第467話 天使で魔王な生活

「やり過ぎたわ」


 聖伏殿の謁見の間にて玉座に座するL天使。彼女が睥睨する前には、枢機卿始め大司教に司教、司祭など、錚々たる聖職者たちが皆平伏している。


「これ、どうしたら、良いのかしら?」


 L天使は横に立つ俺に、今後の方針を尋ねてくるが、そんな事、俺に振られてもな。


「とりあえず、魔王軍が攻めてきている最中、同じデウサリウス教徒同士で争うのはやめて貰って欲しいですね」


 俺の言葉に首肯したL天使は、


「だそうよ。分かったわね?」


 とだけ聖職者たちに下知する。それだけで聖職者たちはかしこまり、


「分かりました。あれだけの奇跡を見せられたのです。これからはコニン派、デーイッシュ派などに囚われず、新たにL天使派としてして両者手を取り、両世界連合軍に合流し、魔王討伐の為に邁進していく所存です」


 ゴウーズ首席枢機卿がそう口にすれば、誰からも異論は出ず、話はモーハルドも両世界連合軍に合流する形でまとまった。って事で良いのかな?


「ねえ、これ、私これからも配信者としてやっていけると思う」


 不安になったのだろうL天使が尋ねてくるが、流石にこれでは配信者を引退する羽目になりかねないな。


「こちらに御座おわすL天使様は、その名からも分かるように、天使様本人ではございません。分身体であり、本人は天上界におり、この分身体を操っておいでです」



 俺の言葉にも頭を上げないのは、あの戦いを止める為に俺がL天使を召喚したと思われているからだ。変なところで箔が付いてしまったな。分身体云々もあながち間違いじゃないしな。


「なので普段は背の翼を隠したり、変装したりして、人に紛れて活動をされておいでです」


 俺がちらりと横目にL天使を見ると、直ぐ様その姿をL魔王へと変えてみせる。その変貌に驚く聖職者たち。そこまでか? 変装系のスキルは結構あるだろ? 俺も『偽装』持っているし。


「L天使様はこの姿でも活動をなされておいでなので、これからその目で見る機会もあるでしょう」


「見る機会、でございますか?」


 ゴウーズ首席枢機卿が代表して尋ねてきた。


「皆さんも観た事あると思うんですけど、テレビやらモニターと言った窓に、人間の映像が映し出される技術が、向こうの世界にあるのをご存知だと思います」


 これだけで「ああ、あれか」となるのは、モーハルドが日本と最初に交流を持った異世界の国であり、図らずも桂木があれこれやってきた結果だ。


「L天使様は普段、このモニターの窓の中で活動をされておられるのです」


「モニターの窓の向こうでですか?」


「はい。我々の国では配信者と呼ばれる職業で、モニターのこちら側にいる我々に、笑顔を届ける職業です」


「おお!」と声を上げる聖職者たち。これは、聖職者だから知らないのか、モーハルド人、皆、このくらいの知識なのかなあ?


「まあ、実際に観て貰った方が早いですね」


 と俺は『空間庫』からプロジェクターを取り出し、ありがたい事に真っ白な謁見の間の壁をスクリーンとして、でかでかとL魔王がゲームで遊んでいる姿を映し出す。提供は武田さんだ。


「おお!!」


 ゲームをしているL魔王相手に拝むのはどうかと思うが、喜んでくれているのなら嬉しいな。と俺はゲーム配信画面から、下手な料理企画、雑談配信など、ザッピングしてからL魔王のMVへと映像を変える。


「…………」


 多くの人間の開いた口が塞がらない姿と言うのは、こう言ってはなんだが、間抜けに見えるな。まあ、目はキラキラしているから喜んではくれているのだろう。


「とまあ、こう言った事をなされておられる訳です」


「な、成程」


 ゴウーズ首席枢機卿を始め、皆の顔はまだ紅潮している。


「この職業は別に天使様でなければ出来ない職業ではなく、日本では年々就く者が増えてきている職業の一つです」


「そうなのですか?」


「先程も言いましたが、L天使様は人々の中に混ざって活動するのを好むお方です。我々がこうして欲しいから、と無茶な要求を通そうとするのが間違いなのはお分かりですね?」


 俺の言に聖職者たちが首肯する。


「では、これにてL天使様との謁見を……」


 と謁見を打ち切ろうとしたところで、バタバタと静寂を打ち破るように謁見の間へ入ってきた者がいた。カッテナさんだ。


「ストーノ教皇猊下が!」


 病状が悪化したのか! 俺は早々にこの場を打ち切り、カッテナさんの後に続いてストーノ教皇の部屋へ急いだ。



 様々な機器に繋がったストーノ教皇は、とても苦しそうに藻掻いていた。いや、藻掻く体力もなく、僅かに身をよじり、顔をしかめるので精一杯の様子だった。そんなストーノ教皇の手を武田さんが握っている。そしてガドガンさん、マチコさん、ミカリー卿、カッテナさん、バンジョーさんが一步離れた場所からその姿を見守っている。


「どうなんですか?」


 部屋の隅に控えていた日本人の医者に尋ねる。


「持って一日と言ったところです」


 はあ。俺は薄情だな。ストーノ教皇の現状に同情はするが、俺が考えているのは、この後の次期教皇選挙の事だ。俺が強行した新たな方式の次期教皇選挙は、デーイッシュ派が台無しにしてくれたお陰で、仕切り直しとなってしまったのだ。こうなると新たに日取りを決め直さないといけないが、ストーノ教皇がこの状態ではな。はあ。先に今回で候補者が絞れなかった場合を考えて、再考の日取りを決めておくんだった。こりゃあ、今回の次期教皇選挙は、今までの選挙と同じやり方でいかないと駄目だな。


「癌なのね?」


 そこにひょっこり現れたL魔王。他人事って反応だなあ。


「末期癌でね。医者の話では一日持つかどうかって話みたい」


「ふ〜ん。治さないの?」


 治さないの? って、そりゃあ俺だって治せるのなら……、


「治せるのか!?」


 俺のL魔王に聞き返した声が大き過ぎたせいで、皆の視線がこちらへ向いてしまった。


「私はスキルないから出来ないわ」


「出来ないのかよ」


「でもあの人なら」


 とL魔王は部屋にいる一人を指差した。

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