第287話 第二階層?
上階に着くと、そこは薄暗い教会の中だった。大聖堂と呼んで差し支えない大きさの、
「誰もいませんね?」
俺たちが上に上がってきた事は、アンゲルスタも知っているだろうに、何も仕掛けてこないのが、逆に怖く感じるな。そう思ったのも一瞬だった。
「囲まれているわね」
バヨネッタさんの言に首肯する。全合一で鋭敏になった共感覚が、この大聖堂を囲むように、魔物たちが配置されてるのを感じ取ったのだ。
「倒さないと駄目、ですかね?」
こんな場所で魔物たちの相手をしている暇はないのだ。出来ればさっさと上階に進みたい。
「駄目だろうな」
俺の呟きに返答してくれたのは、武田さんだった。
「どうやらこの階段は、この階までしか来れない仕様らしい。次の階に行きたいなら、他の階段を探す必要があるようだ」
その答えに溜息が出る。
「何でそんな面倒臭い仕様になっているんですか?」
「自陣を敵軍が攻め難いように作るのは当然だろう」
とゼラン仙者に言われてしまった。それは全くその通りなのだろう。これを聞いて俺が思い出したのは、テレビ局は複雑な造りをしていると言う話だ。何でもテロなどで悪用されないように、入り組んだ造りにされているのだとか。まあ、テレビ局に行った事がないから、本当かどうかは分からないが。
「じゃあ、出ますか」
俺たちは何を恥じる事もないので、通路を通って大聖堂の正面入口から堂々と出る事にした。
「それにしても、何で俺たちごとここを壊さないんですかね?」
その方が手っ取り早く俺たちを始末出来ると思うのだが。
「壊さないんじゃなく、壊せないのよ」
と横のバヨネッタさんが口にする。
「壊せない、ですか?」
「階段で上階と下階が繋がっていると言う事は、この塔は初めからそう言った仕組みで作られているのよ。だからこの建物も階段も塔の一部で、壊せば塔自体に深刻な影響を与えかねないんでしょうね。だから壊せない」
成程。
「つまり、俺たちがこの階で探すべき場所は、この大聖堂と同じように、魔物たちが襲ってこない、壊そうとしない場所。と言う事ですね」
バヨネッタさんが首肯する。どうやら合っているようだ。それなら簡単だろう。そう思って俺は、ヤスさんとサブさんが開いた扉から外へと出た。
「何だこりゃ?」
俺の考えが甘かった。塔内部だから、広さはそれ程でもないだろうと軽く見ていたのだが、俺の視界に飛び込んできたそれは、そこらの街と変わらない街並みだった。塔内部だと言うのにビルが建ち並び、上を見上げれば夜空まであり、天頂には月まで見える、何ここ、別世界かな? 下手すれば外の街と同じくらい広いぞ。マジか!? だとしたら直径十キロメートルはある事になる。
「ギシャアッ!!」
が、そんな事に現を抜かしている場合ではなかった。空からガーゴイルのような、背中に羽根を生やした悪魔のような魔物が、早速襲い掛かってきたからだ。それだけではない。地上は数々の魔物たちで埋め尽くされ、俺たちが出てきたのを、待ってました! と言わんばかりによだれを垂らして押し寄せてくる。
だがそれは俺たちにとっては物の数に入らない。鎧袖一触とは正にこの事を言うのだろう。皆が皆、己の武器でもって魔物たちを蹴散らしていく。
「『粗製乱造』で増やした魔物たちですかね」
「そうだろうな。いくら倒しても、経験値が入らない」
そう愚痴をこぼすのは武田さんだ。
「いや、武田さん、俺の後ろに隠れて戦っていないじゃないですか」
「今の俺に戦闘力を期待するな!」
それはそうなんですけど。
「ハルアキ! セクシーマンの世話は勇者たちに任せて、私たちは空から次の階段を探すわよ!」
バヨネッタさんに命令されては断る訳にはいかない。俺はしがみつく武田さんを振り払い、バイバイすると、アニンを黒い翼に変化させて広いこの階層へと飛翔する。
「では私はこちらへ行こう!」
「では私はこっちへ」
「私はあっちへ行くわ」
空を飛べる組のリットーさん、ゼラン仙者、バヨネッタさん、そして俺は、四方へと別れ、それぞれ次の階段を探す。
「しかし本当に広いな」
『そうだな』
こう言う時、感覚が二倍あると言うのは有利なのだろうな。アニンと二人で、第二階層? の広大なフロア探索を開始する。
もしもこの写真を見せたところで、誰もこれが塔の内部だとは信じないだろうなあ。と『粗製乱造』で増やされたガーゴイルや飛竜たちを屠りながら、俺は第二階層を探索していた。
空も地上も魔物たちで溢れかえり、少し進むのも、それらを掻き分けながらでなければいけない。その煩わしさにイライラしながらも、意識は地上に向けられる。
どうやら魔物たちへの命令は簡単なもので、あの大聖堂さえ攻撃しなければ、何をしても問題ないとされているようで、ビルや家を壊して回っていた。これなら、壊していない場所を探すと言うのは簡単かも知れないな。
そう思っていたが、第二階層は広い。更にどんどんと魔物たちが投入されて、視界が魔物で埋め尽くされていく。これでは探索どころではないな。
『先に『粗製乱造』を乱発している者を仕留めた方が早いのではないか?』
「だな」
アニンの進言を素直に受け止め、俺は探す相手を、次の階層への階段から、『粗製乱造』の使い手へと切り替えた。
『粗製乱造』の使い手を探すのは簡単だ。魔物の多い方多い方へとあえて突き進めば、その先にいるのだから。
「見付けた!」
大聖堂から二キロと言ったところだろうか? 緑溢れる広い公園の芝生の広場で、中央に魔物を配置し、軍服を着た十人が、どんどんと魔物を増やしていた。
「なんか、すんげえスピードで魔物が増えていっているんだけど?」
『相当レベルの高い使い手が固まっているのだろう』
だろうね。これは探索相手をこっちに切り替えて正解だったな。とりあえず、こんな戦場で姿を晒しているんだ。死ぬ覚悟はあるのだろうから、死んでくれ。
俺は右手にアニンの黒剣生み出すと、それを握り締め、軍人たちを急襲する。
ガキンッ!!
しかしアニンの黒剣は、一人の軍人の首を刎ねる前に、何者かの横槍によって止められた。
「悪いな小僧! こいつらを殺らせないのが、俺に与えられた命令なんでな!」
二メートルはあろうかと言う軍服のその男は、自身の身長と比肩する大きな剣で、アニンの黒剣を受け止めたのだった。
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