第454話 拍車が掛かる
こう守られながらじっくり観察すると、コニン派の戦士たちにも傾向があるのが分かる。
数が多く統率が取れているのがマッカメン枢機卿の
聖職者のローブを着ている集団はテイニー枢機卿の麾下だ。テイニー枢機卿は聖職者に支持者が多いのだろう。白や黒などのローブを着た集団が、魔導具でこちらへ魔法を放ってくる。ミカリー卿と同じような魔導書を持つ者もいる。デウサリウス教の聖職者としては正統派な戦法なのかも知れない。
ダンッ!!
そして今カッテナさんが構築した砦の丸太を真っ二つに斬り裂いてやって来た男は、コニン派で最初に俺の『聖結界』内に入り、マチコさんが繁茂させた長草を、その大剣で斬り裂いた男だ。
「彼はイヤルガム。確かゴウーズ首席枢機卿の親戚筋で、モーハルド東部軍の幹部だったはずだよ」
とミカリー卿が俺に耳打ちしてくれた。成程、どうやらゴウーズ首席枢機卿は、モーハルド東部にコネを持っているようだ。イヤルガムが率いる集団は、少数だが一人一人が強い事はここまで全合一で全体を見ていて分かっている。あとデーイッシュ派と積極的に小競り合いをしていたのもこの集団だ。その度に『聖結界』の外に弾き出されていた。
ゴウーズ首席枢機卿からはそれ程強いデーイッシュ派への憎しみを感じていなかったが、ここはモーハルドの東南部だ。東部軍に属しているイヤルガムからすると、避けては通れない相手なのかも知れない。
丸太を排して砦内に入ってきたイヤルガムは、状況を理解する為に周囲を見回し、俺の姿を見付けるなり、一気にその距離を詰めてきた。
ガゴンッ!!
が、そうはさせない。とばかりにマチコさんが飛び出し、素早くイヤルガムの懐に入ると、右ストレートを打ち込む。が、イヤルガムはそれを器用にも大剣の側面で受けてみせた。そしてそのままマチコさんを弾き飛ばすイヤルガム。
「くっ」
弾き飛ばされたマチコさんは、俺の前まで吹っ飛ばされてきて、くるりと一回転して着地した。
「流石は東部軍の将ともなると強いねえ。私よりレベルが高そうだ」
俺はそんな事を口にしながら立ち上がり、椅子やティーセットなどを『空間庫』に片していく。
「そう言う割りには、余裕がありそうですな」
イヤルガムは大剣を肩に担ぎながら、のっしのっしとこちらへ歩み寄ってきた。それに追随するイヤルガム麾下の部隊。それを警戒して、二次テスト挑戦者たちが俺を守る為に周囲を固めていく。
「ありがたいけど、皆にはイヤルガムさん以外の相手をして貰いたいかな」
俺の言葉に、どう言う事か? と皆が一瞬視線を向けてくる。
「こう見えて私は『逆転』のスキル持ちなんでね。なんなら
まあ、小太郎くんに無理矢理付与された『逆転(呪)』だけどね。それでも周囲を納得させるには足る材料だろうと思ったのだが、俺の言葉には説得力が足りないらしい。皆俺の周囲を離れてくれない。俺の事大好きかよ。
「まあ、それでも別に良いですけど、俺とイヤルガムさんの戦いの巻き添えで戦闘不能になれば、それで二次テスト不合格にもなりかねませんよ」
との俺の言葉には、流石に皆渋面となる。
「それは逆に、ここで使徒様を守る事を放棄して、他の者たちと戦闘に入っても、二次テスト不合格にはならない。と解釈しても良いのかな?」
流石はミカリー卿である。話が早くて助かる。
「さあ。働き方次第ですかね。こちらが求める人材は、人の形をした肉盾ではなく、活躍してくれる人材ですから」
俺の言に、まずミカリー卿が俺の防衛から外れ、炎で出来た人を呑み込む程大きな大蛇を召喚する。炎の大蛇は俺とイヤルガム隊との睨み合いから、漁夫の利を得ようとしていた周囲の戦士たちを一掃するように、サングリッター・スローンを中心に、丸太砦の中を暴れ回る。
「そう言う事なら」
続いてマチコさんが飛び出す。大剣を担いだイヤルガムの脇を抜け、その後ろで控えていたイヤルガム隊の一人に向かって右ストレートを打ち込んだ。しかし相手はそれを盾で受け止める。そこに横の一人が槍を突いてきた。躱して後退するマチコさん。更に水球がマチコさんを狙う。これを拳で打ち落とすマチコさん。やはりイヤルガム隊は一人一人が精鋭だな。マチコさん一人では対処し切れない。
マチコさんが攻めあぐねているところで、ふわりと何かがマチコさんの横を抜けていった。紙飛行機だ。その場違いな代物に、呆気に取られたイヤルガム隊は、思わず動きを止めてしまった。そしてイヤルガム隊の一人に紙飛行機が当たり、
ドーン!
大爆発が起こる。ガドガンさんの爆弾紙飛行機は、ここに来るまでも見ていたはずだが、思わぬタイミングで放たれると、野球のチェンジアップのようでタイミングが外されるんだろう。しかし流石は精鋭、犠牲はその一人で収まった。爆発が起こった瞬間に、その一人から皆飛び退いたからだ。判断が早いのは流石だが、仲間を助けるって行動には出ない訳ね。
しかし紙飛行機だけでこちらの攻勢は止まらず、爆弾紙飛行機を避けたイヤルガム隊を狙って、ガドガンさんを乗せたユニコーンが突進していく。これに一人轢かれ、更にカッテナさんがスリングでビシバシと小石を飛ばしていく。これが中々に厄介な上、マチコさんがその機動力を使って近距離から拳を叩き込んでくるので、陣形を乱されるイヤルガム隊。それでも総崩れとはならず、場面場面では三人を押し返してくるので、互角と言ったところか。
他の二次テスト挑戦者たちも、テイニー枢機卿やマッカメン枢機卿麾下の隊と戦っており、今はまだ善戦している。
などと全合一で事態把握に努めていたところへ、大剣から衝撃波のようなものが発せられて攻撃された。それをアニンの大盾で防ぐ。
「さっきも私を見るなり突っ込んできたし、せっかちですよねえ、イヤルガムさん」
「茶番に興味がないだけですよ」
言ってイヤルガムは大剣を両手で持つと、大剣を立てて顔の右横に持ってきて構える。八相の構えとか蜻蛉の構えと呼ばれるやつだが、身長程の大剣でそれをやられると、威容さが際立つな。俺は一息吐くと、アニンの大盾を、海賊曲剣へと変化させて右手に携えた。
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