第443話 ドーン!

 ドーン!


 ドーン!


 先程からグラウンドに二つの轟音が鳴り響いている。


 片方はガドガンさんだ。横にたてがみのある巨大なピンク色のサイを侍らせて、手に持つピンク色の紙飛行機を的に投げ付けては爆破している。爆発する紙飛行機が武器なのか。魔法のある世界ならではだな。


「ガドガンは、『継承』の他に『調合』のスキルを持っているんだ」


 と武田さんが教えてくれた。まあ、『継承』は代々受け継いできたスキルだから、当代の継承者が他のスキルを持っていてもなんら不思議はないな。でも、


「『調合』、ですか?」


「ああ。薬の材料となるものを魔力で調合して、薬を作るんだ。ガドガン家は代々魔導具でそれを行っていたんだが、ガドガンはそれをスキルで出来るからな。歴代のガドガンの中でも、優秀だと言われている」


 と説明してくれる武田さんだが、俺が聞きたいのはそこではないのだが。え? 何でそれで爆発する紙飛行機が武器なんだ?


「あの紙飛行機、爆薬が染み込ませてあるんだよ。ニトログリセリンみたいな、少しの衝撃で爆発する爆薬がな。ダイナマイトの材料であるニトログリセリンは、狭心症の薬としても使われているからな。薬師であるガドガンでも扱えるんだ」


 へえ。確かに火薬や爆薬にも薬の文字は当てられているが、同列でそれを扱うとはねえ。


「横にいる一角獣ユニコーンのダルジールも、飾りじゃない。角を始め、肉に血に骨に内蔵に皮膚や爪、更にはたてがみから汗に至るまで、全身が薬の材料となる事から、薬獣と言われて敬われ、また、乱獲されてきた歴史がある。逃げ足も早いから、ユニコーンを獣魔にしているのは、ガドガン家くらいなものだろう」


 へえ、薬獣ねえ。


「え!? あれユニコーンなんですか!?」


「ああ、気持ちは分かる。俺も地球に転生して、サイだろ。って思っているからな。だが、地球のサイだって、その角が漢方薬の材料として狙われ、乱獲されていた時代があったんだぜ」


 その話は聞いた事あるな。何なら未だに密猟の標的になっているとも聞く。


 ドーン!


 しかしさっきからヒョイヒョイ紙飛行機を投げているけど、尽きたらどうするんだろう?


 だが俺の疑問はすぐに解消された。紙飛行機の尽きたガドガンさんは、背負っていたバッグから大量に紙を取り出すと、それを横に控えるサイに貼り付けていく。すると白い紙がピンク色に変色していった。そう言えば汗も薬の材料になると言っていたっけ。


「ピンク色の汗をかくのって、カバじゃなかったっけ?」


「工藤、ここは異世界だぞ。そもそもサイにたてがみはない」


 それはそうだ。なんか色々混じっていて混乱する。俺の混乱なんてお構いなしに、ガドガンさんは汗でピンク色に染まった紙を飛行機型に折ると、また飛ばし始める。背の低いガドガンさんが紙飛行機を投げる姿は、ちょっとほっこりするのだが、その後に轟音が鳴り響くのだ。ギャップが凄いな。


 ドーン!


 そしてもう片方の轟音の主はカッテナさんだ。武器は弓である。しかも短弓だ。和弓の半分程の大きさしかない弓で、的にズバズバ当てている。のだが、当たった的がおかしな事になっている。丸太で埋もれているからだ。音の正体もそれが原因だ。


「なんですかねえ、あれ」


「さあな」


 首を傾げる俺と武田さんに、


「どうやら、物を大きくしたり小さくしたり出来るスキルみたいね」


 とはバヨネッタさん。そうなのか? 前にカッテナさんを鑑定した時は、レベルしか見ていなかったからなあ。先程からカッテナさんが射た矢が的に当たると、丸太に変わっているので、武田さんの『転置』的なスキルかと想像していたのだが、バヨネッタさん曰く違うらしい。


「良く見れば、カッテナが的に向かって射ているのが、矢ではなく、それに似せた小さな丸太であると分かるわ」


 バヨネッタさんにそう言われたので、こちらも目を細めて凝視してみると、確かに、加工はされているがカッテナさんが射ているのが丸太であり、それが的に当たるとそのまま元の大きさに戻っている事が分かった。


「あれだと、物を小さくしておける。って感じですかね」


「そうね。加工云々のスキルではないでしょうね。加工が雑だもの」


 そうなんだよねえ。皮を剥いで矢羽などで矢っぽく見せているけど、ヤスリがけなんかはしていないようで、造りがガタガタだ。なんか当たれば問題ない。との考えが透けて見える。


「小さく出来るのは見て分かりますけど、重さはどうなんですかね?」


「あれだけズバズバ的に当てているんだから、軽くなっているんじゃないか?」


 とは武田さん。


「聞いてみましょう」


 対してバヨネッタさんは、そう言ってカッテナさんの方へと近付いていった。まあ、聞いた方が早いのはその通りですけど。


「ねえ」


「あ、魔女様! どうかされたんですか?」


 カッテナさんはバヨネッタさんに声を掛けられ、弓を引く手を戻して頭を下げる。


「その矢? って重さはどうなっているの?」


「重さですか? そのままですよ」


「そのまま!?」


 それを聞いて、俺は思わず声が裏返ってしまった。そんな俺に対して、カッテナさんはにっこり微笑み、こちらにも頭を下げてくれる。


「スキルで軽くする事も可能ですけど、それだと威力が下がるので」


 確かに軽い矢より重い矢の方が威力はあるだろう。


「持たせて貰っても良いですか?」


「ええ!? 重いですよ?」


 成程。確かめてみたくて発言したが、丸太なんてレベル三十八の俺でも両手で抱える重量だ。


「ええと、とりあえず、地面に置いて貰っても良いですか?」


「分かりました」


 流石に矢を手渡して貰うのは辛いので、地面に置かれた矢を持ち上げてみる事にした。


(重い)


 ズシリとくるその重さは、細い矢なのに確かに丸太の時と重量が変わっていない事を証明していた。しかし、そうなると今度はそれを撃てていた弓の方が気になってきた。普通これだけ重ければ、弓で撃とうにも上手く飛ばないはずだ。


「ええと、弓も持たせて貰っても良いですか?」


「え!? こっちはもっと重いですよ?」


 マジかー。そう言いながらもカッテナさんは地面に弓を置いてくれた。俺はそれを持ち上げようとして、頑張った。重いよ。これが重量挙げってやつですか? しかも短弓なので弓の下部を地面に付けて弓弦を引く事も出来ない。この重い弓を片手で持って弦を引くのか。


 とりあえず重たいので弓を地面に置き、その状態で弦を引いてみた。びくともしなかった。なんだろう? 弦じゃなくて、硬い鋼材じゃないのかな?


「ええと、もう一度試し撃ちして貰っても良いですか?」


「良いですよ」


 とカッテナさんは軽々と弓を片手で持ち上げると、丸太を小さくして出来た矢を弓に番えて、俺が引けなかった弦を引いては丸太の矢を射てみせた。


 ドーン!


 的に当たって元の大きさに戻る丸太の矢。う〜ん。普通に強いな。

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