第333話 レベル上げと言う名の閑話(後編)

「はあっ!」


 俺は黒いボディスーツの右手から黒刃を出して、俺へと迫るエネルギーボールを両断する。割れたエネルギーボールはそこで形を保てなくなり爆発するが、ボディスーツを着ている俺には、軽い衝撃はあっても熱さや痛みは感じない。


 俺はそのまま、中空に黒い手を出現させると、それを蹴って直下の巨竜へと切迫し、右手の黒刃を振り下ろす。が、巨竜もさるものだ。それをサイドステップで躱してみせた。


(やっぱりレベル相当の敵が出てくるだけあって、天賦の塔の魔物は、一朝一夕では倒せそうにないな)


 横薙ぎに振り回される巨竜の尾の一撃を、バク転で躱しながら、俺は両手に黒い改造ガバメントを出現させ、『空間庫』から弾帯を出して装着する。


 ダダダダダダダダ…………ッッ!!


 改造ガバメントの連射で足を止める巨竜。この銃弾は電撃魔弾だから、それが効いているのだろう。


 分体との戦闘後、今後を考えて改造ガバメントはアニンが作れるようにしておいた。魔弾も作る事は可能だが、継戦を考えると、毎度毎度魔弾を作り出すのは魔力消費効率が悪いとの判断となり、今まで通り『空間庫』から弾帯を呼び出す、併用型の活用に落ち着いている。


「グガアアアアッ!!」


 身体が動かせない事に苛立つ巨竜。まあ、今のうちに仕留めさせて貰うけど。と改造ガバメントを撃ちながら、黒刃を足元から地中を通して、巨竜の喉下へと突き出し仕留めに掛かる。が、俺の黒刃は奴に軽傷を付けるに留まった。


「嘘だろ!?」


 巨竜の喉元に、何やらエネルギーで出来たバリアのようなものが張られていたからだ。俺の攻撃を完全には防ぎ切れないようだが、それでも十分な防御力上昇だ。


「グオオオオオオッッ!!」


 巨竜が天に向かって吠えると、そのエネルギーバリアが全身を覆う。弾かれる魔弾。


 くっ。これ以上は魔弾は効かないな。


 ギラリとこちらを見据える巨竜の鋭い目は、明らかに怒気を含んでおり、俺を噛み砕かんとよだれの溢れる大口からは、低い唸り声が聞こえていた。


「グワアアアアッッ!!」


 威嚇するように巨竜が吠えると、全身を覆っていたバリアから、エネルギーボールが複数出現。それらが時間差で俺に向かってきた。


 それを右へ左へと躱していく。時間差がある為に間断なく続くエネルギーボールの攻撃。右かと思えば先を塞ぐようにエネルギーボールが降ってきて、直ぐ様方向転換を余儀なくされる。そうして誘い込まれたのは、巨竜の大口の前だった。頭の良い奴だ。


「グルラアアアアッ!!」


 巨竜は大顎を開いて俺を噛み砕かんと迫る。が、これは俺にとっても願ってもない好機だ。


 俺は爆弾手を複数出現させると、巨竜の口の中目掛けてどんどんと放り込んでいく。たとえ外側をエネルギーバリアで覆ったとしても、身体の内側までは守っていまい。


 次々と俺の爆弾手を飲み込んだ巨竜は、邪魔くさいとこれを噛み砕いだ。直後、奴の口腔内で起こる大爆発。俺はそれをバックステップで躱し、程良く距離を取ると、両手から黒刃を出して巨竜の動向に目を光らせる。


 ズンと言う地響きとともに竜の巨体は横倒しとなり、巨竜を覆っていたバリアは既になくなっていた。


 倒したか? こう言う手合いは死に際が一番危ないのだ。例えとしては馬鹿みたいだが、死に際に道路で転がっている蝉が、自分が近付いた瞬間に蘇ってびっくりした経験は、誰しもした事があるだろう。


 俺は戦闘の疲れの為か、この密林の湿度の為か、こめかみから顎へツーッと汗が流れるのを感じながら、巨竜へと近付いていく。巨竜はその大口をだらしなく開け、舌がでろんと飛び出している。しかしまだ死んではいないようで、胸部は息をするように、上下に動いていた。


 少し離れているが、ここから攻撃して仕留めるか? しかし、ちょっと距離がある。これが死んだふりなら避けられて、エネルギーボールで反撃されるかも知れない。いや、それは近付いても同じか。反撃される時は、なにがしか反撃されるだろう。それを心に留めて、トドメを刺すべきだ。


 俺は一歩、また一歩と巨竜へと近付き、その喉元へと到着する。ちらりと奴の目を見れば、諦観したような視線が向けられていた。


 俺は右手の黒刃を巨大化させると、それを大上段に振りかぶり、一気に喉目掛けて振り下ろす。


「グルアッッ!!」


 それを待っていた! とばかりに、巨竜が大顎でこちらへ攻撃してきた。だがそう来る事は俺の予想の範疇だ。俺は大顎を回転しながらしゃがんで躱すと、その回転を活かして、巨竜の首を下から斬り上げ、吹き飛ばした。


「ふう…………」


 何とかなったな。天賦の塔の魔物は吸血神殿の魔物同様に、一定時間経つと塔に吸収される。その前に回収すれば、塔の外に持ち出し可能だ。現在塔内の物品は塔外で高値で取り引きされているので、それを目当てに塔に入る者も少なくない。


 まあ、俺はありがたい事に金には困っていないが、オルさんや桂木なんかに出来るだけ魔物の死体を持ち帰るように言われているので、俺は首の飛んだ巨竜の死体を、首ごと『空間庫』へと収納した。このレベルの魔物となれば、色々調べがいがあるんだろうなあ。


「あ、倒す前に尻尾斬り落とすのを忘れていたな。…………ま、良いか。さて、次へと進むか」


 と足を一歩踏み出した瞬間だった。


 カチッ


 何かを踏んだ音がした。こんな戦闘が続くのか。とか、この塔何階まであるんだろう。とか、別の事を考えていたのが悪かったのだろう。俺はあっという間にロープで高木に吊るされ、その木にぐるぐる巻きになっていた。


「そういや、罠もあるんだったこの塔」


 はあ。もうやる気が削がれた。一旦帰ろう。

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