第448話 男の対決(前編)
ミカリー卿に左フックを叩き込んだマチコさん。しかもマチコさんの猛攻はそれで止まらず、くの字に折れ曲がったミカリー卿の顔面目掛けて、右フックが振り下ろし気味に打ち込まれる。そのまま地面に叩き付けられるミカリー卿。その音と枢機卿が地面に叩き付けられた様に、グラウンドが静まり返る。
「……容赦ないなあ」
マチコさんはそこまでやっても残心を忘れず、地面に倒れ伏したままのミカリー卿に対して、両拳の構えを解かない。
そこまでなのか? との俺の疑問は一瞬で解消された。ミカリー卿が直ぐ様立ち上がったからだ。しかも平然と。何事もなかったかのように。
「これは面白くなってきたねえ」
と口角を上げるミカリー卿の微笑は、勝負開始と変わっていなかった。
「さあ、次に行ってみよう」
ミカリー卿がぺらりと魔導書のページをめくると、ミカリー卿のすぐ側に人の頭大の鉄球が出現した。それが高速でマチコさんを襲う。
ドンッ!
マチコさんの一撃に負けない重い音が響く。手を交差して防御したマチコさんだったが、鉄球の衝撃を封じ込めるまでには至らず、十数メートル吹き飛ばされた。
「
俺の呟きに皆が首肯する。それにしても、
「ミカリー卿もマチコさんに劣らず頑丈なんだなあ」
との俺の発言に対して、周囲から呆れ顔や嘆息が見受けられた。
「あれ? ミカリー卿が頑丈なのって、有名?」
「ハルアキは異世界人だから、無傷のミカリーの事を知らないのも仕方ないわね」
バヨネッタさんが説明臭く擁護してくれたので、ガドガンさんやカッテナさんも納得してくれたようだ。
「そう言えば、面接の時にも無傷のミカリーが来た。ってバヨネッタさん驚いていましたね」
「それは、ね。吟遊詩人にも歌われる人物だからねえ」
リットーさんみたいな超有名人って事か。それでリットーさんが竜騎士なのと同じくらい、ミカリー卿が無傷なのは当然って事ね。
「それでどうしてミカリー卿は無傷なんですか?」
「『不老』だからです」
教えてくれたのはカッテナさんだ。カッテナさんでさえ知っている事なのか。『不老』だと傷が付かないの? どうして?
「どちらかと言えば、傷が付かないから『不老』なのよ」
とバヨネッタさんの説明が入る。傷が付かないから? …………あ! そう言う事か。
「傷が付かない。って、老化による劣化だけでなく、外的要因による傷も受け付けない。って事ですか?」
嘆息しながら首肯するバヨネッタさん。何であれ俺の回答は正解だったらしい。しかしそれならばマチコさんの攻撃が効かなかったのも納得だ。
「個人としての防御力は、恐らく二世界合わせても人類最強でしょうね」
成程。覇剣のムンダイヤと引き分けたのも分かる。
「これは、マチコさんにキツい事させちゃったかなあ」
頭を掻く俺に、ガドガンさんが声を掛けてきた。
「確かにキツいですね。でも、マチコなら、勝てる可能性はゼロじゃありません」
どうやらまだマチコさんが勝つと信じているらしい。それを聞きながら二人の勝負を見守っているが、マチコさんはミカリー卿の鉄球に押し込まれている。無理そうだけど?
最初一つだった鉄球も、今は五つまで増え、それらが中空を縦横無尽に飛び回り、マチコさんに襲い掛かっている。それをミカリー卿を中心に円を描くように逃げ回るマチコさん。ここから逆転の目があるのか?
そう思いながら注視していると、マチコさんが逃げるのをやめた。止まったマチコさん目掛けて、五つの鉄球が襲い掛かるが、それら五つ全部を、マチコさんは拳で叩き落した。
出来るのにそれをここまでしなかった。と言う事は、何かしら理由があっての事だろう。とマチコさんの次のアクションを待っていると、
パン。
と両手を正面で叩くマチコさん。それに対応する形で、半球状に半透明の空間が広がっていく。その中で起こった事が俺を驚かせた。蔓草が大発生して暴れ回り始めたからだ。どこから出てきたんだあの蔓草。
「どうなっているんだ? マチコさんのスキルは『範囲再生』だろ? 植物魔法とかじゃないよね?」
「あれは『範囲再生』による過剰再生です」
驚く俺に、ガドガンさんが説明してくれる。
「過剰再生?」
「マチコは『範囲再生』を使って、指定したものを過剰に再生させる事が出来るんです」
成程。細胞を再生させる際に、過剰に細胞分裂させる事で、擬似的なクローンを生み出す事を可能にしているのか。凄いな。でも、
「理屈は分かったけど、あの蔓草はどこから? あ!」
と自分で言って、マチコさんが両手足に蔓草の装備を身に着けてるのを思い出した。
「ええ。あの蔓草のグローブとサンダルは、マチコの『範囲再生』で枯れずに生命力を保ったままなんです。だから動けば細胞に傷が付いて、そこから体液が地面に付着し、そこから『範囲再生』で蔓草を過剰再生させている訳です」
「成程。それであの大量発生した蔓草は、マチコさんが操る感じなんだね?」
「…………」
操れないんだ。
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