第341話 経緯
魔女ロコモコの後に付いて、魔大陸に向けて飛んでいる俺たち三人。前を行くロコモコはほうきの細い柄の上で直立不動していて、なんとも器用だなあ、と感心していたら、くるりとこちらヘ踵を返した。
「魔王様のところまではまだ少し時間がありますから、退屈を紛らわすのに、少々お話でもいかがでしょう?」
「お話、ですか?」
俺が尋ねると、にっこり微笑むロコモコだった。全く裏がないように見えるその笑顔だったが、何故か俺には淀んだものが感じられた。
「それは良いね。ボクとしては聞きたかったんだ。魔王の願いが叶えば、この世界は滅茶苦茶になる。それは君たち魔王に加担する者の生活だって危ぶまれる事になるんじゃないのかい?」
シンヤがなかなか的を射た質問をするも、ロコモコは笑顔を崩さない。
「魔族と魔王様は一蓮托生ですから。魔王様が望むのなら世界を平和にも破滅にもするのが魔族です」
「一蓮托生?」
ロコモコの答えにシンヤは首を捻る。
「『狂乱』でトチ狂うって事は、魔王と自分たちが本質的に同種であると言いたいのか?」
俺が疑問をぶつけると、しかしロコモコは首を横に振るった。
「それは表面的な答えですね。魔族とは特殊な生き物で、魂で魔王様と繋がっているのですよ」
「魂で?」
「はい。魔族とは神が世界に設置した、この世界が無秩序発展するのを抑制する為の装置です」
無秩序発展するのを抑制する為の装置。そう言えば天使も無秩序な発展を是としていない。とか言っていたっけ。
「そして魔王様とはこの世界の監視者なのです」
「監視者なのに破壊するのか?」
「監視の結果です」
「それなら、この世界じゃなく、俺たちの世界に魔王が現れなかった理由になっていないな」
「あちらの世界に魔族は残っていませんでしたから。でも結果として消滅するでしょう?」
ふう。まあ確かにそうなるのか。となるとトモノリは初めから俺たちの世界が犠牲になるのを織り込み済みで、魔王になったと考えた方が良いか。
「あなたは、魔族ではないでしょう? 何故魔王に加担するんですか?」
シンヤが尋ねると、一瞬ロコモコの口角が嫌らしく上がった。まばたきの間に元に戻っていたが。
「単純な話です。私のスキルは戦闘向けでして、それならば一番戦闘でそのスキルを発揮出来る居場所に落ち着くのは、至極当然の帰結かと」
戦闘向けのスキルねえ。これまで色々なスキルを見てきたけど、戦闘向けのスキルと言われると首を捻る。何故なら、俺が見てきた人たちのスキルは、癖は強いが戦闘向けとは違っていたからだ。
炎や雷だって使い方次第では生活の役に立つ。ここに来て戦闘向けのスキルとなると、薬にもならない猛毒か即死系しか思い浮かばないな。
「そう言えば、ハルアキさんはティティの従僕をなされておいでとか」
「俺っ? ですか?」
戦闘向けのスキルってなんだ? と考えていたら、いきなり話の矛先がこちらに向けられた。まあでも、ロコモコもバヨネッタさんと同じ魔女なら同郷なのだろう。
「ティティの相手は疲れるでしょう?」
「はあ、まあ、疲れると言えば疲れますけど、最近は慣れてきましたね」
「あら? 本当に? やたら攻撃的だったりしません?」
んん? なんだこの人? 俺にバヨネッタさんの悪口を言わせたいのか? じ~っと見遣るも、その笑顔は最初と変わらない。
「まあ、言動が攻撃的なところはありますけど、そんな殴られたりとかは……、そう言えば銃で撃たれた事が何度かあったな」
俺が「しまった!」と口を塞いでも時既に遅し。ロコモコの口角は嬉しそうにグニャリと上がっていた。
「そうでしょうそうでしょう。あの子って昔から自分こそが一番偉いみたいな顔をして、気に食わなければ暴力で解決する。そんな子だったんですよ〜」
あ、俺、この人嫌いだわ。なんか生理的に無理。
「何でも一番じゃないと気が済まないような子でね? でもあの子のスキル、ふふっ、『二倍化』なんですよねえ。あんなに偉そうにしていた子のスキルが『二倍化』とか、当時は島中の笑い者でした」
イライラするな。この話も眉唾物だな。地球に『聖結界』を張るために、多くの魔女の力を借りたけど、魔女島の魔女たちがバヨネッタさんを嫌っている風な素振りはなかった。
「そうそう。良い事を教えてあげましょうか?」
「…………」
もう、聞き返す事もしたくない。何ならあのおしゃべりな口を塞いでしまいたいくらいだ。
「ティティが、何故あんなにも魔力の強大な魔女になれたか知っていますか?」
「…………」
「あれだけ強大な魔力を持っていれば、島でも相応の役職に就くのが習わしなんですけどね、あの子今、どこにも居場所がない根無し草じゃないですか? 何でだと思います?」
「…………」
知らないし、そんな話、他人のあんたから聞きたくもないのだが。
「魔女って、私も含めて全員人殺しなんですよ。何故なら、正式に魔女になる儀式で、見習い魔女は人を殺さないといけないからです」
はあ、そうですか。これに関して外の人間が何か言うのは、間違っているとは言わないが、かなりセンシティブな問題であるとは言えるだろう。
「普通は島の外から死刑になるような罪人を仕入れて、その罪人を殺すんです」
成程ね。レベルのある世界で、人殺しなんかの重罪を犯した罪人を、禁固刑や労役後に野に解放するのは危険性が高いからな。こいつらが解放後にレベルを上げて仕返しに戻ってくるとも限らない。それなら死刑になるのも仕方がないかも知れない。
「そうやって殺した罪人を生贄として、島の神ナナンジャバラ様に捧げる事で、見習い魔女は正式な魔女として認められ、強大な魔力と『限界突破』と言うスキルを授かるんです」
はあ、そうですか。もう、黙っていて欲しい。
「でもね、こんな狂った儀式でも、やっちゃいけない掟があるんです。何だと思いますか?」
ロコモコはとても楽しそうで嬉しそうに、口を綻ばせ目を輝かせている。
「身内殺しですよ。ティティはあの儀式で、自分の父親を殺したんです」
頭が真っ白になった。次の瞬間には俺は攻撃に移っていて、右手を黒剣に変化させてロコモコに特攻を仕掛けていた。
ズドゥゥーーーーーーンンン!!
それを遮ったのは、どこからともなく鳴り響いた轟音だった。鼓膜が破れそうになる程に耳をつんざくその轟音の直撃を受けたらしいロコモコは、人の形を保つ事が出来なくなり、人としてあり得ない異形に変えられる。
『気分を害して悪かったな』
どこからともなく、トモノリの声が響き渡った。
『ロコモコ、口が過ぎるぞ。三人は俺の客人だと言っておいたはずだが?』
「申し訳ありません、魔王様」
とあれだけ変形していたと言うのに、魔女ロコモコは既に回復して、近付いていた魔大陸に向かって深く礼をしていた。
『もう良い、下がれロコモコ』
「そんな!? 魔王様!」
トモノリの発言にたじろぐロコモコ。
『ハルアキ、俺は海の見える丘にいるから、そこからは三人だけで来てくれ』
そんなロコモコを無視して、トモノリは話を進める。まあ、俺もこの人にはもう付き合いきれないから良いけどね。
「行こうぜ、二人とも」
シンヤと、いつの間にやらシンヤの飛行雲に乗っていたタカシに声を掛け、俺たち三人は魔大陸へと向かう。一瞬交差したロコモコが、凄い顔で俺を睨んでいたが、自業自得だし、何も言う事はなかった。
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