第361話 不服

 最奥に大きな両開きの扉が見える。礼拝堂への入口だ。最上階にやって来た俺たちは、絶賛背中に多数のドリルを背負った巨大なステゴサウルス四体に追い掛けられていた。更にステゴサウルスのドリルがミサイルとなって射出される。


「どぅおっ!? 危ねえ!」


 口に出しながら何とか無数のドリルミサイルを避ける。流石にここまで来ると魔物のレベルも上がってくる。武田さんとタカシも育っているからねえ。


「ふぎゃあ!?」


 そしてドリルミサイルを捌き切れずにふっ飛ばされるタカシ。


 ギィン!


 対して武田さんの方は、従魔にした覗く者のヒカルの結界で、ドリルミサイルをきっちり防いでいた。


「タカシ大丈夫か!?」


「何とかな!」


 どうやら左手に持つアニンの黒盾で直撃は防いだらしく、すぐに立ち上がり、追撃のドリルミサイルを躱すタカシ。


「おりゃあ!!」


 ドリルミサイルを躱しながらステゴサウルスへと駆け寄ると、タカシは俺から受け取ったアニンの黒剣を振り下ろした。ステゴサウルスの鎧のような鱗を黒剣が斬り裂く。


 痛みで数歩後退したステゴサウルスへ、ヒカルの瞳から光線が放たれた。更に後退するステゴサウルス。そこに武田さんが肉薄し、アニンの黒刃を両手に持って連撃を振るう。


「グキャア!!」


 痛みで背中のドリルミサイルを矢鱈めたらに振り撒くステゴサウルス。しかし二人はそれを冷静に躱し、ステゴサウルスの首を斬り落としてみせた。


「お見事」


 俺が二人に称賛の拍手を贈るも、二人からは白い目で見られた。何故?


「俺たちが二人がかりで倒した敵を、一人で三体倒されてたらなあ」


「いや、流石に俺と二人のレベル差で、攻撃力が同程度じゃあヤバいだろ」


 二人は既にレベル二十五まで上がっているが、俺だって四十二である。これくらい出来ないとね。


「工藤の場合、レベル差と言うより、これの差だな」


 と武田さんが手に持つ二振りの黒刃を眺めながらそう口にすると、同調するようにタカシが首肯する。


「ズルいだろアニンって。これで壊れる事もなければメンテナンスの必要もないんだろ?」


 二人の武器はここまで来るのに壊れてしまったからなあ。だからって二人して白い目で見ないで欲しい。まあ確かに、神代の時代の代物らしいからなあ。向こうの世界を旅する上で、アニンと出会えたのは最大の幸運だったかも知れない。


「何であれ、これでこの階層のボスは倒したんですから。礼拝堂に行きましょう」


 俺はさっさと二人からアニンの武器を回収すると、礼拝堂への扉を指差した。嘆息した二人は礼拝堂の方へと歩き出す。まあ、アニンと同等の武器を望むなら、闘技会でガイツクールを手に入れる事だと理解しているからだろう。



 礼拝堂とを隔てる大きな扉。その前で扉の鍵穴相手にカチャカチャと両手でピックをいじりながら、器用に鍵穴からワイヤーを引き出す武田さん。ピックを両方左手に持ち替えると、右手にハサミを持ち、ハサミでそのワイヤーを切り落とす。これを三回繰り返し、更に鍵穴に違う形のピックを突っ込んで何度か回すと、ガチャリと錠が開く音がした。


「ふう」


「ご苦労さまです」


 額の汗を拭う武田さんに、ペットボトルの水を差し出す。


「何かかなり大変そうだったな」


 とはタカシの感想。


「まあな。まず暗転とそれから閃光。そして遅効性の毒ガスと、即効性の毒ガスと、天井落下と、魔物召喚の魔法陣と、ボス魔物復活魔法陣と、どこかに飛ばす転移魔法陣と、中々手強い罠だったよ」


 ゴクゴクと水を飲みながら武田さんが答える。それってもう、さっきのボス魔物が最後じゃなくて、その扉の罠が最終ボスじゃん。


 何であれ解除された扉を、俺たちはおっかなびっくり開けながら、中へ入っていった。


「へえ。ここが礼拝堂かあ」


「みたいだな」


 タカシは周囲を見回して口を開けている。礼拝堂はカロエルの塔と同様に幾何学模様で彩られているので、きっとカロエルの趣味なのだろう。そしてタカシの感想に武田さんも同意する。そうか、武田さんは色んな塔に行っていたけど、礼拝堂には入っていなかったのか。天賦の塔でスキルを獲得すると、獲得数に応じて塔の難易度が上がるらしいからなあ。武田さんには礼拝堂でスキルを手に入れるのを制限して貰っていたんだよねえ。


 礼拝堂の最奥には、モニュメントが祀られていた。天使と言う訳でもない。金属で出来た噴水みたいなものだ。これは塔ごとに違うらしい。


 三人でこのモニュメントに向かって祈りを捧げる。二人は初めてだが、俺は二回目だ。一つの塔では二回までスキルを獲得出来る。だから俺はこの塔ではこれ以上スキルを獲得出来ない。だからと言って別に塔に入れなくなる訳ではないので、スキルを獲得しておく事にした。


 祈りを捧げると、俺たち三人の上から光が降り注ぐ。そして脳内のウインドウに獲得したスキルが映し出されるのだ。


「何だった?」


 俺が二人に尋ねると、タカシが口を開いた。


「『影移動』だって」


『影移動』? 思わず首を傾げてしまった。


「影に潜って、影から影に移動出来るやつだな」


 と武田さんの説明。


「へえ。便利そうですね」


「移動出来るのが、使い手が感知出来る範囲だから、使い手によるんだよなあ。前田の場合……」


 タカシは『探知』スキルの持ち主だ。しかもこの塔でレベルも相当上がった。その感知範囲となると……、


「うん。何かこの礼拝堂だけでなく、最上階全域移動可能みたいだ。外だと更に、だろうな」


「組み合わせ最強かよ!」


 何て羨ましい。


「武田さんはどんなスキルでしたか?」


「俺か? 俺は『転置』と言うスキルだな」


「『転置』?」


 これまた聞かないスキルだ。


「物体と物体の位置を入れ替えるスキルだ。転移系のスキルだな」


「それも凄いスキルなのでは?」


「まあ、そうかもな。普通であればこれも感知範囲での転移になるんだが、俺の場合、ヒカルがいるからな。ヒカルの感知範囲も転移の対象になるようだ」


「こっちも最強かよ!」


 何だよ! 何で二人ともそんな有益なスキルなんだよ!


「んで? 工藤はどんなスキルだったんだ?」


 武田さんがニヤニヤした顔をこちらに見せてくる。分かってて俺の口から言わせる気だな。


「…………さらい、です」


「何だって?」


「『ドブさらい』です!!」


 二人して大笑いしやがった。

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