第362話 汚れは汚れ
「ふっ、朝日が目に染みるぜ」
「ぶふあっ! 何を格好つけてんだよハルアキ!」
天賦の塔攻略が終わり、地上に戻ってきたら朝になっていた。疲れがどっと出て、朝日に対して手をかざして目をしぼめると、タカシと武田さんが俺を指差して笑う。
「酷くない!?」
「いや、だって…………、ぶはあっ、無理、笑いを止められん!」
こいつらぶっ飛ばしてえ。
「何がそんなに面白いのかしら?」
俺が塔の前で笑いものになっているところへ、バヨネッタさん、サルサルさん、アネカネの三人が家族でやって来た。
「これからご家族で挑戦ですか?」
「ええ。来る戦いに向けて、私たちも手札を増やしておこうかと思ってね」
俺の問いにバヨネッタさんが答える。
「あ、ミウラにも言ってあるけど、私今日学校休むから」
とはアネカネの発言。まあ、こんな時勢だし、良いんじゃないか。
「スキル獲得が目的なら、気を付けた方が良いですよ。ここで獲得出来るスキルにも、当たり外れがありますからね」
したり顔で三人に忠告するタカシ。
「当たり外れ、ねえ」
と俺たち三人を、バヨネッタさんたちがぐるりと見回す。
「その目玉はタケダのスキルなの?」
そりゃあ、まずはそこに注目が行くよな。
「いえ、武田さんの従魔ですね。宝箱から出てきたんです」
バヨネッタさんたちが首を傾げる。そりゃあそうだ。なので俺は塔の内部で何があったのかを説明した。
「へえ。魔物を倒すと宝箱を残して塔に吸収されるのね」
サルサルさんが面白そうに目を細めた。
「何百体に一個って割合ですけどね。それに消滅前に『空間庫』に収納すると、宝箱は出ないみたいです。『空間庫』で回収した魔物の死骸から、宝箱が発見された。と言う報告は受けていませんから」
「つまり、魔物の素材を取るか、宝箱のレアリティに賭けるか、を天秤に載せるって事ね」
アネカネの言葉に首肯する。
「それで、これがその宝箱だと?」
バヨネッタさんの手には、俺たちが手に入れた宝箱だったものが握られていた。それを目をすがめて吟味する。
「似ているわね」
「ですよねえ」
バヨネッタさんの一言に俺は首肯するが、残る四人は首を傾げていた。
「お姉ちゃん、何が似ているの?」
訳が分からない四人を代表して、アネカネがバヨネッタさんに尋ねた。
「これよ」
と自らの宝物庫から、宝箱に似たものを取り出すバヨネッタさん。
「それは宝箱じゃないの?」
見せられたそれと今回の宝箱の違いが分からないアネカネが、重ねて尋ねる。
「これはフーダオの花形箱と言って、パジャンで発掘される古代遺物よ」
へえ。と四人は感心したように今回手に入れた宝箱と、フーダオの花形箱を見比べる。
「星と花が違うくらいで、確かにほとんど一緒だね」
俺も似ているとは思っていたが、こう見ると同種である確証を覚える。
「つまりフーダオの花形箱は、かつてパジャン天国にあったかも知れない天賦の塔のような場所で、魔物から入手した宝箱の成れの果て、って事ですかね」
俺の言葉に皆が頷く。
「可能性の話だけれども。もしこれがフーダオの花形箱と同種のものなら、オルのところへ持っていくと良いわ。ちょっと面白い研究結果が出たそうだから」
言ってバヨネッタさんから宝箱を返された。ちょっと面白い研究結果ねえ。なんだろうか?
「それで? 三人はどんなスキルが手に入ったの?」
この話が一段落したところで、アネカネが話を戻してきた。これに対して武田さんとタカシが吹き出す。
「おい」
「いや、すまん」
「不意打ちは駄目だろ」
知らんがな。俺だって好きでこんなスキルを手に入れた訳じゃないっての!
「ずいぶんな不満顔ね?」
バヨネッタさんが首を傾げて尋ねてきた。うう、言いたくないなあ。
「そんなに使えないスキルなの?」
「使えないスキルなんて、そうそうないわよ」
アネカネの疑問の声を、サルサルさんが否定する。すみません、使えないスキルです。
「…………はあ。『ドブさらい』です」
「…………」
「…………」
「…………」
俺の言葉に三人して無言にならないで欲しい。
「それは………何が出来るスキルなの?」
バヨネッタさんはその疑問を、俺ではなく鑑定の出来る武田さんに投げ掛ける。
「一応あれで浄化系のスキルなんだよ」
そうなんだ!
「最下位だと言われているけどな」
でしょうね。
「浄化の魔法よりも威力が弱い」
そこまで言うか。
「説明文では、『汚れを浄化させる。狭所や
まんまドブさらいだな。サルサルさんとアネカネが、可哀想な人を見るような目でこちらを見てくる。その視線が辛いのでやめて欲しい。その中で一人首をひねるバヨネッタさん。
「それは、汚れなの?」
「ん? どう言う事だ?」
「
ああ、確かに! 浄化系スキルだもんな! それなら中々凄いスキルなんじゃないの!?
「まあ、確かにそうとも読めるが、結局、
と武田さんにトドメを刺されてしまった。くっ、せっかくバヨネッタさんが光明を見出してくれたと言うのに。武田さんめ。
「はあ…………。まあ、こう言う事もあるので、皆さんもスキルに期待し過ぎないでください」
「流石に、それより低いレベルのスキルを獲得する事はないと思う」
俺の注意に対してこれだ。アネカネよ、喧嘩売っているのか?
「何であれ、組み合わせ次第でしょ。まあ、何とかひねり出して使えるようにしなさい」
バヨネッタさんはそう言い残して、天賦の塔へと去っていった。そう言われてもなあ。使える気が全くしないんですけど。
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