第464話 意外な助っ人

「かーっはっはっはっ!!」


 愛竜であるゼストルスを駆るリットーさん。シンヤや勇者一行、ゼラン仙者は飛行雲で、パジャンさんはその羽根で空を飛び回り、人工天使たちを次々討ち落としていく。


 結果から言えば、『超時空操作』でトホウ山との転移扉を開く事は不可能だった。それでも全合一で感知出来る範囲であれば転移出来る事が分かったのは収穫だ。


 なので俺は一度日本へ転移門を開いて、武田さんとともに我が社に戻ると、武田さんが誰かに連絡を取っている間に、『超空間転移』が使える社員に頼んでパジャンへ。そこから転移魔法が使える人に頼んでトホウ山へ。そこから皆を回収してラズゥさんの呪符でパジャンの首都に戻り、『超空間転移』が使える社員に頼んで日本へ。そこから俺の転移門でここまで戻ってきた。戻ってきた時にはマルガンダを囲う結界は既に壊されていた。


 だがそれでもリットーさんやシンヤたちをマルガンダに迎えた価値はあった。『有頂天』を修得した彼らの力は、二次挑戦者たちとはやはり格が違っていた。当初はミカリー卿が人工天使たちを空から堕とし、それを二次挑戦者たちとイヤルガムが狩っていたのだが、どうやら出る幕はなくなったようだ。そんな彼らが今何をしているかと言うと、デーザン卿とマキシマ卿を追っている。


 結界が破壊されたマルガンダで人々が右往左往する中、その混乱に乗じてデーイッシュ派の二人の枢機卿は、首都マルガンダ内に入り込んだようだ。その捜索に彼らはあたっているのだ。と言っても奴らの行き先なんて誰にでも見当が付く。デウサリオンの聖伏殿だ。


 目立つサングリッター・スローンで聖伏殿に行けば、余計な混乱を招くだけだ。と俺は枢機卿二人の捜索には加わらず、人工天使たちから逃げ回るのに専念していた。


『ハルアキ様』


 そこにマチコさんから通信魔導具を通して連絡が入った。


『奴らが来ました。それも堂々と正面から』


 言われて、操縦室のモニターの一部を聖伏殿に変える。これはサングリッター・スローンに搭載されているドローンからの映像だ。すると、確かにそこには金糸の施された白いローブを着た二人の初老の男女が、部下を引き連れ聖伏殿前の広場を歩いている。しかも引き連れているのは、四対八枚の翼を携えた人工天使たちだ。翼の枚数が強さを表しているのなら、リットーさんやシンヤたちが相手をしている上空の天使たちより強い事になる。


 はあ。それにしても、こう堂々としていると言う事は、つまり、向こうには自分たちが悪行をしている自覚がない。自分たちこそが正義である。と言う事なのかな。


『止まりなさい』


 ミカリー卿が聖伏殿の前に立ち、二人の枢機卿を制止する。その声をドローンの集音マイクが拾っていた。


『これはこれは、ミカリー枢機卿ではありませんか。お噂は聞き及んでおりますよ。何でも元教皇であらせられるあなたが、氏素性も定かでない詐欺師に加担しておられるとか』


 俺の事かな? 確かにうちは両親とも会社員だし、家系図があるような家柄じゃあないけどね。


『民を騙しているのはそちらだろう? 人間を改造して偽天使を生み出すなんぞ、悪鬼魔族の所業だ』


 が、男の方、デーザン卿はそれを鼻で笑う。


『時代とは移り行くものなのです。人が真に楽園へとたどり着くには、人の身体のままではいられない。人を超える進化をしなければ到れないのですよ』


 そんなデーザン卿の言葉を、今度はミカリー卿が笑う。


『何がおかしい』


『いやなに、その出来損ないが人より優れた存在だと言うなら、何故人であるデーザン卿の下で働かされているのかと思ってね』


 ミカリー卿の言葉に眉間にシワを寄せるデーザン卿。


『契約ですよ。我々と天使たちの間に、上下関係がある訳ではありません』


『では何故、天使たちだけに戦わせているのかな?』


『役割分担ですよ。我々が作戦立案、天使たちがそれを実行する』


『人を超える存在だと言うのに、頭脳は人以下なのかい?』


 両手を握り締めてわなわなとするデーザン卿。


『ええい! 弱者の戯言にかかずらわっている暇はないのだ! 准天使どもよ! 小奴らを捻り潰せ!』


 人工天使たちに命令するデーザン卿だったが、『准天使どもよ』とか言っちゃったよこのおっさん。語るに落ちる。ってこう言うのを指すんだろうなあ。しかも動かない人工天使たち。その後にマキシマ卿が手を振ると、人工天使たちが動き出す。どうやら人工天使たちの生みの親は、デーザン卿ではなくマキシマ卿であるようだ。


 人工天使たちが一斉に二次挑戦者たち、そしてイヤルガムに襲い掛かる。が、


 ズダダダダダダダン…………ッッ!!


 そんな人工天使たちの頭上からミカリー卿の魔法による巨大な氷柱が降り注ぎ、『闇命の鎧』を着込んだバンジョーさんのパイルバンカーが一度に何十本も現れて、氷柱でうごけない人工天使たちを貫いていく。


 だがこの程度では人工天使たちは止まらなかった。貫通した傷は瞬く間に回復し、氷柱は人工天使たちが全身から放つ熱光線によって溶かされてしまった。


『ふ、ふはははははは!! 我々の叡智の結晶である准天使に勝るはずがないのだ。そこを退くならば命だけは見逃してあげても良いですよ』


『ははは。それは無理だし、あなた方には出来ないな』


 言ってミカリー卿は魔導書のページをめくり、自身の後ろに、聖伏殿を囲うように結界を張ってみせた。その結界の中にはバンジョーさんやイヤルガム、二次挑戦者たちの姿もあった。


『それは……! 不壊ふえ結界か!』


「不壊結界?」


『ミカリー卿が使える最強の結界魔法です』


 思わず声に出してしまった俺に、通信魔導具越しにマチコさんが答えてくれた。


『使用者の耐久値の十倍の強度の結界を張る魔法です』


 耐久値の十倍の強度か。『不老』のスキル持ちであるミカリー卿の結界となると、壊す事は不可能だろうな。けど、


「なんでミカリー卿も結界の中に入らなかったんですか?」


『そう言う魔法なんです。使用者が中に入らない事が結界作動の条件なんです。だからこそ強度が保たれるんです』


 成程。


『不壊結界か。確かに結界自体は壊す事は不可能。しかしあなたはどうかな? いくら『不老』のスキル持ちとは言え、スキルはスキル。使用し続ければ魔力を消費し、いつかは魔力が尽きるだろう。そうなった時、不壊結界を維持出来ているかな?』


 確かにそうだ。これは助力する為に向かった方が良いか?


「待たせたな」


 とそこに開きっ放しにしていた転移門から、武田さんが戻ってきた。助っ人を連れて。それは俺が予想だにしなかった相手だった。


「L魔王っ!?」


 それは白金色のサラサラヘアーにコバルトブルーの瞳、黒いエナメルのワンピースを着て、頭には角の付いたキャスケットを被った美少女バーチャル動画配信者であり、本物の天使であるL魔王だ。人工天使相手に、本物の天使をぶつけようって事?

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