第340話 南国
青い空、青い海、ギラつく太陽。やってきましたガーシャン! いや、南国かよ! パジャン天国の国土の広大さに驚く。冬なのに俺、いつものつなぎの上を脱いで半袖なんですけど?
「お前のモノローグは知らんが、何で俺まで連れてこられているんだ?」
タカシはのりが悪そうだ。砂浜と海岸が半々で混ざった独特の地形をしているガーシャン海岸を前にして、うんこ座りはどうなんだ?
「半眼で見るんじゃない。肩をすくめて顔を左右に振るな」
「まあまあ。文句もそのくらいにして」
シンヤが俺とタカシの仲を取り持ってくれた。流石勇者だ。
「なんか、くだらない理由で感心された気がするんだけど」
「ハルアキはいつもくだらない事しか考えていないだろ」
俺の人物評酷くない?
『当たっていると思うが?』
アニンまで!? 泣くぞ!
「それで? バイト帰りに拉致ってまでここに連れてきた理由を教えて貰おうか?」
「半眼で睨むなよ」
俺の意趣返しが気に入らなかったらしく、タカシの眉間のシワが濃くなった。
「まあまあ。でもボクも教えて欲しいな。この街で魔王と会談をするのは半年後だよね? 今来る理由って何? 下見とか?」
優しいシンヤは、俺たちの間に立って疑問を口にする。ガーシャンの街では既に物資搬入が始まっていて、街は賑わっているが、武器や銃器を携帯した人間が歩き回っていたり、高台に電波塔らしきものが立っていたり、雰囲気の裏に魔王戦へ向けての物々しさを感じられた。
「それもある。どんなところで会談が行われるのか、一度見ておきたかったのは確かだな」
「『それも』って事は、それ以外にも目的があるんだ?」
「暇だったから」
「へ?」
俺が理由を口にすると、二人は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を点にして驚いた。受ける。そして数秒遅れで顔を真っ赤にするタカシ。
「お前、暇とかそんな理由で異世界まで友達連れてくるなよ!」
「暇じゃなかったら、こんなご時世に友達を異世界まで連れてこれないよ」
タカシが歯ぎしりしておる。受ける。
「ハルアキ、本当の理由をちゃんと説明してよ」
おっと、シンヤも少しイライラし始めているな。シンヤは怒らせるとタカシより怖いからなあ。まあ、ちゃんと理由を説明しますか。
「暇だ。って言うのは、本当に理由の一つなんだよ」
「ハルアキ……」
文句を言いたそうなタカシを手で制する。
「さっきも言ったけど、俺とシンヤはこれから魔王戦に向けてレベリングをしないといけないから、本当に今だけが暇なんだ。それに異世界と地球の行き来に関しても、これからもっと規制が厳しくなるみたいだし、俺たち三人がこうやって異世界で顔を合わせられるのも、最後かも知れない」
「ハルアキ……」
うんうん。そのなんとも言えないしんみりした顔。予想通りで受ける。
『ハルアキ、南国にやってきて気分がハイになっているな?』
あはは、確かにそうかも。おっと、肝心な事を話しそびれるところだった。
「それでさ、どうせならもっと人数多い方が良いと思わないか?」
「へ?」
「それって?」
二人の頭に疑問符が浮かんだところで、俺はくるりと180度反転して、青い海を、いや、その先にある魔大陸を見据える。
「ト〜モ〜ノ〜リ〜く〜ん!! あ〜そ〜ぼ〜!! おら! トモノリ! 今からそっち行くから、茶菓子用意して待っとけ〜!!」
いやあ、全力で叫ぶと心の中まで吐露するみたいでスッキリするなあ。若干街の人たちの視線が痛いけど。
『ハルアキはそれでスッキリしたかも知れないが、お友達は急展開についていけずに固まっているぞ?』
「ありゃりゃ。お〜い、大丈夫かあ?」
俺の声掛けにハッとする二人。
「ちょ!? ちょっ、ちょっ、本気か?」
「本気です」
にっかりダブルピースをすると、また固まる二人だった。
「なあ、落ちないよなあ? これ落ちないよなあ!?」
毎度の如く手を籠にして、その中にタカシを放り込んで魔大陸へと羽ばたいているのだが、なんだろう? 既視感がある。あ! あれだ。トホウ山に行く時のゴウマオさんがこんな感じだった。
「落ちないよ」
「本当か? 本当だろうな!?」
この状況で友達を疑うってどう言う事? いっそ落としてやろうか?
「シンヤ! 笑っているんじゃねえよ! こっちは真剣なんだぞ! ああ、こんな事ならシンヤの雲にしておけば良かった!」
こちらと並走するように飛ぶ雲に乗るシンヤは、怯えるタカシの姿が余程面白いのだろう。ずっと口元を抑えてくすくすと笑っている。
「じゃあ、今からでもシンヤに乗せて貰うか?」
と俺がシンヤの方に寄ると、
「いや、待て。確か筋斗雲って心が綺麗じゃないと乗れないんじゃなかったっけ?」
などと言い出す始末。どこのドラ◯ンボールだよ? もうその設定を覚えている人間の方が少ないよ。それに大丈夫だ。こっちの飛行雲は外道仙者から仕入れた物だから、タカシの心がどれだけ汚れていようと雲から落ちる事はない。
「あ、でもレベル制限とかあったら落ちたりするのかな?」
「ああ、あるかもね」
「ほらあ! そう言うのあったりするんじゃん!」
喚き散らすタカシだった。
ひとしきり喚き散らしてタカシが静かになったところで、前方に何かの影が見えてくる。魔大陸ではない。魔大陸はそれ以前から見えていたからだ。もっと黒い雲で大陸全体が覆われているかと思っていたが、案外普通の大陸っぽいので、逆に驚いた。
そうではなく、俺たちの前方に現れたのは人影だ。空だと言うのに、人影が宙に浮いている。まあ、魔大陸なら十中八九魔族なんだろうけど。
さて、どうしたものか。とシンヤと顔を見合わせる。俺の手の中にはタカシがいるので、戦闘は避けたいところだ。ここは二手に分かれて煙に巻くかな? でもそうなると前方の人影にこっちが追いかけ回されるパターンが思い付いちゃうんだよなあ。などと思案していると、前方の人影から声を掛けられた。
「遠路はるばるようこそおいでくださいました。魔王様はお三名様の訪問を心より歓迎なさっておいでです」
やんわりとした女性の声だった。速度を落とし、ゆっくりと人影に近付いていくと、その風貌が見て取れた。黒いローブに黒いマント、頭には三角帽子。眼鏡を掛けた黒髪三つ編みの女性で、ほうきの上に直立している。
「私は案内を務めさせて頂きます、魔女のロコモコと申します」
いやはやなんともクラシカルな魔女もいたものだ。そして魔族じゃなかった。そして名前が美味しそうだ。
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