第441話 面接(後編)
面接二日目。
「お入りください」
俺の声に応えて、面接室の扉が開かれる。入ってきたのは、女性と見紛う端正な顔立ちの男性だった。髪も瞳も銀色で、銀の聖職者ローブを着ているので聖職者だと分かる。
「ミカリー卿……?」
横の武田さんが絶句している。知り合いか? いや、それよりも『卿』と敬していると言う事は、枢機卿なんじゃなかろうか?
「いやあ、セクシーマン、久しぶりだね」
ミカリー卿と呼ばれた男性は武田さんを見て、その端正な顔の目尻を下げる。それに対して姿勢を正す武田さん。
「お知り合い、なんですよね?」
俺の言に首肯する二人。とりあえず立ち話も何なのでミカリー卿にはお座り頂いた。
「ミカリー卿と呼ばれていましたが、枢機卿なのですよね?」
「そうだね」
ふむ。俺を神の使徒に選ぶ時にはいなかったので、普段はデウサリオンにいない方なのだろう。あれ?
「その耳……」
俺は思わず、ミカリー卿のその尖った耳を指摘してしまった。アルーヴなのか。
「ああ。私はアルーヴとの混血なんだ」
へえ。ハーフなんているのか。今まではアルーヴ(エルフ)にしろドワヴ(ドワーフ)にしろ、純血にしか会っていないな。
「え? ミカリーって、あの『無傷』のミカリー司教本人なの?」
武田さんの反対でバヨネッタさんが驚いているが、どのミカリーなのか俺には分からない。
「その通りだ。かつて行われていた蛮行である『魔人狩り』を終結に導いた、あのミカリー司教だよ。今は枢機卿だが」
魔人狩りは、前にバヨネッタさんやオルさんから聞いた気がする。アルーヴやドワヴは、その体内に生まれつき魔石を持っている為、その魔石を狙って人間に狩られていた時代があったと言う話だ。どうやら二人の話から類推するに、それを止めさせた英雄であるらしい。
「失礼ですが、何故今回の募集に応募を? あなた程の方なら、教皇選挙の方に出られてもおかしくないのでは?」
「私には資格がないのですよ」
資格がない?
「ミカリー卿は一度教皇になられているんだよ。デウサリウス教では一度教皇の座を退いた者に、教皇になる資格がないんだ」
とは武田さんの言。そうなんだ。
「え? 教皇様だったんですか!?」
びっくりだ。それは武田さんもかしこまると言うもの。俺も姿勢を正してしまう。
「それで、何故こちらに応募しようと?」
「ええ。まだまだ若い者には負けられないからね」
とは言っているが……ちらりと武田さんの方を見遣るに、何とも複雑そうである。武田さんの知り合いと言う事は、五十年前のセクシーマン時代に会っていると言う事だ。中々にご高齢なのではなかろうか。だが、眼前の男性はとても若々しい。肌なんて水を弾きそうだ。と俺はまたもや顔に出ていたようで、
「私は『不老』と言うユニークスキルを持っていてね。細胞が劣化しないんだよ」
と先回りしてミカリー卿に返答されてしまった。
「『不老』、ですか」
「ああ。だから見た目は年を取らない。いつまでも最盛期さ」
成程。アルーヴの寿命がどの程度なのか知らないけど、それと比してもミカリー卿は若々しいらしい。確かにそんな人に教皇になられたら、退位以外に地位を退いて貰う方法がないな。暗殺か?
「それにしても、今回のダンジョンアタックに応募だなんて、相変わらずですね」
武田さんは呆れたように嘆息している。
「はは。セクシーマンの心配症も相変わらずだね。私は昔も今も、出来るだけ多くの人間を救える手段を模索しているだけだよ」
それが今回のダンジョンアタック。ひいては魔王討伐への参加か。
「下の者に止められたでしょうに」
「今回は振り切ってきたよ。君の時のような後悔はしたくないからね」
「後悔、ですか?」
「セクシーマンを勇者に選んだ時の教皇が私なのだよ」
成程。後悔?
「死んだのは紫斑病のせいです。ミカリー卿が付いてきてくれたからって、俺の死は免れませんでしたよ」
「だが、私が動ければ、様々な事がもっとスムーズに進められたはずだ」
「教皇自ら魔王討伐に旅立つなんて、許される訳ないでしょう」
それはそうだろうな。しかしジョンポチ帝と言いラシンシャ天と言い、このミカリー卿と言い、異世界のトップはフットワークが軽いよなあ。それくらい動けないと、日々刻々と変わる時代の変化に付いていけないんだろう。何せ魔王や魔物がいる世界だからな。
「あの、失礼ですが軽く鑑定をしてみても?」
「ええ、どうぞ」
武田さんもバヨネッタさんも恐縮する人らしいが、俺はこの人がどのくらい強いのか知らない。なので鑑定をしてみたのだが、普通に弾かれた。俺よりレベルが高いのは確実なようだ。
「はあ。ハルアキ、ミカリー司教と言えば、あの六魔将総代の覇剣のムンダイヤと引き分けたとされる人なのよ」
マジで? ムンダイヤの事は噂話でしか知らないけど、魔王に匹敵する強さなんだよねえ? そんなのと互角?
「はは。あれは運が良かっただけだよ」
謙遜するが謙遜になっていない。運が良ければムンダイヤと互角に渡り合えるのは確実なのだ。…………いや待て。逆にこの人をモーハルドから動かして良いのか? 恐らくこの人はモーハルドの防衛の要のはずだ。この人がいるから魔王軍はモーハルドに手出しし難くなっているんじゃないのか? この人がいても今回教皇が襲撃されたのだ。それなのにこの人がモーハルドからいなくなったら、モーハルドがどんな目に遭うか。俺がその可能性に気付いて二人をチラ見すれば、二人から首肯が返される。
「ええっと、後継にこの機会を譲る。と言うのはどうでしょう?」
俺が恐る恐る尋ねると、ミカリー卿は首を横に振るった。
「育っていれば良かったのだがねえ。今回の襲撃、日本国からの支援がなければどうなっていたか。私は、ここで守りに入るより、打って出る方が良策であると考えているんだ」
成程。無策特攻ではないのか。だけどこれはモーハルド国内が荒れそうな案件だ。
「今回の面接は通過としますけど、こちらの一存だけでミカリー卿の同行を許可する訳にはいきません。ミカリー卿は二次テストも通過するでしょうから、その後、モーハルド国と折衝してから、同行するかどうかの結果がでる事になると思います。その結果が自身の思いとそぐわなかったとしても、結果を尊重して頂きますよ」
「ええ。それで問題ないよ。そちらが問題になるのは分かっているから、既に動いているしね」
マジかー。流石はかつて教皇だった人だ。そこら辺の手回しも一流らしい。
「では、面接はここまでとしますので、お帰りください」
俺の言に首肯して、ミカリー卿は面接室を去っていった。これはモーハルド国内、荒れるな。
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