第463話 非難囂々
「武田さん、怖い顔になっていますよ」
「工藤、今の状況でジョークを返せる程、俺の精神は健全じゃないんだぜ。今ならなんだってやってやる」
顔が極悪人なんだよなあ。
「とにかく、あいつらを今すぐ撤収させろ。すぐにマルガンダへ飛ぶ」
武田さんの言に反論出来るはずもなく、俺が二次挑戦者たちとデーイッシュ派の大司教たちをサングリッター・スローンに収容すると、武田さんは直ぐ様『転置』を使ってマルガンダへ向かって転移を開始した。
俺たちが着いた頃のマルガンダは、正に俺たちが一掃した人工天使たちにより包囲されており、いつ攻撃が開始されるか分からない状況だった。それがなされていなかったのは、マルガンダを囲うように巨大な結界が張られているからだ。そしてその外からマルガンダ中に響き渡るように、恐らく拡声魔法で声が流れていた。
『首都で穏やかな生活を営んでいた諸君! これこそがあの使徒を名乗る者が、天に唾吐く詐欺師である証左である! 見よ! 空を覆う天使様方の姿を! 神が己の使徒を
うん。言っている事の半分は間違っていないかな。やっているのがデーザン卿だかマキシマ卿だか知らないけれど、人工天使なんて出さずに、この演説だけマルガンダに放送すれば良かったんじゃないかな?
ガリッ。
が、心穏やかじゃない人が俺の横にいた。こちらまで聞こえてくる歯軋りで、人工天使たちに囲まれたマルガンダを睨み付ける武田さんだ。まあ、マルガンダの中央にはデウサリオンがあり、その中央にはストーノ教皇が安静にしている聖伏殿がある訳で、心穏やかでいられる訳がないのだけど。
しかしどうしたものか。バヨネッタさんはまだ目を覚まさず、俺が玉座からサングリッター・スローンを操っているのだが、いくら魔力をバヨネッタさんと共有しているとは言え、今の俺では『清浄星』に人工天使たちを封じ込める事は出来ても、同時に人工天使たちを一掃する為に坩堝砲を撃つ事が出来ない。流石にそれだけの魔力がないからだ。それでは数分しか封じ込められない『清浄星』に、人工天使たちを封じ込める意味がない。
となると『清浄星』に封じ込めずに坩堝砲を放たなければならなくなるが、下はモーハルドの首都マルガンダだ。坩堝砲の影響が及ばないとは思えない。ので坩堝砲は使えない。
「どうしましょう」
「私が出るよ」
「ボクも出よう」
と出撃を申し出てくれたのは、ミカリー卿とバンジョーさんだ。
「ミカリー卿が飛べるのは分かっていますけど……」
俺はバンジョーさんに視線をやる。
「あのなあ、ボクだってハルアキと同じ化神族との適合者なんだぞ? 空を飛ぶくらい出来る」
「それは分かっていますよ。俺が気にしているのは、バンジョーさん、高所恐怖症じゃなかったでしたっけ? サングリッター・スローン内でも、気取られないようにしていましたけど、基本的に薄目で行動してましたし」
「分かっているなら思い出させるなよ! せっかく人がやる気になっているんだから!」
言いながらバンジョーさんは足をガクガクさせている。ああ、今の今まで怖いのを我慢していたんですね。なんかすみません。
「なら私があの偽天使たちを地上に落とすから、地上から攻撃してくれて良いよ」
とミカリー卿が強気の発言をしてきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。首都は結界で守られているからね。あれが破られない限りは、私個人をいくら攻撃されたところで、痛くも痒くもないから」
頼もしい。
「でしたら俺も、この飛空艇で
俺の言にミカリー卿も首肯で返してくる。
「なら俺たちも行きます」
とミカリー卿に続いたのはマチコさんたち二次挑戦者、それにイヤルガムだ。
「……本当に死ぬかも知れませんよ?」
「ここで黙って見ていて、もしもマルガンダやデウサリオンに被害が出たら、それこそ後悔しますから」
彼らの意志は固いようだ。
「なら俺は、一度地球に戻る。工藤、転移門を開いてくれ」
そう言い出したのは武田さんだ。意外な提言だった。武田さんの『転置』なら、人工天使たちをバンバン地上に転移させる事も可能なはずだ。
「理由をお伺いしても?」
「あの結界は早い段階で壊される事になるだろう。なにせ結界内にもデーイッシュ派はいるからな。そいつらの破壊活動によって、マルガンダの結界は壊される。そうなればデーイッシュ派が操る人工天使たちを止める手立てがなくなる。だから、そうなった時の為に、助っ人を呼びに行く」
「助っ人、ですか?」
「ああ。飛び込み案件だが、あの方ならやってくださるだろうよ」
あの方?
「リットーさんは今、パジャンのトホウ山で修行中ですけど?」
いや、今の俺なら『超時空操作』でトホウ山とも繋げられるかも。
「いや、手を借りるのはリットーじゃない」
と手をぶんぶん振る武田さん。
「はあ」
誰かは分からないが、武田さんは急いでいるようなので、俺はすぐに転移門を開き、すると飛び込むように武田さんは転移門を潜って日本へと向かった。今頼れる面子は皆トホウ山にいるはずだ。日本にこの状況をどうにか出来る人物なんていただろうか?
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