理こじ開ける事は可能だけど、動かなければ『反発』させようもないからなあ。
「この結果からすると、醍醐はこの三種のどれかである可能性は高いけど、醍醐とアルミラージがニアイコールである可能性から、この三種ではアルティニンの口を完全には開けられない。って事なのかもなあ」
武田さんのこの言に皆が頷き返す。
「つまりは、やはりハルアキが言っていたハイポーションを使って作ったバターオイルが必要と言う事か?」
デムレイさんの発言に皆の注目が俺に集まる。
「分かりましたよ。作れば良いんでしょう。牛乳も水牛乳も、ヤギも羊も馬も、乳は社員さんに頼んで用意して貰っていますから、日本に戻りましょう」
こうして徒労に終わった今回のアルティニン廟攻略から、またまた日本に戻る事となったのだった。
「田町美鈴です」
「アンリです」
俺の家のキッチンで細々と作っていては、時間が掛かり過ぎる。との事で、キッチンスクールが入っている雑居ビルのスペースをお借りして、色々作っていく事となった。その手伝いとして魔法科学研究所から田町さんと言う女性と、オルさんの元からアンリさんがやって来た。
「田町さんは魔法科学研究所で薬学の研究をなされていて、医食同源の考え方から、食にも精通している人なんです」
成程とバヨネッタさんと武田さん、ミカリー卿は頷いているが、他の面々は理解していなさそうだ。
「アンリさんはオルさんの所でお手伝いさんをなされていた人で、まあ、カッテナさんの前任者みなたいな感じですね」
「そうなんですね! 初めまして! 私、カッテナと言います!」
「聞き及んでおります。アンリです。よろしくお願いします」
と固い握手を結ぶ二人。そして早速アンリさんがカッテナさんの耳元で何やら囁いているが、それは気にしないでおこう。
本当は薬師であるガドガンさんも呼びたかったのだが、今は時期的に呼べないだろうとこの二人に留めた形だ。
「それじゃあ、作りますか。アルミラージを」
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