第414話 それぞれ

『『記録』が更新されました』


 いつもの寝起きのアナウンスとともに目が覚めた。これって蘇りでも流れるんだな。『超時空操作』に統合されても、『記録』はそのまま使えるらしい。身体に掛かるふんわりした物の圧力から、どうやら俺はベッドで横になっているようだ。これは、あの台詞が言えるんじゃなかろうか。


「見知らぬ天……」


「起きた!?」


 いきなりシンヤが顔を覗き込んできて、ちょっとムッとしてしまった。


「ハルアキ大丈夫? 体調におかしなところない?」


 しかしシンヤがあまりにも真剣に俺の心配をしているので、心のささくれは仕舞っておく事にした。


「分からないよ。蘇りなんて、サリィで神明決闘裁判をして以来だからな」


 俺は上半身を起こし、手をグーパーしてみる。おかしなところはない。首をポキポキさせてからぐるりと回し、目もぐるりと回す。肩も回す。


(アニン)


『問題ない。こちらも身体に異常は検知出来なかった』


 そうか。


「問題ないみたいだ」


 俺がそう口にすると、心配そうだったシンヤの顔がパァと晴れる。そして直ぐ様部屋から外に飛び出し、


「ハルアキが目を覚ましたよ! 身体も心配ないって!」


 と大声を出したので、ちょっと驚いてしまった。なんか恥ずかしい。


『そう邪険に思うな。あやつは本当に心配して、半日以上ハルアキの側に付いていたのだぞ』


 それは心配させてしまったな。そんなに差が?


(もしかしてシンヤたちは結構早く目を覚ましたんだな)


『そうだ。ハルアキだけ七日ギリギリだった』


 じゃあ皆、余分な買い物しなかったのか。なんか俺だけ貧乏性を発揮したみたいだ。


『買い物?』


 アニンが疑問をこぼすので、俺が説明しようとしたところで、ガヤガヤと皆が部屋の中に入ってくる。


「だから言ったであろう。心配せずとも期限内に目を覚ますと」


 飛行雲に乗ったゼラン仙者が、心配し過ぎなシンヤをたしなめている。


「皆さんお揃いで。そんなに心配掛けました?」


 ゼラン仙者以外が首肯する。


「それはすみません」


「でもまあ、仕方ないんじゃないか。この中ではハルアキが一番レベルが低いんだ。あの試練を突破するにも時間が掛かっただろう」


 とゴウマオさんが口にする。試練? 何それ? 首を傾げる俺と同じように首を傾げているのが、青龍偃月刀を持つサブさんだ。


「そんなに大変な試練だったかしら?」


 長身で筋肉質な身体つきの男性のサブさんが、女言葉で話すのにも、もう慣れたものだ。こっちも試練か。


「大変だったろ? 迫りくる無数の獣を、触れずに倒すんだぞ? 感覚を掴むまで、何度死に戻った事か。思い出しただけでゾッとする」


 と自身の身体を抱くゴウマオさん。これには全員ポカンである。


「何それ? 私が受けた試練とまるで違うんだけど?」


「マジか?」


 驚くゴウマオさんに首肯するサブさん。


「私は広大な水田の中央にある大岩の上で座禅を組んで、魔力で稲を成長させるって試練だったわ」


 へえ、全然違うな。それから皆がそれぞれ自分が受けた試練を話し始める。


 シンヤは黒と白のマーブルカラーの玉が無数に浮かぶ広大な空間で、じんわり光った玉を割る。と言う試練だったそうだ。がこれが中々大変で、玉はじんわり光るので見付け難く、すぐに光が納まるので、全速力でそこまでたどり着かなければならない。更に見掛けに寄らず頑丈なので、全力の一撃を叩き込まなければならなかったんだそうだ。しかも一度でも失敗したら最初からだったそうだ。


 ラズゥさんはお堂でひたすら呪符を作り続けていたそうだ。出されたお題の呪符の中には、知らない呪符もあった為、お堂の書庫で調べながら、心を無にしてひたすら書き続けたとか。写経かな? 余程大変だったのか、ラズゥさんが目覚めたのが俺の前だと言う話である。


 ヤスさんは燃え上がる活火山の火口の中央で座禅である。それだとサブさんみたいに火山を更に燃え上がらせるのかと思うと、違うらしい。お題はその火山を鎮める事だったとか。炎熱をコントロールし、活火山を魔力によって鎮めるなんて、俺には無理だな。


 リットーさんの試練は、やはりと言うべきか、巨大竜との対決だ。何でもゼストルスを召喚してのガチバトルだったとか。巨大竜はゼストルスよりも速く飛翔し、その力は当然ゼストルスよりも上。更には火炎放射に加えて状態異常を付与する煙まで吐いてきたそうだ。人竜一体となって挑むも、何度となく死に戻ったらしい。だがそのお陰で『有頂天』を修得しただけでなく、圧倒的にプレイヤースキルが上がったようだ。それはそうだろうなあ。


 で、話は俺に振られた訳だが、


「いや、普通に買い物しただけなんだが?」


 皆に絶句されてしまった。


「逆に聞きたいくらいだよ。なんでそんな事になっているの?」


 何と言うか、俺と皆との達成感の隔たりが凄い。全員こちらを胡乱なものを見る目で見てくるし。


「べ、別に『有頂天』は獲得しているんだし? 更にはスキルなんかも獲得しているし? 良いじゃん! お得じゃん!」


「お得かも知れないけど……」


 シンヤよ。そんな羨ましそうな目をされても困る。


「何の差なのかしら?」


 首を傾げるサブさん。そう言われてもな。分からないので俺も首を傾げる。


「ハルアキの前に現れた神は、何と名乗ったのだ?」


 とゼラン仙者に尋ねられた。


「え? そう言えば名前聞いていないです」


 また皆から半眼を向けられてしまった。そう言えばネオトロンの時も同じ失敗をした気がする。


「皆聞いているの?」


 全員首肯する。さいですか。何でもシンヤの前には極神教の最高神である元極神君が、他の勇者パーティの前にも極神教の神が現れたそうだ。リットーさんの前に現れたのはデウサリウス神だったとか。皆、所縁のある神が現れたらしい。俺はこちらの世界の神に縁も所縁もないからなあ。


「なんか、姿形は女神様でしたけど、格好はショップ店員でしたね」


「何だそれは?」


 ゼラン仙者が呆れている。そんな態度取らなくても。


「なんか、この世界ゲームの運営側の人っぽかったです。それっぽい事も言っていましたし」


 全員に嘆息されてしまった。解せぬ。


「それで、その女神から『有頂天』を買った・・・と?」


 ゼラン仙者の問いに頷き答える。


「はい。そこではスキル、プレイヤースキルなど、様々なものが命秒と言う単位のポイントで買う事が可能でした」


「メイビョウ?」


「命の秒ですね。どうやら尸解仙法では七日分が上限らしく、それ以上は買えそうにありませんでした。ちなみに『有頂天』は五十万命秒。約五日から六日分の命秒と言う、破格の値段でした」


「それは破格だったのか?」


「はい。大体は1000命秒、2000命秒でしたから」


「成程、破格だな。だが七日分ならまだ余る。それで他にも何か買ってきた。と言う訳か」


 俺が首肯すると、またも全員に嘆息されてしまった。ゼラン仙者とパジャンさん以外は、恨めしそうな視線である。あはは。まあ、そっち側なら俺もそんな目をするかな。


「心配して損した」


 シンヤ、勇者がそんな事を言うもんじゃないよ。

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