第461話 袋小路
上を見上げる。当然オーロラが上空を覆っていた。
「くっ」
思わず歯噛みする俺に、バヨネッタさんが声を掛けてきた。
「外道仙者の時のようにはいかないの?」
ゼラン仙者の時? ああ! トホウ山の結界を『聖結界』で中和して通り抜けた時の事か。『聖結界』単体くらいなら、今の俺でも展開出来るな。
「とりあえず、サングリッター・スローンを『聖結界』で覆っておきます」
あのオーロラを通り抜けられるかはさておき、スピンクスの攻撃を跳ね返す事くらいは出来るだろう。と俺はサングリッター・スローンに『聖結界』を施す。
ガァァンンッ!!
そこに大きな衝撃がやってきて、サングリッター・スローンが揺れる。スピンクスがその巨腕で攻撃してきたのだ。しかも『聖結界』をぶち抜いて衝撃がこちらへ通ってきた。
「偽物でも、聖獣相手では『聖結界』も意味を成さないようだな!」
武田さんが席から振り落とされないように、肘掛けにしがみつきながら喚いている。だがそれなら、『聖結界』であのオーロラを突破する事も可能ではなかろうか。
「バヨネッタさん!」
「分かっているわ!」
サングリッター・スローンはスピンクスの巨腕の攻撃を躱しながら、オーロラへと直進し、
ガヅンッッ!!
オーロラに当たってその進行を止められた。
「こっちは、通らないのかよ!」
恨みがましく吠えていたら、サングリッター・スローンが揺れた。何事か!? と周囲を確認すれば、スピンクスがサングリッター・スローンを掴んでいるではないか。
「皆! 衝撃に備えな……きゃっ!?」
バヨネッタさんの悲鳴に振り返りながらも、俺たちは操縦室の席にしがみつく。それと同時に、スピンクスはまるで玩具をもてあそぶ子供のように、サングリッター・スローンを地面に放り投げたのだ。
ドンッッ!! カゴガガガガガガガガガガ…………ッッ!!
地面に叩き付けられた衝撃は『聖結界』で緩和されたものの、それでも衝撃の余波は凄まじく、サングリッター・スローンは横倒しとなって何十メートルも移動した。
「ぐっ……、大丈夫ですか?」
俺は席から這い出ながら尋ねるが、皆からの反応がない。動いているので、生きてはいるだろうが。しかし敵は待ってくれないようだ。スピンクスが上空から急襲してくるのが見える。その手にはいつの間にか巨大な突撃槍が握られており、あんなもので一突きされれば、サングリッター・スローンであっても貫かれて爆発四散してもおかしくない。
「リコピン!」
俺はアニンをケーブル状にしてリコピンへと伸ばす。リコピンの方もケーブル状のものをこちらへ伸ばし、それが重なり合う。
『ガイツクールリンクシステムの起動を確認しました。サブマスターハルアキ様、ご命令を』
ありがたい。ツヴァイリッターでなくてもガイツクールリンクシステムは有効なんだな。
「とにかくここから移動してくれ!」
「了解しました」
俺の指示を受けるなり、リコピンはサングリッター・スローンを立て直すと、直ぐ様その場から発進する。そして振り返れば、俺たちが今いた場所を、スピンクスの突撃槍が貫いていた。間一髪だったな。
「まずは敵の攻撃の回避専念してくれ」
『了解しました』
そこから始まるサングリッター・スローンとスピンクスの空中鬼ごっこ。そんな中で俺は席を立つと、まずバヨネッタさんの様子を見る為に後ろの玉座に向かう。
バヨネッタさんは玉座に座ったままぐったりしていた。サングリッター・スローンには床面にして向かって重力が働く装置が備わっている。とは言え運良くだろう。椅子から放り出される事はなかったようだ。
「バヨネッタさん……」
息はしているし、高レベル者であるバヨネッタさんがこんな事でどうにかなるとは思えないが、とりあえずポーションを飲ませておく。
「出来れば横にさせたいんだけど」
と俺が声を漏らすと、リコピンが気を利かせたのか、玉座を歯医者の椅子のように寝かせてくれた。そこにアニンのケーブルを使って玉座に縛り付ける。起きたら怒られそうだけど、今は仕方がない。
「三人とも大丈夫ですか?」
「なんとかな」
のそのそと席から動き出す武田さんたち。三人にもポーションを渡しておく。
「やばいな」
「やばいですね」
「ああ、やばい」
三人はポーションを飲みながら「やばい」としか言っていない。確かに詰んでいる。時間が経てばバヨネッタさんも俺も回復するから、スピンクスへ坩堝砲などで対抗出来るだろうが、このままではこの場から逃げたキャンピングカーに逃げ切られてしまう。だからすぐにでもこのスピンクスをどうにかしなければならないのだ。いや待て。現在俺はガイツクールリンクシステムでバヨネッタさんと繋がっている。なら、
「リコピン、今の俺なら、バヨネッタさんの魔力を使う事は可能?」
『可能です』
「いよっし!!」
思わずガッツポーズをする俺に、バンジョーさんが話し掛けてきた。
「何? そのガイツクールなんちゃらって?」
そうか、こっちにいたからバンジョーさんは知らないのか。俺はガイツクールリンクシステムの説明をした。
「成程ね。それなら、ボクのオルガンとリンクして、更に魔力を譲渡する事も可能なんじゃないのか?」
確かに。と俺はリコピンを振り返る。
『可能ではありますが、現在は不可能です』
どう言う事? と俺たちは首を傾げた。
『ガイツクールリンクシステムは、マスターが許可した人物のガイツクールとリンクするシステムですので、現在マスターが意識喪失中の為に、バンジョー様とのリンクは不可能です』
との事だった。まあ、それはそうだよなあ。ここはバンジョーさんには諦めて貰う他ない。それでも問題ない。本当は外に出てスピンクスと対峙したいところだけど、アニンとリコピンが繋がっていないと、ガイツクールリンクシステムは働かないみたいだからなあ。これでやれる事をやるのみだ。
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