第470話 一部メンバーチェンジ
聖伏殿前の広場から大歓声が聞こえる中、ストーノ教皇がテラスから控室に戻ってきた。自身が真の天使の温情により生死の境から生還出来た事を報告してきたのだ。成程、こうやってデウサリウス教では天使が重要な地位とされるのだな。
「今回は本当にありがとうございました」
ストーノ教皇は九十度のお辞儀で感謝の意を示してくれるが、俺は特に何もしていないんだけどなあ。
「まあまあ。顔を上げてください」
俺に言われて姿勢を戻したストーノ教皇は、二十歳と行っても過言でなく若返っていた。身体全部が癌細胞と置換された事で、新陳代謝が促進されたからだ。
「何であれ、これで次期教皇選挙は延期ですかね」
ストーノ教皇が健在となると、次期教皇を選出する意味がなくなるからな。
「いえ、次期教皇選挙は行うつもりです」
「そうなんですか?」
「はい。ほぼ不死となった私が、いつまでも教皇の座に居座るのを良しとしない勢力はいるでしょうし、私に権力がある限り、それを隠れ蓑に色々する人間も出てくるでしょうから」
そう言ってストーノ教皇は、ちらりと横目にミカリー卿を見遣る。成程、ミカリー卿が教皇の座を辞したのも、そこら辺が関係しているのか。権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。とか、平家物語の冒頭の祇園精舎の鐘の声〜とか、長期政権が長期間健全でいられるとは言い難いからなあ。
「まあ、それならそれで勝手にすれば良いんじゃない」
とはバヨネッタさんだ。この人は、またそんな言い方をする。
「こちらとしては、これでハルアキとタケダが自由になった事の方がありがたいもの」
それはそう。もしもあそこでストーノ教皇がお亡くなりになっていたら、武田さんと俺はモーハルドに縛り付けられて、とにかく教皇が選出されるまでこの国から出る事が出来なくなっていただろう。
「でもあれですね。せっかくダンジョン探索メンバー選抜、二次までやったのに、武田さんを連れていくんじゃ意味なくなっちゃいましたね。悪い事したなあ」
元々ダンジョンの構造を知っているうえ、『空識』を持つ武田さんがいれば、人数はそんなにいらない訳で。二次挑戦者たちには解散して貰う事になる。特にマチコさんとガトガンさんは連れていけない。いくらストーノ教皇が死の淵から舞い戻ったとは言え、人類からしたら未知の方法で無理矢理連れ戻したのだ。今後何があるか分からないから、しばらくはストーノ教皇の側にいてもらわないといけない。
「あら? カッテナは連れていくわよ。使用人は必要だもの」
とバヨネッタさんはまるで当たり前のように口にした。はあ。まあ、バヨネッタさんは面接の時からカッテナさんを気に入っていたしな。バヨネッタさんの後ろに控えているカッテナさんに目を向けると、本人も行きたそうにうんうん頷いている。
「まあ、良いんじゃないですかね。カッテナさんはデミス平野でも相応の活躍をしていましたし、二次テスト突破者として連れていっても文句は出ないと思いますし」
俺が溜息混じりにそう口にすると、
「それなら私も行きたいな」
と言い出したのはミカリー卿だ。
「本気ですか?」
「もちろんだよ。面接の時に言っただろう? 待っているだけなのはもう嫌なんだ。今度の魔王軍との戦いでは、私は前線に出るつもりだよ」
はあ。何て事を言い出すんだ。ストーノ教皇に助けを求めて視線を送るが、諦めたように首を横に振るわれた。武田さんもバンジョーさんもだ。これは連れていく流れだな。まあ、ミカリー卿は強いから別に良いか。
「そう言う事なら、俺も一人連れていってみても良いですか?」
俺の言葉に、皆首を傾げるのだった。
「どうぞ、お掛けくださいダイザーロさん」
聖伏殿の一室。俺の前に立つ男は、全身を黒マントで覆っていた。まあ、あんな全身にナイフを括り付けたベルトを巻き巻きした格好では、街中を歩けないよなあ。そんなダイザーロさんを向かいの席に座らせる。
俺がダンジョン探索の最後のメンバーに選んだのは、二次テストで頑張っていた電ナイフ使いの男の子だ。年齢は俺と同じくらいだろうか? 金髪にグレーのメッシュが入った髪で垂れ目なのに目付きが悪い。
「ダイザーロさん、二次テスト合格です」
「…………」
反応薄いなあ。だから一次面接の時に記憶に残らなかったのか。『記録』で思い出しても、ボソボソ話していた。
「俺で、良いんですか?」
? 俺は首を傾げる。
「逆に何か問題があるんですか?」
「…………いえ、何て言うか、使徒様の周りにいた人たちだけが二次に合格するのかと思っていたので」
へえ、そう思われていたのか。二次テストから逃げた人たちが噂でも流したのかな?
「いえ、最初から決まっていた人はいませんよ。たとえミカリー卿であっても、ダンジョン探索に不向きと判断したら連れていく気はありませんでしたから」
ダイザーロさんは目を見開いて驚いてる。まあ、ミカリー卿の戦闘スタイルからして、ダンジョン探索が出来ない事も、戦闘力に不安がある事もなかったけど。
「ダイザーロさんを合格にしたのは、戦闘力がそれなりにあるのもそうですし、『電気』と言う汎用性の高いスキルが役立つと考えたからです。これは一次の面接で通過させた理由でもあります」
「『電気』が、ですか?」
聞き返してくるダイザーロさんに俺は首肯で返す。
「ダイザーロさんは私が住んでいる異世界の事に詳しくないでしょうけど、向こうの世界では電気はとても重要な地位にあるエネルギーなんです。それを自ら生み出させると言うだけで、我々的には勝ち組ですよ」
「そうなんですか?」
「我々をデミス平野に運んだ黄金の船。あれを動かしているエネルギーの半分が電気だと言ったらどう思います?」
驚愕し、またも目を見開くダイザーロさん。そしてその後に口角がにやりと上がり、テーブルの下では両手を強く握り締める。
「そう言う事なので、ダンジョン探索、よろしくお願いします」
俺が手を差し出すと、ダイザーロさんはその手を強く握り返すのだった。
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