第466話 即興ライブ
「はあ〜、でもどうしよう。どんな歌を歌えば良いのかしら?」
ウキウキ気分だなL魔王。
「出来ればすぐにでも始めて貰えるとありがたいんですけど」
と急かす武田さん。
「すぐに!? ええ!? セトリとか決まってないよ〜」
「音源なら俺が持ってきてあります!」
一曲じゃないのか。って言うか武田さんも乗り気だなあ。元々好きなんだっけL魔王。まあ歌自体はサングリッター・スローンのマイクを使えば、マルガンダ中に轟かせる事も可能だろう。が、問題はそれをマルガンダの住民たちが天使の歌だと認識するかどうかだ。
「L魔王さん」
「なに?」
「アンゲルスタでカロエルがやったみたいに、世界中に自分のビジョンをデカデカと映し出すみたいなのって、出来ませんか?」
「ああ、あれね。でも私、この世界の管轄じゃあないしねえ」
成程。カロエルがあれを出来たのは、地球がカロエルの管轄下だったからか。
「じゃあ、こっちの世界の管轄をしている天使に頼んで……」
「それは無理」
言い切られてしまった。
「だってこの世界の最上位管轄者は、魔王軍の魔天使ネネエルだもの」
「何それ? そんな……天使としてそれで良いんですか?」
「私たちの業務の一環として、色んな世界で色んな可能性を探る。と言うものがあるのよ。そこからフィードバックして私たち自身の世界をより良くする為に。この世界の場合は、考えるに断続的な魔王の脅威でしょうね。そこから人類がどのように成長進化するのか。その実験用舞台がこの世界なのでしょう」
そんな、そんなの……、
「酷過ぎるって言いたいんでしょう? 顔に書いてあるわよ」
俺は息を飲み込みながら首肯した。
「そうね、あなたたちからしたら、理解出来ないでしょうね。でもそれは、あなたたちが娯楽としているゲームやマンガ、アニメ、ラノベ、映画など、あらゆるエンターテイメントに共通するわ。あなたたちを楽しませる為に、いったいどれだけの娯楽作品で人が殺されてきた事か。それを止めようとしている人もいる。でもあなたは違うでしょう?」
それはそうだ。確かに俺はゲームだからと人を殺し、娯楽作品の悲劇を非難する人を、現実でも起こりえるのだからと冷ややかな目で見てきた。これはその予行練習だ。リハーサルだ。いつか現実となった時の為の訓練だ。こう言った事に慣れておかなければ、いざと言う時に何も出来なくなる。そんな考えで。その考えを天使に当てはめるなら、天使たちの世界にも俺たちの世界同様に問題があり、その問題解決のシミュレータとしてこの世界を使用している。理解は出来る。だからと言って割り切れる話じゃない。
「そんな事は今はどうでも良いでょう」
そこにカッテナさんを連れてバヨネッタさんが現れた。
「もう起き上がって大丈夫なんですか?」
と俺が近づくと、
「人から勝手に魔力を抜き取っておいて良く言うわね」
と言われてしまった。あはは。
「何はともあれ、今は混乱しているマルガンダをどうにかするのが先決よ」
「ですね」
「リコピンを通して事態は把握しているわ。要はそこの天使を大きく見せ掛ければ良いのでしょう?」
俺たちは首肯する。
「なら、キッコに頼んで、ハッタリになるような装置を内蔵して貰っているから大丈夫よ」
そんな話から始まり、俺たちはああでもないこうでもないとL魔王の即興ライブの打ち合わせをしていくのだった。
「良し! じゃあこれでいきましょう!」
ライブのセトリ━━セットリストが決まったところで、操縦室に即席のライブステージが完成していた。まあ、バヨネッタさんのスキル『金剛』と『黄金化』があれば可能である。メッチャ金ピカだな。
「じゃあいきましょう」
とバヨネッタさんがゴーサインを出そうとしたところで、
「ちょっと待ってください」
と俺が制止する。皆盛り上がっているのに、水を差したので、視線が冷たい。
「L魔王って名前のままで大丈夫ですかね?」
「あ」
流石に天使が魔王を名乗るのは問題だろう。
「それに頭の角のはやめた方が良いと思います」
「それは確かに」
皆がどうするべきか腕を組み始めた。
「じゃあ今回は、L天使でいきましょう」
そう言い出したのはL魔王自身だ。
「良いんですか? 名前にこだわりとか……」
「ううん。なんか面白い。と思って付けただけだから。それにご時世がら、魔王はやめた方が良いかもって事務所からも言われているのよね」
まあ、うん。LMAOって英語で爆笑って意味だしね。
「それにこんなの、双子だって設定にすれば良いのよ。L魔王は天界で悪さしたから地上に堕とされて、L天使の方は今まで天界で慎ましく暮らしていたんだけど、最近になってL魔王が勢力を増してきているから、神様から地上を浄化してきなさい。と命令されてやって来た。って設定でいきましょう!」
よくもまあ、この一瞬でそんなホラ話を思い付けるものだ。
「じゃあそれで。衣装もその黒のエナメルから、白い衣装に変えて貰って良いですか?」
「オッケー」
と言うや否や、L魔王がその場で一回転すると、白いワンピースに変わっていた。背中には白い翼まで生えており、頭の角キャスケットはなくなっている。
「流石は天使ですね」
「まあねえ。一曲ずつ衣装替えていくからそのつもりで」
はあ。それって、後々2D配信とか3D配信とかの時にこっちが衣装用意しないといけなくなるやつだ。まあ良いけどねえ。
「それじゃあ、改めていくわよ!」
とバヨネッタさんの指示の下、L魔王改めL天使のライブが始まった。
カメラを操作するのはリコピンとアニンだ。全方位からL天使を映し出し、その映像はサングリッター・スローンの上空に巨大ホログラムとなって映し出される。更にはサングリッター・スローンから小型のドローンが多数出動し、ホログラムのL天使を映し出す。
「皆、こんエル~! L天使です! 私が来たからにはこの戦いももうお終い! 歌でこの戦いを終わらせちゃうわ!」
そう言って乗り乗りで歌い出したL天使だが、一曲目に選出されたのは、ミドルテンポの曲だった。それはモーハルドに昔から伝わる民族楽曲で、モーハルド人なら誰でも知っているその曲を、正に楽園の美声と呼べる歌声で歌い上げるL天使。間近にいると聞き惚れるな。脳みそがとろとろになる。
そうしている間に、徐々にL天使の側に近付いていく人工天使たち。L天使に危害を加える為ではない。なんとL天使の周りで踊りを踊り始めたのだ。人工天使たちが完全にL天使の支配下である。と民衆に印象付ける為の作戦だったのだが、何だかシュールな映像になってしまった。地上の様子を見るに、皆祈っているので問題ないのだろう。
そうして民族楽曲を歌い上げた後は、アップテンポの曲だ。人工天使たちが陽気に踊る姿に、地上の人々も沸き立つ衝動を抑えられなくなったのだろう。皆が人工天使を真似て踊り始める。こうなったらもうこっちのものだろう。
セトリの通りに武田さんが曲を流し、アニンとリコピンがカメラとドローンを操作して、ライブは大盛り上がりとなり、最後はまた違う民族楽曲で締め。今度の民族楽曲はスローテンポで、踊り騒ぎまくった民衆の熱を冷ますような、心地良いそよ風のような楽曲だった。そしていつの間にか辺りは夜となっていた。
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