第289話 何をやっているんだか(中編)

「さて、第二ラウンドといこうか」


 俺はアニンの黒剣を体内に仕舞うと、『空間庫』から改造ガバメントを取り出し、無限弾帯を装着し、それを両手で構えた。


「ほう? 中々面白い使用法を考え付くものだな」


 ランドロックは肩に大剣ボンバーモスを担ぎながら、呑気な事を吐いていた。


「それで? 俺の蛾を全て撃ち落とそうとでも言うのかな?」


 だと思うだろ? だが違う。俺は改造ガバメントの照準を、ランドロックから、その後ろで『粗製乱造』を続ける軍人たちへと変更した。


「こいつッ!?」


 今になって気付いてももう遅い!


 ダダダダダダダダ…………ッ!!


 連なる銃声が鳴り響き、改造ガバメントから銃弾が発射される。いくらかはボンバーモスの蛾に遮られたが、『粗製乱造』を繰り返す何人かに命中した。


「この野郎!」


 怒りとともに俺に突っ込んでくるランドロック。俺はそれを右腕からアニンの黒刃を出して受け止める。当然それによって爆発が起こるが、それも想定の内だ。


 ダダダダダダダダ…………ッ!!


 俺は爆発によって多少後退させられながらも、銃撃を続けた。それをさせまいとランドロックが大剣を振るうが、俺はそれを、腕や足から黒刃を生やす事で受け止め、直撃を回避しつつ、更に銃撃を行うのだった。


「卑怯だなんて思ってないよなあ?」


 俺の挑発に、不敵な笑みを浮かべていたランドロックの顔が苦々しく歪む。


「この戦いは、あんたが俺を殺すか、俺があそこで『粗製乱造』を使っている軍人たちを全員始末するかまで続くんだ。ぶっちゃけ、俺はあんたを殺さなくても、あそこの軍人たちだけ倒せれば問題クリアなんだよ」


 俺の言にランドロックは更に顔を歪ませて、怒りの表情とともに大剣ボンバーモスを振り回してくる。


 無駄の多い攻撃は空振りを生み、ランドロックの周りは青く燃える蛾だらけとなっていった。


 ダァンッ! ボゴンッッ!!


 そこに一発銃弾をお見舞いしてやれば、ランドロックは自身の生み出した蛾によって爆発に包まれる。


「誰もあんたを攻撃しないとは、言っていないんだぜ」


 そう口にしてほくそ笑むが、爆炎の中のランドロックの気配は消えていなかった。あの爆発に耐えるのかよ。


 バァンッ!!


 爆炎の中から更に爆発が起こり、爆炎を吹き飛ばす。そして姿を現したランドロックは、二足で直立しているものの、既に死に体と呼んで良いような、黒焦げ姿だった。


「やってくれたな」


 かすれ声のランドロックは、もうボロボロだと言うのに、しかし目が死んでいない。何か策を隠していると考えて、俺はトドメを刺しに向かうべきところを、二の足を踏んでしまった。


「うおおおおッ!!」


 そこで吠えるランドロックは、自身に向けて己が剣を突き刺したのだ。


「なんだ!? 自殺!?」


『いや、違う。あれは禁術だ』


 禁術ってなんだよ!


『私がハルアキと同化するのに使ったものと同種だろう』


 あれか。つまり、あのボンバーモスと同化しようって訳ね。確かに、見ればボンバーモスはランドロックの身体に吸収されていっているのが分かった。


『そうだ。それによって能力の最大値が引き上げられる』


 何で今まで使ってこなかったんだ?


『言っただろう。禁術だと。あれを使えば人にはもう戻れん』


 成程。アニン、お前そんなものを俺に使ったのか。


『そのお陰でここまで生き残ってこられたのだ。文句を言うな』


 いや、言いたくなるだろう。などと口元まで出かかったが、それは身体を襲う衝撃によって、この身ごと吹き飛ばされた。単純に腹を殴られたのだ。距離を取って警戒していたと言うのに。身体が公園の木に叩きつけられ、その木が折れる。


「ゲホ、ゴホ、痛ってえ。マジか、俺より数段速いぞ」


 そう言って見上げれば、俺の目の前には、青い炎に全身を包まれ、背中に燃える蛾のような羽根を生やしたランドロックの姿があった。


 バキンッ!


 次の瞬間には顎をかち上げられ、俺の身体は宙高く浮いていた。成程、あの姿から元に戻れないのなら、最終手段と思って使いたくなかったのも頷けるな。などと思考が変な方向に向かうのを、必死に現実に連れ戻す。


 奴は既に俺の頭上に先回りしていた。両手を握り締めて、大上段に振り上げている。俺はその攻撃に備えて、両腕を前面で交差させ、アニンの大盾を展開する。


 ドゴンッ!!


 凄い衝撃が身体を襲った。ランドロックが大上段から振り下ろした一撃によって、アニンの大盾は爆砕され、俺は地面に叩きつけられた。痛みで息が出来ず、視界が霞んで何も分からなくなり、気が遠くなる。


 ズドッ!!


 そこに追い打ちの一撃が腹に撃ち込まれる。その痛みで逆に目が冴え、自分の腹を見れば、ランドロックの膝が叩き込まれていた。


「ゲハッ」


 血を大量に吐く俺の喉を、ランドロックが左手で握り締め、高く掲げる。息が出来ずに藻掻く俺に対して、ランドロックは右手に青い光を集中させていく。それが爆発源である事は、思考の鈍っている今の俺でも理解出来た。


 ズドドドドド…………ッッ!!!!


 爆発が連続して俺の身体を襲う。爆発に呑まれ、その衝撃と激痛に意識が遠くなっていく。



「はは! 俺も人間を辞めたが、お前も既に人間を辞めていたんだな!」


 俺を左手で掲げたまま、興奮したように口にするランドロック。


「そうだな。これでも死なないなんて、確かに人間辞めているわ」


 俺はそう口にしながら、身体が自己修復していくのを感じていた。吸血鬼ウルドゥラにして『超回復』と誤認させた俺の『回復』は、超高速で身体を修復し、一分程で俺の身体は無傷の状態に戻っていた。


「互いに化け物同士の戦いだったと言う訳か。だがしかし、それが魔力を使ったものであるならば、その魔力が底を突くまで攻撃し続ければ良いだけの話だ」


 そう言う事だな。言ってランドロックは再度右の掌中に青い光を集め始めた。『聖結界』使用から魔力を最大まで回復出来ていない俺では、あんなのを二度も食らえば俺の身体は四散して終わりだろう。それだけは避けたいところだ。ならば、


「第三ラウンドだ。ランドロック」


 俺は不敵な笑みで奴を見下してやった。同時に青い光が俺に叩き込まれた。

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