第337話 報酬
「あ!」
「どうかしたか?」
頭を過ぎった想像に思わず声を上げて、ゼラン仙者に首を傾げられてしまった。
「ああ、いえ、このパジャンさんも勇者で、シンヤも勇者じゃないですか。そうなると魔王ノブナガが狙う、勇者が持つと言うコンソールはどうなるんだろう? と思いまして」
「その事か。それならパジャンが今もここで封印されているのが答えだ」
「答えだ。と言われましても」
抽象的な答えを返されても、俺はこう言った勘は悪いんだよな。察しが悪いと言うか。
「どうやら勇者と魔王の関係と言うのは、一勇者一魔王で相対しているらしくてな。魔王が他の勇者を狙ったり、勇者が他の魔王を倒しても、意味がないらしい」
「ああ、そうなんですね」
…………ん?
「魔王が勇者を狙う理由は知っていますけど、勇者が魔王を倒すのに、世界平和以外の理由があるんですか?」
「ああ。魔王を倒すと神と対面出来る。そこで勇者パーティの願い事を叶えてくれるのだ」
「へえ〜」
武田さんが地球に転生したのは、もしかしたらそれかも知れないな。
「へえ〜、とは大きく出たな」
ゼラン仙者は俺の反応に呆れたような溜息を漏らす。そんな事言われてもな。
「ピンとこないんですよ。願い事が叶えられると言われても」
「ハルアキお前、何の見返りもなしに魔王討伐なんて狂気の沙汰をしようとしていたのか?」
そんなに目をかっ開いて驚かなくても。
「えへへ」
「信じられん。ハルアキこそ聖人だな。モーハルドやパジャン天国のエセ聖職者どもに説教してやれ」
両国とも酷い言われようだなあ。
「でも神様が願い事を叶えてくれるなら、何でパジャンさんを元の状態に戻して上げなかったんですか?」
俺の質問が痛いところを突いたのだろう。ゼラン仙者が苦い顔をなった。
「結論から言えば、無理だったのだ」
「無理、でしたか」
どうやら神と言っても万能ではないらしい。まあ、万能な神ならこんな不便で不平等で不公平な世界は創らないか。いや、神の性格によるのか。
「一応理由をお聞きしても」
俺の質問にゼラン仙者が首肯し、一息吐いてから話し始めた。
「まず、私たちは魔王を倒していない。パジャンの融合封印によって封印しただけだ」
成程、確かに。
「この為に我々の代の勇者パーティは、神から願い事を叶えられる事が出来なかった」
う〜ん。厳しい判定だが、理解は出来る。完全に滅していないのなら、魔王がまた復活するかも知れないもんな。でも、
「魔王はゼラン仙者の代以外にも出現したんですよね? そこのパーティに同行はしなかったんですか?」
ゼラン仙者の代で願いが叶えられなかったとしても、次世代の勇者パーティと一緒に次世代の魔王を倒せば、パジャンさんを救えたのでは?
「そんな事は当然考えたし実行した」
そりゃあそうですよねえ。
「でも駄目だったんですね?」
「ああ。次の魔王は存在を魂ごと消滅させて、転移も転生も出来ないように滅却してやったんだがな。パジャンはあれで完全に魔王と融合しているらしく、あの状態から魔王だけを取り除くのは、神を以ってしても無理だそうだ。やればパジャン自体も消し去る事になるそうだ」
それは辛いなあ。
「じゃあ、あの状態を受け入れるしかないんですね?」
「ああ。一応時を過去に戻して、両者を分離する方法もあるにはあるが……」
「そうすると魔王も復活しちゃいますもんね」
「そうなのだ。神も融通が利かなくてな、願い事を叶えるのは、魔王を倒してすぐと決まっている。そんな状態で新たに魔王を復活させる事なぞ、出来ないだろう」
それは出来ないなあ。やっとの思いで倒した魔王と連戦とか、たとえ二倍願い事が叶えられるとしても、御免被りたい。
「成程、つまりこの状態でパジャンさんを復活させるのが、一番って訳ですね」
首肯するゼラン仙者。
「では、勇者パジャンに復活して貰いましょう」
俺は『空間庫』から、まだ誰のものでもないガイツクールを取り出す。
「…………」
「…………」
「え? あれ? なんか呪文とか唱えないんですか?」
「私がか? 何故だ?」
「いや、だってゼラン仙者が封印しているんですよね?」
「私じゃない。パジャン自身が己のスキル『水晶』で、己を封印しているのだ」
そうなの!?
「え〜と、それじゃあどうすれば?」
「おい! パジャン! いつまで水晶の中に閉じ籠もっているつもりだ! さっさと出てこい!」
「ええ〜、そんなに饒舌なゼランくんなんて珍しいから、もうちょっと見ていたかったんだけどなあ」
とゼラン仙者がパジャンさんに声を掛けると、水晶壁の中から、女性の声が返ってきた。
見ればパジャンさんを中心に、水晶壁に放射状にヒビが入り、そして壁は一気に砕け散った。
「はいはーい! 皆、こんにちは〜! 世界の希望! 子供の味方! 魔王の脅威を取り除く! 勇者パジャン、ここに復活!」
…………ええ。
「あれあれ〜? 元気ないなあ。こんにちは〜」
「こ、こんにちは」
「うん。良い返事ね! 僕の名前はパジャン! 親しみを込めて、パジャンちゃん! って呼んで良いわよ!」
と握手の為に手を差し出すとともに、ウインクしてきたパジャン……ちゃん。俺は握手を返すとともにゼラン仙者を見遣る。あからさまに横を向かないで欲しい。
「う〜ん! 久し振りの外の世界だけど、洞窟の中じゃ、あんまり良く分からないわね!」
「それより〜、ゼランくん久し振り〜!」
言ってパジャンちゃんはゼラン仙者に抱き着いて、撫で撫でしたり頬擦りしたりやりたい放題だ。ゼラン仙者はその事に半ば諦めていた。
「この千年間、僕と触れ合えなくて寂しかったんでしょう? 今日からはいくらでも触れ合えるからねえ!」
ほほう。そう言う間柄だったのか。もしかしてゼラン仙者がその幼い姿から成長したかったのって、見た目的にパジャンさんと釣り合う為? それなら……、
「ゼラン仙者、前に言われていた、身体を成長させるアレですけど、今の俺だったら、可能だと思いま……」
「はあ!? あんた何言っているの!?」
ええ!? パジャンちゃんにキレられたんですけど? そしてゼラン仙者が諦観している。
「ゼランくんはこの幼い見た目で完成体だから! 成長とかないから! ゼランくんは永久にこのままだから!」
この人、ショタコンや。
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