第401話 スケープゴート
翌日。家のリビングでテレビを点けながら朝食のハムエッグトーストを食べていると、新たに新世界庁の長官になった
八車女史は辻原派の国会議員で、これまで新世界庁では副長官をしていた人だ。この度桂木が警察に拘束された事で、繰り上がりで長官に就任した。
ブラフマーが介入した事で、桂木の一件はどのような改竄をなされたのかと言えば、桂木による魔族の潜入
その責任の所在はどうなっているのだ? と首相に任命責任を追求したい自称世間の味方のマスコミだったが、今回の事件では早々に高橋首相が誘拐されてしまっているので、世間の同情を慮ってか、首相に突撃するマスコミは少ないそうだ。その代わり槍玉に上がったのが新世界庁であり、今、世間の激情の矛先となっている。
「今回の事件、あなたも関わっていたとのタレコミもありますが!?」
マスコミの一人の姿なき声だけが、テレビから聞こえてくる。誰だよそんな適当をあんたらにたれ込んだの? 八車議員は今回タカシの側で立ち回ってくれた内の一人だ。それが魔王側だったと言うなら、タカシは既にこの世にいない。
「あなた自身、実は魔族なんじゃないんですか!?」
馬鹿がもう一人いた。八車議員は年齢不詳で見た目若く見えるが、辻原派では古参に入る。つまり向こうの世界と地球が繋がる前から辻原議員の側で働いていた人だ。そんな人が魔族とは考えられないだろう。
『いや、分からんぞ? いつの間にやら魔族と入れ替わっていた。なんて事態もここに来ては容易に想像がつく』
アニンよ、ミステリーにでもハマっているのか?
『想像しうる可能性は潰しておくべきだ。と言う話だ』
その程度か。そんなの、俺たちが想像つくくらいだ。辻原さんだって想像出来ているだろう。魔法科学研究所にでも頼んで、『鑑定』なり『看破』なり、魔族判定、いや、その人かどうか分かる、真贋判定でも出来る魔導具を開発させているはずさ。
『それもそうか』
さて、そろそろ出るか。と俺はテレビの電源を消して立ち上がると、台所で洗い物をして、身支度を整えて外に出た。
「おはようございます」
マンションの前、社用のSUVの運転席で俺を待っていたのは、我が社のパジャン担当の二瓶さんだ。
「おはようございます」
助手席に座りながら二瓶さんにあいさつをする。俺が席に座れば、二瓶さんがSUVを走らせ始めた。
「毎度ご迷惑お掛けします」
「いえいえ。社長あっての我が社ですから」
それはありがたいと言えば良いのかな。普通ならばありがたがるシチュエーションなのだろうが、異世界との繋がりとか、日本政府との繋がりとか、そこら辺の結節点に俺がなっているから、ってのが大きい気がする。それに今回判明した『清塩』の効能。絶対に社の主力商品にするつもりだよね? それはそれで、俺自身が道具になるみたいでなんか抵抗感あるんだよなあ。
「あ、パジャンに行く前に、出来るだけ『清塩』を作ってから行きますから」
「それは助かります。どこで嗅ぎ付けたのか、魔法科学研究所以外からも、商品の注文が舞い込んできており、どうしたものか。と社員一同頭を抱えていたところです」
うん。今、商品って言ったよね? 完全に俺の『清塩』を商品扱いしているよね? いくら日本政府が早々にスキルやギフトで作り出された品を、商品として扱えるように法整備したからって、あからさま過ぎじゃない?
「…………頑張ります」
「よろしくお願いします」
はあ。
「…………はあ」
ここはパジャン天国の首都から西にあるトホウ山。その山頂にある聖域と呼ばれるゼラン仙者の宮殿だ。俺はそこに着いて早々、石畳に座り込んで大きな溜息を吐いていた。
「どうした? 溜息とは
ゼラン仙者が飛行雲に乗りながら、呆れた声で尋ねてくる。その横にはパジャンさん。パジャンさん水晶結界を出てから、ゼラン仙者にべったりだな。まあ、別に良いけど。
「時化ていると言うよりは、景気の良い話なんですけどねえ」
「その割りには不景気が顔に出ておるぞ?」
「いやまあ、分かっていたんですけど、『清塩』を大量に作らされまして。ここに来る時点でへとへとなんですよ」
ちなみに我が社の転移要員に、パジャン天国の首都に転移させて貰った俺は、ゴウマオさんの飛行雲でここまで運んで貰った。
「そうか。丁度良かった」
と鷹揚に頷くゼラン仙者。
「丁度良かった? ですか?」
何が丁度良かったと言うのか。俺はゼラン仙者の意図が汲めずに首を傾げる。
「有頂天を修得するには、一度魔力を空にする必要があるからな。ハルアキは簡単で、それでいて有益な魔力の消費方法を持っているから良かった」
はあ、そうですか。それは良かったと言うべきなのか何なのか。それで有頂天に近付けると言うなら、良かったと捉えよう。
「おう! ハルアキ! 着いたか! はっはっはっ、なんだ? ちょっと見ない間に、男前な顔になったな!」
とそこに宮殿の奥から、俺に声を掛けてくる壮年の男性が一人。脇には女官や、そしてシンヤたちを侍らせ、男性は正に王の如く登場した。いや、王ですけど。いや、天ですけど。
「ラシンシャ天……」
この世界の一大事に、なんでこんなところにいるんですか?
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