第444話 反抗的?

「カッテナさんって、どんなスキルなんですか?」


 こちらとしてはバヨネッタさんの使用人ポジションで雇用するつもりだったので、そこまで戦闘を期待していなかった。もちろんこれからの厳しい旅の同行者だから、ある程度必要だと思ってはいたが、ここまでではない。


「スキルは『縮小』で、ギフトが『反発』です」


「へえ、ギフト持ちだったんですね」


 俺が感心すると、カッテナさんは照れたようにはにかんだ。


「親からはあなたが反抗的なのは、生まれつき『反発』のギフトを持っているからだ。って良く言われてきました」


 ふむ。確かに『反発』と聞くと親や社会への反抗を思い浮かべるかも? まあ、ここでの『反発』はバネなんかの反発力なのだろうけど、ギフトとして生まれ持っていては、周囲の視線が厳しくなってしまうのも分かるな。


「馬鹿馬鹿しいわね」


 そんなカッテナさんの自重を一蹴するバヨネッタさん。この人も周囲から色々言われてきただろうけど、この人は我が道を行く人だからなあ。カッテナさんはこれを聞いてホッとしていた。


「その重い弓矢は、『反発』で重量軽減している感じですか?」


 俺の問いに首肯するカッテナさん。


「そうですね。弓矢だけでなく、私は自分に対して『反発』を常時掛けているので、重量や攻撃は感覚で跳ね返せます。ですから、私の事を持ち上げてみてください」


「へ?」


 と俺が間抜け声を漏らしたところで、バヨネッタさんが何も気にせずカッテナさんの腰を掴むと、カッテナさんを持ち上げてみせる。すご。カッテナさんは今もあの超重量の弓に、丸太の矢が何本も収められた矢筒を背負っている。そんなカッテナさんを、バヨネッタさんは軽々持ち上げたのだ。恐らく『反発』で地面からの重力に対して反発しているのだろうが、弓矢の重さを知っている俺からしたら驚愕だ。


「凄いですね」


「これは『反発』だけでなく、『縮小』も使って、重力を軽減させているわね」


 バヨネッタさんの推測にカッテナさんが首肯する。確かに。弓矢の重量も縮小させられるみたいだし、『縮小』と『反発』は相性が良いのかも知れない。


「へえ。やりますね」


 などとカッテナさんと話し込んでいたら、後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにはユニコーン(サイ)を連れたガドガンさんが、腕を組んで立っていた。どうでも良いが、小柄ながら胸の大きなガドガンさんが腕を組むと、その大きなものが強調されて、視線のやり場に困るな。


「あなた、名前は?」


「カッテナです」


 ガドガンさんの誰何に対して、素直に答えるカッテナさんだったが、首を傾げているので、誰だか分かっていなさそうだ。


「そう。私の名前はガドガンよ」


「へえ、よろしくお願いしますね、ガドガンちゃん」


 うん。どうやらカッテナさんはガドガンさんの家系がどんなものなのか分かっていないようだ。これに対してガドガンさんは顔を真っ赤にしてカッテナさんを睨んでいる。どうやら挑発と捉えたらしい。


「良いわ! その喧嘩、買ってあげようじゃない! 勝負よ! ちょっとハルアキ様たちにちやほやされているからって、調子に乗らない事ね!」


「いや、ガドガンさん、いきなり勝負と言われても、カッテナさんも……」


「良いでしょう!」


「良いの!?」


 俺は騒ぎになる前にこの騒動を治めようとしたのだが、カッテナさんの方も乗り気だった。


「農家は舐められたらお終いですから!」


 やる気満々だな。そう言えばカッテナさんって、面接の時からこんな感じだったな。


 俺はどう事態を治めるか、バヨネッタさんと武田さんを見遣るも、二人は静観するようだ。そうして俺が思案している間にも、ガドガンさんとカッテナさんはグラウンドの中央へと向かっていく。


「好きにやらせた方が良い」


 と話し掛けてきたのはミカリー卿だ。その横ではマチコさんが逃げられないように首根っこを掴まれている。


「今後旅の同行者になるかは分からないが、この場で両者が実力を把握しておくのは良い事だろう」


 ミカリー卿の言葉はもっともだ。二次テストの事を考えると、その場まで遺恨を残しておくより、この場で解消してしまった方が良いだろう。しかし怪我でもされて、どちらか、または二人して二次テストに出られない事態は避けたい。


「それでマチコさんですか」


「彼には治癒スキルがあるみたいだからね」


 首根っこ掴まれているマチコさんは、ここまできては仕方がないと観念したのか、大人しくしているが、その姿がまた猫っぽく見える。


「ハルアキ様!」


 そこにガドガンさんから声が飛んできた。どうやら二人の準備は整ったらしい。こちらを見ていると言う事は、俺に立会人を務めて欲しいのだろう。


 俺は嘆息すると気を取り直し、二人を『聖結界』で包み込んだ。


「では、これより両者の勝負を執り行うが、結果がどうであっても、素直に受け入れるように」


「当然です!」


「闘いの結果を受け入れないのは、恥ずべき行いですから!」


 ガドガンさんもカッテナさんも否はないようで、力強く頷いている。それにしても二人とも戦闘民族なのか? それともモーハルド人って皆こんな感じなのか?


「この『聖結界』から外に出たら負け。相手を死に至らしめても負け。勝利条件は相手から降参の言葉を引き出す事。これで良いね?」


「はい!」


「はい!」


「では、始め!」


 こうしてガドガンさんとカッテナさんの勝負が始まった。

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