第453話 シンニュウ
コニン派、デーイッシュ派の両陣営との戦闘は続き、両陣営から十分の一程が『聖結界』内に入って行動している状態になってきた。前に出ていた挑戦者の一人が落ち、目立つサングリッター・スローンの近くまでやって来る戦士も多くなってきたところで、カッテナさんが動いた。
ドドドドドドドド…………!!!!
雪崩のような轟音がサングリッター・スローン周辺に降り注ぐ。カッテナさんが丸太の矢を次々と上に放ち、周辺に丸太で簡易砦を築いたのだ。丸太砦は二陣営がやって来る一方向だけ隙間が開いており、外と出入り出来るようになっている。
「これで相手の動きを操作出来ますね!」
ガッツポーズのカッテナさんだが、俺としたら他の心配が先立つ。
「ずいぶんと矢を使いましたけど、残り本数は大丈夫なんですか?」
「残りですか? 十本を切りましたね!」
明るく答えてくれたが、駄目じゃないかな? それ。
「大丈夫ですよ! 他にも戦う手段がありますから!」
とカッテナさんは懐から
「紐、ですか?」
「紐です!」
「…………」
「…………」
「紐で、戦うんですか?」
「はい!」
どうやって? 鞭みたいに相手をしばくのか? それとも相手に接近して首を締めるとか?
「お見せしますね」
俺は余程不思議そうにカッテナさんを見上げていたのだろう。カッテナさんが実演してくれると言う。
カッテナさんは紐を二つ折りにすると、ヒュンヒュンとそれを振り回し始める。やっぱり鞭的な使い方なのだろうか。と考えていると、カッテナさんは振り回している紐の先で、器用に地面に落ちている石ころをすくい上げた。そしてその石ころを、丸太砦の出入り口から侵入してこようとしている敵の一人に投げ付けたのだ。
ゴッ!
と痛そうな音とともに男の顔面に石ころは命中し、吹っ飛ばされる男。うわあ、思わず手を合わせちゃったよ。
「成程。使い方は分かりました」
どうやら
「ふふん! まだまだいけますよ!」
とカッテナさんは地面の石ころをスリングで次々と侵入者に当てていく。器用だなあ。
昼前になって、コニン派、デーイッシュ派との戦闘は、思いの外接戦で進んでいる。と言うのも、こちらの二次テスト挑戦者たち対二陣営ではなく、挑戦者対コニン派対デーイッシュ派の三つ巴の様相を呈してきたからだ。
事前にコニン派上層部から聞いた話では、最優先は俺への一撃で、デーイッシュ派からちょっかい掛けられても無視するように言い渡されているようだが、コニン派の戦士たちとしては前々からデーイッシュ派に思うところがあり、売られた喧嘩は買いたいのが本音のようだ。デーイッシュ派もそうらしく、『聖結界』内で散発的に両者の戦闘が勃発するのだが、その度に『聖結界』から弾き出されている。
どうやら『聖結界』の暗黙のルールに抵触しているらしい。挑戦者対二陣営は俺が定めたルールだが、コニン派対デーイッシュ派の戦いは俺の定めの外。と言う事のようだ。
なので『聖結界』内に入ってきて弾き出されては、向こうの二陣営のところまで戻されて、そして『聖結界』の外で二陣営間の戦闘が勃発していた。
「はあ、しっちゃかめっちゃかだな」
ズビームッ!!
そんな二陣営の間を分割するかのように、サングリッター・スローンからレーザー砲が照射された。二陣営に動揺が走る。バヨネッタさん、手は出さない。って言っていたのに、こっちを放っておいてわちゃわちゃやっているのが気に食わなかったんだろうなあ。
『何しに来たのよ。ここは次期教皇を選ぶ為の試練の場よ。真面目に試練を受ける気がないのなら、さっさと帰りなさい」
それはそう。バヨネッタさんの檄にデミス平原がシーンと静まり返った。
そしてバヨネッタさんの檄によって戦場の空気が変わった。まずコニン派が一万人の戦士たちを、一斉に『聖結界』内へ進入させてきたのだ。それに慌てたのはデーイッシュ派だ。こちらも全戦士を『聖結界』内に進入させようとしているが、進入出来るのは半分以下だ。残る戦士たちは『聖結界』に弾かれて進入出来ずにいた。まあ、ポッと出の俺が聖人認定されれば良い気はしないだろう。それ以前に信仰心があるのかも怪しいけど。コニン派にも『聖結界』に弾かれている者がいるので、俺が気に入らない勢力はどこにでもいるようだ。
進入してくるコニン派に、流石にこれは挑戦者側の分が悪いと、近接戦を仕掛けていた挑戦者たちが丸太砦へ引き返してきた。そして砦の出入り口で侵入してこようと言う戦士たちを迎え撃つ。その中には炎槍使いと激戦を戦い抜いた電ナイフ使いの男もいる。彼は中々の使い手だ。頑張って欲しいものである。
とは言え限界はある。コニン派の戦士たちが、挑戦者の守りを抜けて、あるいは丸太の上を越えて、丸太砦の内部へ次々と侵入してきた。それをガドガンさんのユニコーン(サイ)が走り回って吹き飛ばし、カッテナさんがスリングで吹き飛ばし、ミカリー卿が魔導書の魔法で吹き飛ばし、二人の挑戦者が魔法で吹き飛ばし、マチコさんが空になったカップにお茶を注ぐ。お茶と言うよりもオチだな。戦わないの? と視線を向けるも、にっこり笑顔で返された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます